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常識を“科学”で覆す「ブランディングの科学」

こんにちは、ナカムラです。今回は「ブランディングの科学」という書籍を紹介したいと思います。

原題は「How Brands Grow: What Marketers Don't Know」という非常に攻めたタイトルで、本書内でもコトラー派を徹底的に批判しています(笑)

ただ、私が驚いたことは(その荒々しい書きっぷりを除けば)本書の主旨が「確率思考の戦略論」の内容とほぼ一致していることです。

このnoteでは、洋書である「ブランディングの科学」を理解しやすくするために、「確率思考の戦略論」との対比から大枠を説明していきたいと思います。(↓のnoteを読んでからこのnoteを読むとより理解が進みやすいと思います)

1)「確率思考の戦略論」と「ブランディングの科学」の共通点

まず、簡単に「確率思考の戦略論」のポイントをおさらいします。

核となる概念は「消費者のプレファレンス(好意度)が、各ブランドの購買確率を決定している」というものでした。

そしてこの法則は、NBDモデル(正確にはNBDディリクレモデル)という数式によって成立しています。

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細かい理解は置いておいて…この数式から、購買確率(P)はMとKによって決まることが分かります。実はKもMによって定まるので、結局はMによって購買確率が決まると言えるため、Mを増やすことがポイントになります。

Mは「すべての消費者が自社ブランドを選択した延べ回数」を「消費者の頭数」で割ったもの、つまり1人当たりの選択回数を意味しますが、これを増やす戦略は大きく2つあります。

・プレファレンスの水平拡大(新規顧客の獲得)
・プレファレンスの垂直拡大(既存顧客の頻度増加)

(↓図で補足)

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上図は、市場に10人の消費者のみが存在すると仮定した時の、Mの変化を表したものです。「確率思考の戦略論」では水平拡大(新規顧客の獲得)の方が成功確率が高い、とも言われています。

ここまでの話をまとめると、次のようになります。

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ここに、「ブランディングの科学」の主旨を当てはめるとこうなります。

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どうでしょうか?きれいに対応関係が見えると思います。異なる言葉が使われているので、言葉のすり合わせをしてみたいと思います。

NBDディリクレモデルとダブルジョパディの法則
1)~3)の論拠として、前者はNBDディリクレモデル、後者はダブルジョパディの法則を用いています。ダブルジョパディの法則とは、

「浸透率と購入頻度には正の相関関係がある」

という法則です。浸透率=ある期間の顧客数のシェア、購入頻度=1人当たりの購入回数を指します。顧客が多いと、購入される回数も増える(逆もまた然り)ということですね。

実はこれ、NBDディリクレモデルとほぼ同じ法則なのです。浸透率が上がる=顧客数の増加、と言い換えることができ、購入頻度はそのままMと同じ意味を指しているため、下図のような関係になります。

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どちらも「顧客が増える→購入頻度が増える→ブランドの購買確率が上がる(成長する)」ということを主張しているのですね。

「ブランディングの科学」では、最後の章で「本書で紹介した法則の多くをNBDディリクレモデルで予測できる」と述べられており、まさに上記のような関係になっているわけです。

新規顧客の獲得を優先する理由
4)~5)ではどちらも新規獲得を優先していますが、その理由に若干違いがあります。「ブランディングの科学」の理由に着目してみます。

シェア拡大のポテンシャルが大きい/離反を抑えることはコントロール不可

自動車市場を例にとって説明します。自動車市場では、大体の企業が毎年売上の半分を新規、残り半分を既存でまかなっています。この場合、(1)既存の維持と、(2)新規の獲得のどちらの方がポテンシャルが高いかを、下図で表わしてみました。

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(1)既存維持の場合、A社が獲得できるマーケットシェアは、自社のシェア10%の半分に当たる5%です。一方で(2)新規獲得の場合は競合ブランドも半分の顧客離反が起こると考えられるので、最大で50%までポテンシャルがあることになります。

そもそも顧客離反率をゼロにすることはほぼ不可能なので、新規獲得による売上拡大の方が可能性が高いことが分かります。

また、顧客離反率においてもダブルジョパディの法則が成り立つことから、マーケットシェアを拡大することなく離反率を下げることは困難である、と結論付けられています。(これは「そもそもシェアを取れるほどの魅力がブランドになければ離反率も下がらない」と解釈しても良いです)

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打ち手のレバー
最後に、6)の対応関係を説明します。非常にシンプルです。

・メンタルアベイラビリティ=認知+プレファレンス
・フィジカルアベイラビリティ=配荷

メンタルアベイラビリティとは「想起の高さ」を意味しますので、認知+プレファレンスとほぼ同義になります。フィジカルアベイラビリティとは「購買機会の多さ」、つまり購入できる場所の多さを指すので、配荷と同義になります(ECなども含まれます)。

以上が「確率思考の戦略論」と「ブランディングの科学」の共通点になります。ここからは、「ブランディングの科学」に焦点を絞って紹介していきます。

2)誰を狙い、どう戦うべきか?

誰を狙うべきか?
一般的には、ヘビーユーザーや熱狂的なファンへの投資を厚くし、またそのようなユーザーに類似する一部のユーザーをターゲティングしていくのが王道と考えられていますが、本書ではライトユーザーや何となくブランドを選んでいる人たちを重視し、顧客基盤を拡大すべき、と述べられています。

理由の1つは、パレートの法則にあります。パレートの法則とは、上位20%の顧客が売上の80%を作るという法則ですが、多くのブランドの実態としては売上の50%~60%に留まっているそうです。

つまり、残りの80%のライトユーザーや平均的なユーザーが半分近い売上を作っているということです。しかもヘビーユーザーと比べるとブランドへのロイヤリティは低いので離れやすい人たちであるため、この層に投資をすべきである、という話なのです。

また、ユーザー拡大の方法についても「確率思考の戦略論」と同じ理論が登場します。ターゲティングによって狭い消費者だけにアピールするのではなく、顧客基盤を拡大するためにターゲティングを活用すべしという「コア&モア戦略」と同じ主張がなされています。

どう戦うべきか?
マーケティングの世界では「差別化せよ!」ということが決まり文句になっていますが、本書では差別化は必要なく、独自性の追究が重要であるとされています。

より正確にいうと、「消費者に差別要素を認識させる必要はなく、独自性を記憶させることが重要である」となります。調査によると、差別要素の認識と購買行動には相関がない一方で、独自性はメンタルアベイラビリティ(想起の高さ)に繋がることが根拠として挙げられています。

ブランドが独自性を持てば、消費者は商品について考える必要も、商品を探し回る必要もなくなる。知らず知らずのうちに生活が快適になる。この消費者ベネフィットは差別化によってもたらされた消費者ベネフィットとは大きく異なる、本質的な価値である。(本文抜粋)

メンタルアベイラビリティの高いブランドは、ブランドエクイティが強いブランドです。ブランドエクイティはブランド認知、ブランド連想、知覚品質、ブランドロイヤルティ、その他資産の総和です。よく知られ、連想されやすく、品質が良いと認識され、愛されるブランドになるには、差別化よりも独自性(ユニークさ)が大切ということです。

3)広告の在り方

本書では、ここまでの考え方を戦術として落とし込んだ時、広告の在り方はどう変わるかを1つの図で表わしています。

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これは、以前『人を突き動かすものは何か?ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』というnoteで紹介した「ゴールデンサークル」の概念に合致します。左側はHowやWhatに寄っていますが、右側はWhyによって感情を揺さぶることに主眼が置かれています。

●ゴールデンサークルとは
Why…「なぜやるのか」=目的、主義、信念。
How…「どうやってやるのか」=差別化要素、独自のプロセス。
What…「なにをするのか」=商品やサービス、個人の活動。
この3つをWhy→How→Whatの順で伝えることで人は動くという理論。なぜなら、感情と意思決定を司る脳の領域がWhyに対応しているから。

ちなみに、セイリエンスとは「想起されやすさ」を指すのでメンタルアベイラビリティとほぼ同義です。「顕現性」や「突出性」などと訳されます。

4)最後に

本書に「洗練されたマスマーケティング」という言葉が登場します。潜在的なブランド顧客に広くリーチし、顧客基盤を拡大するためにはマスへのアプローチが欠かせないが、大雑把にマスを捉えるのではなく、戦略的にマスを攻略していく、という意味合いです。

一時期「スモールマス」という言葉が流行りましたが、個人的には「洗練されたマスマーケティング」の方が芯を食った言葉で、心に残ったので紹介させていただきました。

洋書のまとめは少し骨が折れましたが、「確率思考の戦略論」を読んでいたおかげでかなり軽減されたと思います。(森岡毅さんに感謝です)

以上、常識を“科学”で覆す「ブランディングの科学」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ


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