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ある著者と編集者の4年間 ~サッカー書誕生の舞台裏~

こんにちは、実用書の編集者、高橋ピクトです。
今回は担当した本をご紹介したいと思います。

「サッカー いい選手の考え方」
著者はフットボールスタイリストの鬼木祐輔さん。日本代表の長友佑都選手のパーソナルコーチです。フットボールスタイリストとは、あらゆる視点から選手の伸びしろを伸ばすアプローチをするサッカーコーチのこと。

オーソドックスなタイトルな本ですが、内容は個性的です。

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「覗く」「視座」「目的地の認識」「ボールなしペアリング」。
鬼木さんの言葉は、ほかのどのサッカー本でも解説されていない独特なものばかり。しかし、プレーヤー目線でわかりやすい。何より実際にプレーする人たちに響くので、長友選手をはじめ、Jリーガー、多くの指導者や選手から支持を集めています。


「鬼木さんが海外で体験した、最先端のサッカーを伝える」。これがこの本のコンセプト。しかし、一流コーチの考え方を一冊にまとめるのは、一筋縄ではいきません。今回は、鬼木さんと二人三脚でこの本の執筆・編集をしてくれた、フリー編集者の中村僚さんに話を聞きました。

4年前から、二人の企画ははじまっていた。

中村さんにこの企画のスタートを振り返ってもらうと、始まりは2017年。
鬼木さんと中村さんのタッグで制作した「重心移動だけでサッカーは10倍上手くなる」(ロングセラーズ2015年刊)の刊行から2年後、中村さんが「何か新しい企画を立てませんか?」と連絡をしたのが始まりでした。

すると、鬼木さんから「来週からイタリアに行くことになった」と返事があったそうです。長友選手の専属コーチになり、イタリアに移住することになったのです。

2人は、すぐに企画を立てることはできませんでしたが、鬼木さんは海外のサッカーを観て、何か発見するたびに中村さんに連絡をくれるようになりました。

中村さんは当時を振り返ります。
「朝起きたらLINEが50件くらいたまっているんです笑。何事かと思いますよね」
このときから、この本の取材は始まっていたということです。

「トルコに渡った鬼木さんに呼ばれ、海外サッカーを見て回る旅もしました。回ったのは、トルコ、イギリス、ポルトガル、スペイン。サッカー先進国のスタジアムの熱量に驚きました」

「鬼木さんはこの頃からサッカーのプレーだけでなく、海外の言語や宗教に注目して、日本との違いを踏まえて、サッカーを分析していました。これまで解剖学を学んできた人が、文化に着目して指導に生かす。これは鬼木さんならではです」。

中村さんは、鬼木さんのサッカー分析を、一番近い場所で体感していたわけです。

企画をどうまとめるかが、難しい

著者と編集者の4年にわたる企画の構想期間。
これだけ長い時間をかけると、企画にするのは難しいものです。
なぜなら、2人のやりとりによる情報量が膨大だからです。

私、高橋が中村さんから企画を提案してもらったのは、2020年の春のこと。
タイトルは「目的地の認識」。うーん。
鬼木さんが現地でつかんだ体験と独自のワードが凝縮されていて、良書になると思いました。しかし、このタイトルで本当に多くの人に読まれるだろうか? そう考えると疑問でした。

私は、中村さんに「指導者だけでなく、選手に伝わるように考えてくれませんか」と、企画の再考をお願いすることに。
そうして修正された企画が「読むだけで“いい選手”になる本」。「いい選手の考え方」の原型でした。

私は、これならば伝わると確信しました。個性的な内容が、普遍的なテーマに落とし込まれているからです。

中村さんは「“いい選手”という言葉にたどり着いたのが最大のポイントでした。鬼木さんとよく話していたのは、技術が高い”上手い選手”でも、状況に応じた適切なプレーができることは違うよね、と。”最適なプレーができる選手”をもう少しわかりやすく言うとなんだろうと考えていた時に“いい選手”という言葉が浮かびました。これならば、本全体のテーマとしてふさわしいし、より多くの読者に届くはずだと考えました」と言います。

また、「本の”はじめに(導入部分)”が鬼木さんと共有できていたのも大きかったです。個人的に、こういう企画の立て方ができたのは初めてでした。テーマの枝葉がいっぱいある中で、一本の共通する「幹」を思いついたときに我ながらビビッときました」と付け加えました。

ちなみに、本書の「プロローグ」はこんなページ。企画当初に中村さんが書いてくれたラフとほぼ同じものです。

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中村さんは、鬼木さんの言葉をまとめる際、とにかく「目線を下げる」ことにこだわったそうです。ひとつ言葉が出てくるたびに、その言葉の“1個手前”の説明を丁寧にすることを心掛けたそう。執筆の終盤に、新たな節をつくることになり目次が変更になってしまうことも……。自分とは違う視座を持っている人がいることを想像して原稿を書くことが大事だということです。

中村さんは、この本を選手や指導者にぜひ読んでほしいと言います。

「鬼木さんの言葉を聞いてからサッカーをやると、めちゃくちゃ楽しくなるんです。ボールばかりに集中していたのが、誰がどこにいるかがわかるようになる。見える景色が変わって、ミスをしたときも自分で原因がわかるので、トライアンドエラーの目的が明確になります」と。

ライターとして、編集者として。

中村さんは、フリーの編集者でありライターです。
学生の頃はサッカーライターになりたかったと言います。試合を見て、分析をして、ワールドカップの取材をしたかった、と。

しかし、編集プロダクションに入社して書籍の編集者になり、多くの知識を持つ著者の取材を続けていくことで「編集をはじめてから、著者さんがもっているコンテンツを一般の人に伝わるようなパッケージにするのは楽しい」と、考えるようになったそうです。

ライターと編集者、両者のやりがいと難しさを知っているからこそ、4年にわたり鬼木さんとあたためた企画を、誰にでも伝わるような形にできたんじゃないでしょうか。

中村さん、鬼木さん、長い旅、本当にお疲れ様でした。

以上、担当書籍のご紹介でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

#サッカー   #編集者 #私の仕事 #サッカー指導者 #ライター 

文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書を中心に担当。サッカー関連では『サッカー練習メニューシリーズ』『池上正の子どもが伸びるサッカーの練習』『オシムのトレーニング』など指導者向けの書籍を担当。「生活は冒険」がモットーで、楽しく生活することが趣味。ペンネームは街中のピクトグラムが好きなので。

Twitter @rytk84

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