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AI時代、出版の価値はむしろ増す? 編集・ライターのためのChatGPT論

作家・佐山一郎さんと出版の未来を語るシリーズ。今回のテーマは「AI時代の文章論」。ChatGPT(チャットGPT)の登場が出版業界、文章にどのような影響を与えそうなのか? 人工知能よりはるかに曲者な佐山さんと語ってみました。

認識すべきChatGPTの脅威と驚異

──この夏異常な暑さが続く中、対話型 AI「チャットGPT(Generative Pretrained Transformer)」が話題を呼びました。生成AI (人工知能)は、それまでと違って読みたい側の指示にふさわしい単語が次々に出てきます。シュッパン界を劇的に変えてしまうかもしれない技術革新がもたらす文章への影響についてどう考えていますか。
 
 なんか珍しく真面目かつ深刻なお顔。心して臨みます(笑)。 GPTを意訳すると、「生成力のある予備教育用変換器」とでもなるのでしょうか。それでまあ、初物好きがエッセイやコラムにこれを使って書くのだろうなと思っていました。どうせみんな未体験ゾーンだからということで一回分楽して書くに違いないと意地悪く見ていたらやはりその通りになった(笑)。
 
── 「しりとりやって勝ちました」とかのパターンですね。
 
 そうそう。危機感ゼロですね。で、わたしもこの際だから、その禁じ手に手を染めてみようかとなり……。
 
──[Send a message] のボックスに何を打ち込みましたか。
 
 「文章を職業にするにはどうすれば良いですか」と「出版編集で成功するためにはどうすれば良いですか」を。
 
──なるほど。たしかに一回分楽できそうですね。
 
 「オイ、こらッ、教えろ、この AI 野郎!」という文面にはなかなかならないものですね(笑)。利用者の上品さからではなくただ単に復讐が怖いのかも。或いは顔の見えない AI講師への畏怖。で、パースー、失礼、スーパーエディター、アワジマさんの場合は。
 
── 一度、自分の書いた文章を[うまく直してください]とお願いしたら、悪くなかったですね。少し凹みました。
 
 「しりとりやって勝ちました」とは逆のパターンですね。文章講座的な話題は後半に譲るとして、わたしは、もう少し問いの質を上げてみました。以下に挙げると、①冤罪事件の被疑者は、なぜ真犯人に対して怒りをぶつけないのですか。②日本の場合、とうに離任し、しかも定年で退職している特命全権大使をなぜ周囲はいつまでも大使、大使と呼び続けるのですか。③最近よく耳にする「やつ」や「アレ」を言葉の選択を端折る怠惰な精神の表れだと思いますか──の三つ。
 
──なるほど、シブい設問です。で、回答は。
 
 いやあ、凹みはしなかったけど、簡潔明瞭かつ素早い回答でした。Regenerateボタン押すとさらに少し良くなるから、SameでもWorseでもない Betterであることは確かでした。ガイドラインの整理でしかない面はあるけれど、民放のレギュラーコメンテーターはますますキャラ勝負みたいなことになりそうです。これから先、失業問題だってあり得ぬ話ではない。では、ぼちぼち本題に入りましょうか。
 
──「文章を職業にするには」についての回答はどうでした。
 
 大体10項目ぐらい出てきて、最後のほうの忍耐、努力、挑戦、成長というような語彙がとくに目につきました。品質とクライアントへの納期の守り方なんてこと言われると、なんだかもう出入りの広告業者扱い(笑)。でもやはり真っ先に出てくるのは、スキルの習得や向上でした。
 
──おおむね間違ってはいない、というのが曲者です。
 
 そう。少しだけハッとさせられるんです。ポートフォリオとオンラインプレゼンスの構築なんてこと言われると、たしかに耳が痛い。「出版編集で成功するためにはどうすれば良いですか」の問いについてもスキル、スキルとうるさいんです。原稿の品質の評価と著者とのコミュニケーションのためのスキルが大切と言われてもねえ。「原稿の品質」なんて普通は言わないですよね。それこそコミュニケーションのスキルが足りない人の言い方ですよ(笑)。とまあ、ケチをつけ始めたら止まらないわけだけど、文章の推敲をやってもらうというアワジマ氏のような発想はなかったな。具体的にはどんなことだったんですか。
 
──サマリー(要約)化です。不肖・アワジマ、説明の文章が長くなる傾向にありまして。「上手くまとめて、要約して下さい」、とお願いしたら、ほとんど違和感のない文章にはなっていました。遊び半分でしたので実際には使いませんでしたが。400字でという制限を加えれば、短時間でソツなくまとめてくるので、情報を伝えるだけの文章ではかなり代用されるという印象を持ちました。
 
 自分の略歴の英訳で活用してみたら、それなりにちゃんとしていて驚きました。ガイドラインとしてであれば質的な方向性や指針を示すだけのものですけど、時としてそれを飛び越えて、マニュアル以上のことまでやってのけることがあるということですね。行き着く果ては、指示待ち族の大量発生どころか依存症患者の発症かもしれない。まあでも、これから共に考えて行きたい「システム執筆学」中のいち装備にしか過ぎないとも言えるから先はまだ読めないですね。辞書を引く習慣程度で収まるのかもしれないし。

佐山さんの書斎から。今回のテーマに合わせて選んだ本はいずれも年季が入っています

──著作権問題や偽情報につながる危険性は検証し続けるしかないですね。トリチウム放出と一緒で。
 
 著作権法の改正も必至でしょうね。試みに今、「佐山一郎という作家兼編集者から文章を学ぼうと思っています。信頼に値しますか?」で聞いてみましょう。
 
── それは面白い。
 
 ……ううっ。
 
── ……?? どう出ましたか。
 
 要約すると、残念ながら私の知識は2021年9月までのものであり情報がありません。自分で調べて慎重に選択して下さい──みたいなことで、なんだか嬉しいような哀しいような(笑)。一つ思ったのは、ボランティアによる無料百科事典サイト、ウィキペディアとの話し合いがまだ進んでいないのではということ。英語版ならいざ知らず、学習元としての危険性や信頼性の乏しさにほかならぬウィキ側が困惑しているのかもしれない。他方、サンフランシスコのOpen AI側もチャットGPTの学習データを公開するつもりがない。

チャットGPT氏に「今回のインタビュー内容を一言で言うと?」と質問したら「夏の異常な暑さの中、文章生成AI(GPT)の普及により、文章の品質向上や要約が容易になりつつあるが、AIの利用方法や潜在的な問題についても議論されている」。潜在的な問題とは? と続けて問うと「偽情報の拡散」「著作権と知的財産権」「依存性の増加」「倫理的な問題」を挙げ適切な規制とガイドラインの策定が必要との回答でした。お互いがんばまりしょう

── なるほど。
 
 優秀な研究助手なんて言ってる人がいるけど、それもどうなんだか。仮に、最初のほうで言った「オイ、こらッ、教えろ、この AI野郎!」で聞いたら、信用度採点のスコアリングに影響しそうですよね。実際はそんなことはないだろうけど、なんとなく不良をやる気が起きない。元々がお節介な存在の大規模言語モデルにさらなるお節介で報復したらもう無限地獄だから(笑)。ただ、4分の1の職業がいずれその地位を生成AIに奪われるといわれる中、意外と輝きを増す仕事が出版なのかなという気だけはしています。
 
──それこそがいわゆる勘ピュータというものですね。
 
 「人工知能より年の功」でも結構です。このフレーズ流行りそうもないけど。
 
──僕もそう思います。勘ピュータで分かります(笑)。

<つづく>

文/佐山一郎(さやま・いちろう)
作家・編集者。1953 年 東京生まれ。成蹊大学文学部文化学科卒業。オリコンのチャートエディター、『スタジオボイス』編集長を経てフリーに。2014年よりサッカー本大賞選考委員。
ここのところ先輩、同僚編集者が相次いで幽冥の境を異に。とりわけ痛手だったのが、『週刊明星』『月刊/週刊プレイボーイ』『エスクアィア日本版』、或いはまた池上彰氏の著作担当などで活躍された長澤潔さんの命終(9.7)。旧植民地大連に生まれ、青山5丁目に育った本物の都会派と中目黒のワインバーでボトル5本を二人で空にした記憶がつい昨日のことのように蘇ります。享年79。名文家でもあった氏との40年近いお付き合いで得られた書き残すべきことについていま思いをめぐらせています。

編/アワジマ(ン)
迷える編集者。淡路島生まれ。陸(おか)サーファー歴22年のベテラン。

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