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出版業界あるある?(・・・いや私だけ?) 「事故本」発生を左右する、何気ないあのひと言。

こんにちは、マルチーズ竹下といいます。東京のわりあい大きめの出版社で、書籍の編集をしています。今回は、私が過去におかした(?)仕事における大失敗のひとつについて書きます。失敗に大小はないでしょ、ともうひとりの自分が耳打ちしますが、社内外のひとたちを巻き込んだ総量とか、かかった金額の大きさから、これは間違いなく「大」でした。そして、「私の」失敗、なのだけれど、その通りなのだけど、当時抱いた「いやいや“私の”なんですかね・・・・?」とモヤった時間の量も「大」でした・・・・。

おそらく似たようなエピソードは、出版に限らず、いろんな業界や会社で起こっていると思います。この話を読んで、「あー俺のやっちまったケースと似てるわ。俺だけじゃないんだな」と少し安心したり、「こんなこともあるのね、気を付けよう」と将来に備えたり、なんらかのお役に立てればうれしいです。
*誰にとってもぶり返したくはない話だと思うので、特定できないよう、脚色して伝えます。

どんな失敗だったか? →「間違い」を掲載した本をつくってしまったのです。
どんな間違いだったのか? →ある著名な美術家の作品画像を、「逆版」(ギャクハン=左右反転。プリントの場合は裏焼きとも言う)で掲載してしまったのです。
どの時点で気付いたのか? →発売の一か月ほど前、見本本が届き、見直しをしていたとき、です。
その後、どういう手立てを取ったのか? →(そろそろ書きながら胃が痛くなってきました泣) 発売日をずらし、その間、該当ページだけ印刷し直して貼り付ける、業界用語で【一丁切り替え】と呼ばれる手法で本を作り直しました。
作り直しにどのくらいのお金がかかったのか? →すみません、そこは、言えない、でも中古の◯◯くらいは買えるかな・・・・・。

「間違い」に気付いたのは、担当者である私自身でした。「間違い」が思い違いとか勘違いとか夢とかではなく「確信」に変わった時点で、逆版になってしまった原因、理由を探りました。それはいたってシンプルで、作品画像の提供先が、作品を撮影したポジフィルムをデータ化する際、フィルムの裏表を間違えてスキャンしてしまったのです。

「もしや・・・・・提供していただいたデータが逆版の可能性はありませんか?」と、震えながら提供先の担当者に電話で質問したとき、担当者は憮然として即時に否定しました。でも念のため、ポジフィルムに当たって(見直して)みてください、としつこくお願いしたところ、、、、電話の向こうで、相手の顔色が変わるのが見えました。ガーン! やっぱり思い違いとか勘違いとか夢ではなかったんだーーー!!(号泣)

いまや美術作品の画像はデジタルアーカイブされ、「◯◯の作品画像を使わせてください」といえば、データファイルが送られてきます。しかし、長らく美術作品の画像は、カメラマンが撮影し、ポジフィルムというかたちで保管されていたのです。なので「画像を提供する=ポジフィルムを貸す」でした(もちろん、使用後はすみやかに返却します)。
ポジフィルム本体の貸し借りは、貸すほう借りるほう、双方とも緊張します。紛失や破損の危険性があるからです。だから今回も、先方は「自分のところでデータ化」したものを渡す、を条件として提供をOKしました(このケースでは、掲載料のほかに、データ代が発生することも)。

経緯は何にせよ、データを受け取って中身を見た際に、逆版になってることに気付けよ、というハナシなのですけれど、その作品がたまたま過去に発表/印刷物に掲載された機会がほぼなく(=照合が出来ない)、しかも作品のありよう(内容)が、逆版になっていてもおかしくない(=不自然さがない)ものだったんですね・・・・。

ではなぜ私が気付いたのか? 残念ですが、それはここでは書けない(特定されてしまうから)のですけれど、おそらくこの世の中で気付けたのは、私と、作品に最も近いところにいる、あの人とあの人だけだったと思います。そのため、私が作り直しのためにすべての関係者に事情説明をし、謝罪し、発売延期の許可をもらい、社内調整にかけずり回るのを見て「そのまま発売してもよかったんじゃね?(=こんなに大騒ぎする意味はなかったんじゃね?)」と悪魔のささやきをする同僚もいました。

「データ画像、受け取りました。ありがとうございます。失礼とは存じつつ、裏焼き、逆版などの可能性がなきよう、あらためての確認をお願いいたします」

不肖マルチーズ竹下、なぜこのひとことをデータを受け取ったときに先方に言えなかったのか、と何度も何度も反省しました。そう、ひとはどれだけしっかりとして見えても、間違えるもの。うっかりさんを自認する自分が、一番よく知っているはずなのに。提供先担当者のメールや電話での語り口は隙が無く、間違いなど起こしようもない“ちゃんとしたひと”の空気を醸し出していました。そこにすっかり安心してしまったのです。

なんとか作り直しの段取りをつけ終わり、関係者への説明や社内調整にひと区切りついた頃(といってもこの間1.5日ほどですが)、席で死んでいたら「さ、役員室いくぞ」と上司に声をかけられました。ああ・・・・そうだった私は会社員、失敗をやらかしたらそれを“上”に報告し、適切な処分をくだされなきゃならんわけで、、、、、ズラリと並んだ役員さんを前にし、再び上記の説明を繰り返したところ(もうここでほぼゾンビ状態)、
「え、でもそれじゃあマルチーズは悪くないよね? 提供先のミスだよね?」
――と、ワンノブ“上の人”が言ったのですね。
おそらくそのとき、私の顔が、パアアッッッ・・・・とゾンビから人間に戻ったと思うんです。そうです・・・・! 私は先方からもらったデータを使っただけなんです! だから私のせいぢゃない・・・・!!
そんな心の声が聞こえたのでしょう、もうひとりのワンノブ“上の人”が、クールに言い放ちました。
「どんな事情であれ、本が出来上がってしまえば、ミスの責任は担当編集者。どうすれば事前に防げたのか、それをよく考えて」

あまりの正論に、ぐうの音も出ない。。。。。

その後、この失敗の続きとして私はひと月間、神社仏閣巡り(まるでお百度参りのような精神状態で)をするのですが、その話は長くなるので省きます。

些細な(だけど重要な)一言を発しなかったのが原因で、大きなトラブルを招くことがある。たとえウザがられても、確認は何度でもしたほうがよい。――と、学んだ一件です。

文/マルチーズ竹下

東京の出版社で、生活全般にまつわるアレコレをテーマにした書籍の編集をしている。ペンネームは、犬が好きすぎるので。

本づくりの舞台裏、コチラでも発信しています!​​
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