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私たちが横になるときに「脳の認知」が変わることの深遠な意味とは?【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.144】

枕元でする蚊の羽音にイライラするあなた。羽音が止む。かすかにチクッと刺された感触がして、標的の位置を特定する。

単純な場面ではあるが、複雑な処理が求められる。あなたは見てもいないのに、蚊の居場所をどう突き止めたのか?

人体は2平方メートルほどの肌で覆われているが、あなたは見もせずにどういうわけか、この華奢な捕食者の正確な居場所をわかっていた。その後に目視確認すると、あなたの手は“犯罪現場”に直行しており、蚊に致命的な一撃を加えていながら、自らは傷つけていなかったのだ。

横たわると脳の認知が変わる?

神経科学しかり、科学のあらゆる分野が世界中で著しい進歩を見せているものの、認知や思考の仕組みは未解明のことだらけだ。ヒトの基本的な感覚の一覧ですら、まだ議論の余地があるほどだ。

従来の五感だけでなく、平衡感覚もとうの昔に含まれているべきだったと主張する学者も多い。

マクマスター大学の研究者は最近、ヒトの認知の“ひだ”とでも言えることを明らかにした。この発見によって私たちは、平衡感覚がどう機能し、それが私たちの認知にどれほど寄与するのかをさらに学べるようになるだろう。

その“ひだ”とは、私たちが横たわるとき、脳は外界にまつわる情報への依存を控え、触覚によって引き起こされる内的な認知への依存を増すらしいということだ。

この発見は、過去20年ほど続けている、「両腕交差」実験で示されたものだ。

被験者が両腕を交差した状態で、両親指をそれぞれバイブレーターに接触させる。そこでどちらかのバイブレーターが作動し、その振動が右手に来ているのか左手に来ているのかを判別してもらうという実験だが、その判別はなかなか難しい。

ところが驚いたことに、被験者が目隠しされるとその判別能力は向上する。目隠しによって外的表象は薄れ、その代わりに、私たちの内的な身体中心の認知が支配的になるからだ。

身体が教えてくれる?

今回の発見でさらに知りたくなったのが、人体の前庭系が認知全般の形成において果たしていると思われる役割だ。

私たちの内耳には、私たちが海から進化してきたときに一緒にもってきた“海”が少しばかりある。私たちはそれを持ち歩いて重力を判断し、どっちが上なのかを把握できるのだ。このシステムに問題があると、目まいなどの不調が起きることがある。

私たちが横たわるときに脳が基準を内的な認知に転換するということは、脳がわざと前庭系を弱めていることを裏づけるものであり、私たちの通常の認知に寄与する前庭系の重要性を浮き彫りにするものでもある。

だが、前庭系がほかの感覚からの入力にどう影響するのかをめぐる研究は驚くほどなされていない。

今回の発見で示唆されるのは、前庭系がほかの感覚においてさえも認知を形成するということだ。

ここで提起される問いは哲学的なものに接近していく。私たちは身の回りの環境をどう認識しているのか? 意識の構成要素とは何なのか?

私たちは自分の身体を当たり前のように思い、私たちを運ぶ機械のように見なしているかもしれない。だがじつは私たちの身体そのものが、世界に対する私たちの認識・理解の仕方を形成しているのだ。

次に横になるとき、そのことについて考えてみてはいかがだろうか。

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