編集者の至福のとき? 本に命が吹き込まれる「あの瞬間」
本づくりの工程で一番ワクワクする瞬間は?
以前の記事「本が企画されて読者に届くまでに編集者がかかわること」でも解説しましたが、一冊の本が読者に届くまでには、さまざまな工程があります。
編集者といっても、タイプは人それぞれ。一人ひとり多様な嗜好を持っているわけですが、編集作業のなかで、誰しも好きな作業工程というものがあります。
企画を考えるのが好きな編集者、原稿を書くのが好きな編集者、はたまた、紙面のラフを切る、取材に行く、撮影をディレクションする、制作チームで話し合う、なかにはExcelのリストをつくる単純作業が好きな人もいます。
そんな多様な編集者、編集作業のなかでも、唯一すべての編集者に共通しているのではなかろうかと思う「ワクワクする瞬間」があります。
それは、「一発目の紙面デザイン」がエディトリアル・デザイナーから上がってくる瞬間です。
紙面デザインがアップされるまでの遠き道のり
さて、本づくりは1枚の企画書から始まります。企画が成立すれば、著者との交渉、構成案や台割の作成、打ち合わせ、取材、撮影、イラストレーターの手配、ラフの作成etc. まさに気の遠くなるような作業が待ち受けています。
長い時間をかけ、本を構成するさまざまな材料を準備し、ようやく本の形が見えてくる最初の一歩が「一発目の紙面デザイン」です。
書籍の場合は、このデザインがベースになり、原稿やビジュアルがそろったレイアウト、いわゆる「ゲラ」をつくっていくわけですが、この時点では、本文の本番原稿は入っていません。見出し(キャッチコピー)とダミー原稿が入っただけの状態です。撮影前にフォーマットのデザインを組むことも多いので、写真やイラストもダミーである場合が結構あります。
ただ、それまでは頭のなかにしか存在していなかった一冊の本が、具体的な形として見えてくるわけですから、毎回、デザイナーから上がってくるたび、テンションが上がってしまうのは、私だけではないはず。
ちなみに、これが紙面のラフです。ここまで来るのに、前述した作業工程を経て、ものすごい手間暇がかかっています(笑)。私は、毎回手書きしているのですが、手書きとは、なんとも前時代的と思われるかもしれませんね。
いろいろなデザイナーの皆さんに聞いたりするんですが、データでかっちりラフをつくられるより、イメージを制限されないため、手書きのほうがよいという方が多いです。
個人的にもラフにちょっとしたニュアンスや世界観を盛り込むのが、手書きだと伝えやすいということがあります。なので、デジタル全盛の時代でも、あえての手書きです(笑)。
中面にもデザイナーのこだわりがある
普段は何気なく見られている本の中面デザインですが、これにも計算され尽くした意図が込められています。
デザイン案は、毎回2~3案作成され、それらを編集チームで協議し、1案に絞ります。そこからさらにデザインのブラッシュアップが始まります。
このとき、ワクワク感マックスで「一発目の紙面デザイン」を受け取るんですが、そこで自分の想像力をはるかに超えたデザインが上がってくると、喜びは最高潮に達します。
しかし、一方で「え?」というものが上がってくることも。このときは、「さて、どうしたものか……」と頭を抱えることになります。が、ここでひとりで悩んでいてもよい結果は生まれません。
あまりにイメージとかけ離れているときは、即、編集チーム&デザイナーと再度の打ち合わせ。このタイミングで意思統一を図ると、大体次で素晴らしいものが上がり、結果は大歓喜となることが多いです。
ちなみに、池田書店さんから1月に発売された「新しい体幹の教科書」のラフから……
一発目がコレ! 2案上げていただきました。
で、このときはA案をブラッシュアップすることに。まだ、もう少し躍動感やインパクトが欲しいというわけで……
ブラッシュアップしたのがコレ! すごく動きのある紙面になりました!
で、最終的に本番のイラストや原稿が入ったのがコレです。
この本のデザインを担当したのは、タイプフェイスというデザイン会社さん。ベストセラーを連発するものスゴい才能を持った方々なのですが、まさにデザイナーさんの手腕は、お見事としか言いようがありません。
いかがでしたでしょうか? デザイナーさんたちの才能は本当に素晴らしいですよね? まさに、本に命が吹き込まれていくようです。
編集者ひとりでは、よい本は絶対に生まれません。陰で支えてくれる素晴らしい才能があるからこそ、一冊の本を、自信を持って世に送り出すことができるのだと思います。
コレこそが本づくりの醍醐味。編集者の至福の瞬間なんです。
文/編プロのケーハク