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記号学の体系書「イメージと意味の本」

こんにちは、ナカムラです。今回は「イメージと意味の本」という書籍を紹介したいと思います。

今回もデザイン関連で、テーマは「記号学」。詳細は後ほど紹介しますが、デザインを論理的に理解したり分析したりする上で非常に役に立つ知識(らしい)です。

デザインに触れた時に得られる感覚やイメージが「なぜ生まれるのか」が理解できたり、どうすれば意図した通りにメッセージを伝えられるのかを考える助けになります。

このnoteでは、記号学の全体感と、デザインとの関連性に焦点を当てて説明したいと思います。

1)記号学とは

「記号学」をざっくり説明すると、

世の中のモノや言葉、あるいは行動が示す「意味」を対象に、その成り立ちや仕組みを研究する学問

となります。

「記号」って「!」や「?」のことじゃないの?という方もいると思いますが、記号学では「何かしらの意味を持つすべてのモノやコト」を対象としていて、とてつもなく範囲が広いです。

それが故に、

学問としてのまとまりがなく、何をもって確実に記号学とするのか誰も分からない(本書「おわりに」参照)

らしいです。なので、上記のようなざっくりしたイメージで捉えてもらえれば良いと思います。

その上で、もう少し理解を深めていきます。

先ほど、「意味の成り立ちや仕組みを研究する学問」という表現をしましたが、それがどういうことなのかについて説明したいと思います。

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突然ですが、この絵の中のリンゴは何を意味しているでしょうか?

いかがですか?この絵はルーカス・クラナハの『アダムとイヴ』で、リンゴは知恵の実を表しています。蛇の姿をしたサタンからの”誘惑”に負けてリンゴを口にした二人は、楽園から追放されてしまいます。

この話で興味深いのは、聖書には「リンゴ」の記述が存在しないということです。にも関わらず「知恵の実(=誘惑)」を表す果実は「リンゴ」である、という前提の認識が我々の中にあるがゆえに、この絵はコミュニケーションとして成立しているわけです。

この例でいう「リンゴ」を「意味するもの(シニフィアン)」、「誘惑」を「意味されるもの(シニフィエ)」と呼びます。

この2つが、記号を構成する要素です。そしてこの2つの関係性によって、記号は3種類の形式に分かれます。

・アイコン(類似記号)
・インデックス(指示記号)
・シンボル(象徴記号)

アイコンは、意味するもの(シニフィアン)と意味されるもの(シニフィエ)が似ているものを指します。

「おばたのお兄さんのモノマネ」と「小栗旬」のような関係です。絵文字なんかもまさにアイコンですね。

インデックスは、意味するもの(シニフィアン)と意味されるもの(シニフィエ)の間に因果関係的なものがある記号を指します。

「煙」と「火事」のような関係です。

シンボルは、上記2つに当てはまらない意味するもの(シニフィアン)と意味されるもの(シニフィエ)が結びついているものを指します。

「天秤」と「正義」のような”伝統的な象徴”っぽいものから、「白旗」と「降参」のような偶然の産物まで様々です。

何となく、記号学の雰囲気がつかめたでしょうか?こんな風に「記号」を分類・体系化することも記号学の役割ですが、次はもう少し実用性の高い側面に触れてみましょう。

2)意味をつくり出す方法

記号学で研究されていることの中に、「即物的でない意味の作り方」というものがあります。つまり、文字通りの意味とは異なる”意味”を表す手法のことです。

例えば、「プロレス」を「スポーツの一種」と捉えた場合、それは即物的な意味と言えますが、「見世物の形をした道徳物語」と捉えた場合、即物的ではない意味を持ちます。(勧善懲悪の童話に近い存在)

このように、即物的でない意味は受け手に発見をもたらします。記号学ではこのような「即物的でない意味の作り方」を体系化しており、これがコミュニケーションデザインに非常に役に立つのです。

少し例を紹介します。

直喩(SIMILE)
身近な方法として「直喩」があります。ある物事を別の物事になぞらえる手法です(ex.「アリのように働き者だ」)。これによって、受け手に対して具体的なイメージを湧かせることができます。

直喩は、2つの違うもの(XとY)を結びつける属性がハブとなることで成立します。例えば「おたま」を思い浮かべると、どんな属性がありえるでしょうか?

・半球形
・長い柄
・銀色

こんな感じですかね。半球形に長いものが付いてるものって何か無いかな…と考えた時に、例えば「ネッシーに似てない?」となればこんなアイデアにつながるかも知れません。

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こんな具合に、既存のモノやイメージの属性に着目することで、新しいアイデアのヒントが得られるのが直喩の優れる点です。

以前noteで紹介した「アナロジー式アイデアスケッチ」がまさにこれです。

隠喩(METAPHOR)
直喩に似た概念に隠喩があります。直喩の場合、XとYは似ているものでしたが、隠喩の場合は似ているわけではなく、特定の資質を共有している場合を指します。

例えば、品質にこだわり抜いた商品のプロモーションをするとします。「本物志向の人に選ばれる商品であることを伝える」ために「木村拓哉さんを起用する」という場合、これは隠喩が働いています。

意味するもの(シニフィアン):木村拓哉
つなぎ目となる概念:本物志向
意味されるもの(シニフィエ):商品

こんなイメージです。

他にも、換喩、提喩、皮肉、嘘、不可能性、描写、表象といった概念が紹介されているので、是非手にとって読んでみて下さい。

3)最後に

この本を読むにあたって、2つの注意点があります。

①「おわりに」を最初に読むこと
②世の中のデザインやコミュニケーションを具体的に想像すること

です。

というのも、目次を読むと「なんだか便利な知識がズラッと並んでいて、どんどんインプットできるのでは!?」という気持ちになってしまうのですが、途中でも書いたとおり未完成な学問であるからか「…で、何が言いたいんだ…?」となる箇所がとても多いです。

なので、一度「おわりに」を読んで「記号学ってそういうものなのね」と期待値を下げた上で、具体的なデザイン例を想像しながら「あれのことかな?」と自分なりに腹落ちさせながら読み進めると良いと思います。

そうすると視界がクリアになってくるので、これから読まれる方は(私の屍を超えて)上記を参考にしてみて下さい。

以上、記号学の体系書「イメージと意味の本」でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

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