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実用書の編集者に必要なコミュニケーション力とは?

「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして「①企画力、②コミュニケーション力、③好奇心力、④調査力、⑤憑依力、⑥構成力、⑦深掘り力、⑧文章力、⑨語彙力、⑩図解力、⑪取材力、⑫キャッチコピー力、⑬プレゼン力、⑭プロモーション力、⑮法律力」を、それぞれ大まかにご紹介しました。

この15スキルのうち、「①企画力」と「②コミュニケーション力」の2つが最重要スキルであると、私は考えています。

今回は最重要スキルの一つである「②コミュニケーション力」を掘り下げていきます。

編集者はハブ

本作りのなかで、編集者がゼロから作り出しているものはありません

そのため、「編集者って何をしているの?」と聞かれることがよくあります。

文章は著者やライターが書き、イラストはイラストレーターが描き、写真はカメラマンが撮り、図やデザインはデザイナーやDTPオペレーターが作成します。

編集者の仕事は、このようなプロフェッショナルの方々をつなぎ合わせながら本作りをすること。本作り全体のハブ的な存在が編集者なのです。

これが上記の質問に対する私なりの回答です。

読み物の書籍はほとんどが文字ですから、著者・ライターの力が大きくなります。

そのときでも編集者の役割は重要です。
読者の視点から本作りを進められるからです。

著者には「書きたいこと」「伝えたいこと」があります。
しかし、読者が「読みたいこと」「知りたいこと」と一致していないケースもあります。そのような場合に、著者に相談しながら進めるのです。

また、実用書の場合、著者はその分野の専門家ではありますが、文章のプロではありません。そのため、ライターさんが入るケースがあります。

そのときには、ライターさんを含めて、伝えたい主題をどのようにすれば、読者にわかりやすく印象付けられるかを相談しながら進めていきます

このようなやりとりに、コミュニケーション力が求められるのです。

自分が伝えたいことをわかりやすく表現する力だけでなく、相手が伝えたいことを読み取る力や引き出す力も求められます。

実用書には関係するスタッフが多い

私が編集している実用書は、図、イラスト、写真がたくさん入ります。
文章にプラスして、これらの要素が入るため、かかわるプロフェッショナルの方も多くなります。

著者、監修者、ライター、イラストレーター、カメラマン、デザイナー、DTPオペレーター。さらに、料理レシピ本なら食器やランチョンマットを用意するスタイリスト、健康体操本なら、モデル、メイクや髪型を整えるメイクさん……。さまざまなプロが参加します。

二次元バーコードを利用した動画も見ることができる本ならば、映像ディレクター、映像カメラマン、映像編集者などもスタッフの一員です。

これらの方々とやりとりをしながら、本を制作していきます。関係者が増えれば増えるほどコミュニケーション力が必要になります。

相手の頭の中と、自分の頭の中のイメージを共有させるためには、的確な表現力が求められます。話す、書くを筆頭にした言葉の力や、イメージを伝えるラフを描く力などがその代表でしょう。
もちろん、相手の言いたいことを汲み取る力も忘れてはなりません。

ゼロから作り出すものがない編集者だからこそ、さまざまな場面でコミュニケーション力が必要となるのです。

最終形のイメージが大切

このように多くの方々と意思疎通を図りながら、本作りは進行していきます。

しかしながら、イメージを共有しきれずに、ズレが生じてしまうことも少なくありません。

このズレを可能な限り少なくするために、とても重要なことがあります。編集者が最終形をきちんとイメージしておくことです。

ハブである編集者が相談のたびにブレてしまっていては、本はまとまりません。ぐちゃぐちゃになってしまいます。

だからこそ、本が出来上がる前に、本の最終形をきちんとイメージしておくことが必要なのです。

そのときに大切なのは「理由」です。

どうしてその最終形になっているのか、それがベストと考える根拠を説明できなければ、プロであるスタッフの方々に理解・納得していただけません。

しっかりと理解されずに進めた仕事は、ズレが大きくなるのは当然です。

最終形のイメージを共有する、コミュニケーション力が求められるのです。

もちろん、最終形をイメージしていたとしても、プロと相談しながら進めるわけですから、想定していたもの以上にいい形になるケースも多々あります。

イラストレーターが意図を汲み取り、自分がイメージしていたものより、的確に表現されたイラストが上がってきた例は、枚挙にいとまがありません。

私が考えていたものよりも、カメラマンがわかりやすいアングル・構図の写真を撮ってくださったケースも数えきれないくらいあります。

それでも、編集者が最終形をイメージしておくことがスタートです。それがなければ、プロの方々が、よりすばらしい仕事に発展することはありません。

気持ちよく仕事をしてもらう

気持ちよく仕事を進められる環境作りも重要です。

じつは、これが本作りを進めるにあたり、一番大切なコミュニケーション力かもしれません。

前向きな気持ちで仕事をするのと、仕事だから仕方なく作業をするのとでは、当然クオリティに差が出ます。それも大きな差です。
これは誰もが理解していることでしょう。

だからこそ、気持ちよく仕事をしてもらうことが重要なのです。

これができていれば、途中で多少ズレが生じたとしても、修復することが容易です。

一方、後ろ向きに仕事をしている人に対しては、いくらロジカルにわかりやすく説明できたとしても、いいものは生まれません。
及第点をとるのがいいところでしょう。

環境作りのひとつに、気軽に相談しやすい場を作り上げることもあげるでしょう。

相手が迷っているときに、相談なしにそのまま進めてしまうと、できあがったものがやり直しとなってしまう可能性があります。

その前に気軽に相談できるようにすることも、編集者には求められる力です。

なお、ケンカについては問題ありません。

「いいものを作る」という目標を共有できていて、そのための意見の衝突やケンカならばどんどんするべきです。
反対に、ケンカできずに読者の求めるいい本にならないほうが、よくありません。

ケンカをするにはエネルギーが求められます。「いいものを作る」という情熱を、ケンカすることにも使うのです。

これも、編集者に求められるコミュニケーション力のひとつです。


今回は、「編集者が身につけておきたい15のスキル」のうち、最重要な2つスキルのひとつである「コミュニケーション力」について、ご紹介しました。

次回以降で、残りのスキルもどんどん紹介していきます。


文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

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