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DXの本質的解説書「アフターデジタル2」

こんにちは、ナカムラです。今回は「アフターデジタル2」という書籍を紹介したいと思います。

2019年に出版され、大きな反響を生んだ「アフターデジタル」の第2弾。著者である藤井保文氏は、ビービットの東アジア責任者として中国・台湾を拠点にされており、中国におけるビジネス進化をリアルに体験されています。

中国の最新事例が豊富に掲載されており、事例を読むだけでも「ここまで来てるのか…!」という驚きと未来へのワクワク感を感じられると思いますし、実務者としても学びの多い書籍です。

今回は、今まさに中国で確立されつつある「アフターデジタル型産業構造」の全体像と、アフターデジタルという世界観における重要ポイントをまとめてみたいと思います。

1)アフターデジタル型産業構造

まず「アフターデジタル」って何?というところから解説します。

これまでの社会を「ビフォアデジタル」な社会とすると、

ビフォアデジタル=リアルを中心に据えて、デジタルを付加価値と捉える

という考え方になります。このリアルとデジタルの主従関係を逆転させた考え方がアフターデジタルというコンセプトです。

アフターデジタル=デジタルを中心に据えて、リアルを付加価値と捉える

そんなアフターデジタルな世界における産業構造を「アフターデジタル型産業構造」と呼び、この構造変化はすでに中国で進行しつつあります(下図参照)。

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(画像は本書内「図表1-3」から抜粋)

決済プラットフォーマーがペイメント(支払い)を押さえることでユーザー接点と包括的なデータを獲得し、もっとも顧客理解の解像度が高いポジションを確立しています。

そして、各業界のサービサーがユーザーに対して、体験を通じた価値を提供し、メーカーは最も下層に位置するような形になっています。

ここで、特に①決済プラットフォーマーと②サービサーが具体的にどんな動きを取っているのかを見ていきたいと思います。

①決済プラットフォーマー
中国の決済プラットフォーマーといえばアリババとテンセントの2強です。

個人的には「同じようなサービスで覇権争いをしている超巨大企業」というイメージを持っていたのですが、面白い違いと共通点があったので図にまとめてみました。

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アリババは「アリペイ」、テンセントは「WeChatペイ」というペイメントサービスを有しており、どちらも10億人近いユーザーを抱えています。

ここで注目したい点は、どちらもビジネス領域を業界カテゴリではなくミッションによって規定している点と、そのミッションが随所に反映されている点です。

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このように、アリババもテンセントも、「決済機能を提供しよう」というよりは、それぞれのミッションとケイパビリティを活かして決済プラットフォーマーとしての地位を確立していったわけです。

その上で、今度はその圧倒的なユーザー数とデータを武器に、他のサービサー達をサードパーティサービスとして自陣営に取り込み、提供価値とマネタイズを拡大しているのが現状です。

日本でいうLINEのようなスーパーアプリと、そこに連なるミニアプリがまさにこの構造に当たります。

(補足)WeChatペイの「送金されても受け取らないと入金されない」という仕組みは、リアル世界での「とりあえず財布だけ出して支払う意思を示す」という所作をデジタルで実現していて、そこにコミュニケーションが発生する余地を作っています。

②サービサー
続いて、サービサーの動きです。

これは、ユーザーとの接点を持ちにくいメーカーや成約型ビジネスが、サービス化することで顧客との定常的な接点を構築しているというのが大きな潮流です。

日本でもSaaSやMaaSといったXaaS(Xのサービス化)が増えていますよね。あれです。

中国のサービサーは提供するサービスに特徴があり、

・ペインポイントを解決する便利系サービス
・ライフスタイルに新たな意味をもたらすサービス

の二方向に拡大しています。

この2つの区分は、山口周さんの『ニュータイプの時代』で示されている、

役に立つブランド=機能的便益
意味があるブランド=自己実現便益

に合致する概念として紹介されています。

例えば、NIOという中国の次世代EVメーカーは「鍵を渡してからが仕事」と考え、600~700万円の電気自動車の販売額を、その後のライフスタイル提供型会員サービスに対する会員費と捉えているそうです。

具体的には、

①NIO Power(充電関連)
②NIO Service(メンテナンス・サポート)
③NIO House(会員用ラウンジ・イベント)
④NIO App(コミュニケーション・EC)

といったサービスを提供しており、①②がペインポイントを解決する便利系サービス、③④がライフスタイルに新たな意味をもたらすサービスに該当します。

これによってNIOは顧客から高いロイヤリティを獲得しています。すると、NIOユーザーは何かを購入する時に、NIOのECで購入する、という行動をとります。

NIOのサービスを体験している間に「ついでに購入する」というようなイメージです。これをコマースの偏在化と呼びます。

日本でいえば「クラシルのレシピ動画を見ているユーザーが、クラシルでミールキットを購入する」というのもコマースの偏在化と言えます。「テスラファンがテスラが出したコーヒー豆を買う」というような、まったく関係ない商品でも買ってしまう行動もあります。

中国では、こうしたサービサーが次々と台頭してきており、その状況を読んでサービサー向けのtoB支援を行うプラットフォームビジネスも生まれているようです。

以上が、中国を例にした「アフターデジタル型産業構造」でした。

2)アフターデジタルの要点

そんなアフターデジタルな世界が日本でも実現していくのでしょうか。本書では、

日本の決済プラットフォーマーは中国の2強ほど強くならないが、サービサーとメーカーの関係性は日本でも同様になっていく。

とされています。

そこで生き残っていくためにはどうすればいいのか、という話ですが、ここが本書の肝になります。

アフターデジタルの世界において、何よりも重要なことは「UX(ユーザーエクスペリエンス)」です。

先ほど紹介したいずれの事例も、ユーザーの体験価値を高めることでデータを取得し、それを使ってさらに体験価値を高め…ということを繰り返す中でビジネスを成長させています。

「DXだー!」「デジタル化だー!」という流行り言葉に惑わされずに、まずはユーザーを理解すること。その上で、ユーザーの体験価値を高めるためのアクションを、デジタルという手段に囚われ過ぎずに、デジタルとリアルの強みと弱みを理解して設計していくべし、というのが本書のメインメッセージです。

藤井氏は、これを実現する企業に必要な「精神」と「能力」のことを、併せてUXインテリジェンスと呼んでいます。

【精神】
1)人の社会行動を変えうるアーキテクチャを設計していることを自覚する。
2)これを悪用すること=テクノロジーによる社会発展の停止と認識する。
3)データは金儲けではなく、ユーザーとの信頼関係構築を最優先する。
4)「多様なジャーニーの中から最適な生き方を常に選べる」という社会の選択肢として自社を位置づけ、新しい世界観を持って事業を構築する。

これは、アフターデジタル的な活動の及ぼす影響範囲の大きさを踏まえた時に、各企業が持つべき倫理観と言えますね。

【能力】
=UX企画力(プランニング力)
全体像:バリュージャーニーを作るUX・データ・AIのループ
基礎ケイパビリティ:ユーザーの状況理解力
ケイパビリティ1:ビジネス構築のためのUX企画力
ケイパビリティ2:グロースチーム運用のためのUX企画力

バリュージャーニーというのは、データをUXに還元する基本構造のことを指します。要するに、

①ユーザーに体験価値を提供
②ユーザーの行動データを取得
③データをAIで解析し、次の体験価値へ還元

というループそのものが、バリュージャーニーです。

このループを回す上で出発点となるのがユーザー理解です。ユーザーの理解なくして体験価値など作れるわけがない、という話ですね。

そして、ケイパビリティ1は個のスキル、ケイパビリティ2は組織のスキル、というイメージです。

特にケイパビリティ1(ビジネス構築のためのUX企画力)は、実現したい世界観を作り、それを体験に落とし込むサービス設計力を指します。

企業のミッションに根ざした実現したい世界観を描くコンセプトメイキングと、それをテクノロジーを駆使して体験化するエクスペリエンスデザインの複合技が求められる、ということです。

…と簡単にいいますが、細分化するとやるべきことは多岐にわたるので、それぞれの領域に特化した人材がチームを組んで初めて実現するものではあります。(↓アクションを分解した例)

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3)最後に

バリュージャーニーという概念は、ニューヨークのエージェンシーR/GAが数年前から標榜しているConnected Brandという概念と非常に近いです。

【Connected Brand】
1. アクティブパーパスを定義
2. 革新的なプロダクトで価値創造
3. インターフェースとエクスペリエンスでブランド体験を生む
4. すべてをエコシステムで繋ぐ
5. ユーザーをメンバーにする

この概念においても、ユーザーへの体験価値と引き換えにデータを取得し、そのデータを元にさらなる体験価値を創出したり、コミュニケーションを活性化することを目指しています。

バリュージャーニーにせよConnected Brandにせよ、アフターデジタルな世界に進んで行く上では絶対に無視できない思考体系だということを改めて認識できました。

この手の話は、事例をいくつかインプットしないと全容が見えてこなかったりもするので、是非本書の事例に触れてみて下さい。

以上、DXの本質的解説書「アフターデジタル2」 でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

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