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帯のハナシ 『最高の走り方』について

先日、『最高の走り方』(2019年11月発売、小学館刊)の「書影」のハナシをしましたが、今日はその続きです。

帯、と書いて、オビ、と読みます(そのまんまです)。本のカバーの下のほうに、ペラっと巻かれている、あれです。巻かれた状態を「腰巻き」と呼ぶ人もいます。
 文庫本では、ほぼ例外なく巻かれていますよね。そこには「今年一番泣けると話題!」とか「全国の書店員号泣!」とか「ラスト2ページであなたは頭から読み直したくなる」とか、思わず手に取りたくなる惹句が書かれています。

帯アリ表1_僕たちはもう帰りたい

ちなみに私は、さわぐちけいすけ氏の名作『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社)を、帯に惹かれて購入しました(中でも第六章は傑作。これこそ全国の社畜社員号泣です)。


すべての本に帯が付くとは限らない


当初、『最高の走り方』は、予算の都合上、帯ナシで進めていました。
 帯を巻いた本が増えたことで、帯アリがデフォルトだと思われがちですが、帯にももちろん、お金がかかります。なので、初めて本を出版する著者の作品や、テーマがややニッチ寄りの作品の場合、帯ナシのケースが多いのです。そして、売れればまもなく帯が付いてくる。初版分は帯ナシ、2刷以降は帯アリ、なのはそういう事情なのですね。
 で、本書は最初、諸事情により帯ナシでした。ところが著者が監督を務める筑波大学男子駅伝部が、発売ひと月前に、26年ぶりに箱根駅伝本大会出場を決めたのです。予選会は、2019年10月13日。奇しくもその前日の金曜日が本書の校了日でした(校了日=編集作業を全て終えざるを得ない日)。
 事前の著者へのインタビューで、「今年は無理そうだな」と踏んでいたので、校了段階では本大会のことは一切触れていません。ところが番狂わせの6位入賞! そこで月曜朝イチから取り掛かったのが「著者による『おわりに』と『著者プロフィール』の書き換え」。さらにデザイナーさんには、書影デザインの一部差し替えのオーダーを。全てに「26年ぶり本大会出場」「それを導いた著者による」「最高の走り方メソッドの本」であることを示す一文を加えるのが目的です。

でも売れる要素が生まれれば発売直前に付くことも


 そしてもう一つ、私が向かった先が、会社の制作部と営業部。上記3つの文を全て詰め込んだ帯を巻くべく、その許可と予算を取るためです。いつもならこの手の根回しは時間も手間もかかるものですが、幸いにもこの2部に箱根駅伝オタクが生息していたこともあって(笑)スムーズにOKが! すぐにデザイナーさんに作成してもらい、仕上がったのがこの帯です。

帯アリ表1_「最高の走り方」

 地の色は、メダルを意識して金色に。そして裏表紙側(私たちはここを「ひょうよん(=表4)と呼ぶ)に、著者の凄さをまとめた一文と、帯で隠れてしまった文言を載せました。

帯アリ表4_最高の走り方

いつもはボケっとしていてそこが癒し系と評判の私ですが、この時の動きは素早く的確だった……と自負しています。それもこれも、筑波大駅伝部が奇跡を起こしてくれたから、です。
 購入と同時に剥がされ、捨てられてしまう「帯」というものにもこんなストーリーがあるのです

(文/マルチーズ竹下)

<取り上げた本>
『最高の走り方』弘山勉 著 小学館
◆カバーデザイン=渡邊民人(TYPEFACE)
◆企画・編集=千葉慶博(KWC)

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