見出し画像

第79回ヴェネツィア国際映画祭 作品紹介 オリゾンティ部門

『Obet' (Victim)』ミカル・ブラスコ(チェコ)

ウクライナ移民のイリーナは人種差別的な社会の中で正義を求め、家族と真実の間で引き裂かれていく

 チェコの新人監督の作品です。前作『Atlantis, 2003』(2017)がカンヌ映画祭シネフォンダシオンに出品され、カルロヴィ・ヴァリ映画祭の新人部門にも選ばれています。
 ウクライナ移民を描く物語ということで現在進行形の問題を扱った作品と言えそうです。

『En Los Márgenes』ファン・ディエゴ・ボト(アルゼンチン)

3 つの絡み合ったストーリーを持つ 3 人のキャラクターのは、彼らの人生を決定的にに変える可能性のある重要な 24 時間を生き延びようとしています。 この映画は、経済的ストレスの状況が個人的な関係に与える影響と、愛情と連帯が前進するための原動力となる方法を探っています。

 監督はアルゼンチン出身の俳優で、『Historias del Kronen』(1995)で注目されて以降、スペイン・アカデミー賞であるゴヤ賞に主演・助演合わせて5回ノミネートされています。
 本作は監督デビュー作となるようで、主演がペネロペ・クルス!これは日本公開も期待できるかもしれませんね。俳優出身監督というのがいい方に働くかどうか、期待したいところです。

『Trenque Lauquen』ラウラ・シタレラ(アルゼンチン)

ラウラ・シタレラ監督

 ラウラ監督は、「ニューアルゼンチンシネマ」運動の旗手として知られる存在のようです。『La mujer de los perros』(2015)は若手インディー映画の登竜門とされるロッテルダム国際映画祭のコンペティション部門に入っており、順当に世界的な地位も向上させているように見えます。
 本作は第一部と第二部の二部作構成で、合計4時間の作品のようです。いかにもアート系良質映画という感じですね。

『Vera』ティザ・コヴィ、ライナー・フリメル(オーストリア)

ベラは有名な父親の影にいる存在。 表面的な生活と人間関係にうんざりして、彼女はローマの上流社会を漂流します。郊外での交通事故で子供を負傷させたことをきっかけに、8歳の少年とその父親と激しい関係を築いていきます。しかしすぐに、彼女はこの世界でも自分が他人のための道具にすぎないことを悟らなければなりません.

 彼女たちは1996年以来ずっと共同での映画制作を続けており、ドキュメンタリーを4本、劇映画を3本監督しているようです。『The Shine of Day』(2012)『Mister Universo』(2016)では続けて若手の登竜門であるロカルノ映画祭のコンペティション部門に出品されどちらもエキュメニカル審査員賞を受賞しています。そして『Little Girl』(2009)ではカンヌ映画祭監督週間ヨーロッパ映画賞、『Aufzeichnungen aus der Unterwelt』(2020)ではベルリン映画祭ドキュメンタリー部門のスペシャル・メンションを受賞と三大映画祭でも結果を残しています。
 本作はなんというか主演の方の見た目のインパクトが凄いんですよね。有名な人なんでしょうか?有名人の親をコンプレックスに持つ女性が自分を見出していく物語でしょうか。ただ最後の一文が不穏で、そんな簡単な物語ではないのかもしれません。気になる!

『Innocence』ガイ・ダヴィディ(イスラエル)

入隊に抵抗したが降伏した子供たちの話を描く。彼らは奉仕中に亡くなったため、彼らの話は語られることはありませんでした。彼らの忘れられない日記に基づいたナレーションを通して、映画は彼らの内面の混乱を描いています。それは、直接的な軍事写真、子供時代から入隊までの重要な瞬間、そして物語が沈黙し、国家の脅威と見なされている死亡した兵士のホームビデオを織り交ぜています。

 イスラエルのドキュメンタリー作品です。ガイ・ダヴィディ監督は『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(2011)がサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門審査員大賞を受賞、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされ、日本でも公開されました。
 長編ドキュメンタリーとしては4作目となり、やはりイスラエルという国を扱った作品です。子供たちを描くということで辛そうですが観るべき作品だと思います。

『Princess』ロベルト・デ・パオリス(イタリア)

うろつくアマゾニアンのように、プリンセスは海の端まで届く松林を通り抜けます。魔法の森では、避難し、人生から身を隠し、地殻を得ることができます。生き残るためには、現金を嗅ぎ分け、危険と感情を回避し、次から次へと顧客を回避し、いかなる緊急時対応計画もなしにできなければなりません。彼女がストリートウォーカーの友達と口論し、彼女を助けたいと思われる男に会う日まで。

 ロベルト・デ・パオリス監督は『Cuori puri』(2017)がカンヌ映画祭監督週間に選ばれ、ダヴィッド・デ・ドナテッロ賞新人監督賞にもノミネートされているイタリア期待の新人です。
 あらすじだけ読むとおとぎ話のようですが、お金のために売られ、売春させられているナイジェリアの少女たちの体験を基にしているということで意外にヘヴィーな内容になりそうです。マジックリアリズムのようなタッチなのでしょうか。

『Blanquita』フェルナンド・グッツォーニ(チリ)

児童養護施設に住む 18 歳のブランカは、セックスパーティーに参加する子供、政治家、金持ちが関与するスキャンダルの重要な目撃者となります。 しかし、質問が多ければ多いほど、スキャンダルにおけるブランカの役割が明確ではなくなります。

 フェルナンド・グッツォーニ監督は本作が長編劇映画三作目です。前作『Jesus』(2016)はサン・セバスチャン映画祭のコンペに選出、SXSW映画祭にも出品されました。
 チリと言えば『グロリアの青春』『ナチュラルウーマン』などのセバスチャン・レリオ監督がいますが、本作の撮影監督が同じ人物です。美しい映像が期待されます。

『Pour La France』ラシド・ハミ(フランス)

ラシド・ハミ監督

アイッサ・サイディはアルジェリア出身の 23 歳の将校です。 名門のサンシール軍事学校での儀式中に、彼は命を落としました。 彼の兄イシュマエルは、家族の黒い羊であり、彼の葬式を手配するための戦いの最前線にいることに気づきます...

 フランスの俳優兼監督のラシド・ハミは本作が長編三作目。特にこれといった実績はありませんが、アブデラティフ・ケシシュの作品で俳優デビュー、その後出演したアルノー・デプレシャンとは親しい間柄のようです。
 デプレシャンの作風の影響を受けているのでしょうか?2005年に監督でデビューしたばかりの新星、楽しみですね。

『ある男』石川慶(日本)

弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者である里枝(安藤サクラ)から、亡くなった夫「大祐」(窪田正孝)の身元調査という奇妙な相談を受ける。
里枝は離婚を経て、子供を連れて故郷に戻り、やがて出会う「大祐」と再婚。そして新たに生まれた子供と4人で幸せな家庭を築いていたが、ある日「大祐」が不慮の事故で命を落としてしまう。悲しみに暮れる中、長年疎遠になっていた大祐の兄・恭一が法要に訪れ、遺影を見ると 「これ、大祐じゃないです」と衝撃の事実を告げる。
愛したはずの夫「大祐」は、名前もわからないまったくの別人だったのだ‥‥。
「大祐」として生きた「ある男」は、いったい誰だったのか。
何故別人として生きていたのか。
「ある男」の正体を追い“真実”に近づくにつれて、
いつしか城戸の心に別人として生きた男への複雑な思いが生まれていく―――。

 長編デビュー作『愚行録』(2016)がいきなりヴェネツィア映画祭オリゾンティ部門に選ばれ、日本人離れした映像で映画ファンを驚かせました。続く『蜜蜂と遠雷』(2019)でも日本国内の賞を総ナメにし、期待の新人の名を欲しいままにしました。
 昨年の『Ark アーク』は賛否ありますが、私はすごく好きです。今のところ外れのない監督なので公開が楽しみです。

『Chleb I Sól』ダミアン・コクール(ポーランド)

ピアニストであり、ワルシャワ音楽アカデミーの学生であるティモテウスは、休暇のために故郷に戻ります。 地方の町は、ポーランドの多くの都市と同様に、時間が止まった場所です。特に暑い休暇中の今はそうです。 ティメックの友人と彼の兄弟のヤセクは、ピアニストでもあるが、音楽アカデミーには入学せず、邸宅で友人と時間を過ごした。 彼の故郷での滞在は、ティモテウスが外国の奨学金を受けた西ヨーロッパへの休暇の立ち寄り先にすぎません。 地元の若者の中心的な待ち合わせ場所は、新しく作られたケバブバーです。 地元の若者は外国人と仲良く暮らしていますが、いくつかの小さな例外があります。 時間が経つにつれて、従業員のグループと不動産の少年たちの間の対立が悪化します。 脅迫された外国人には、恐怖と脅威の感覚が発達し始めます。

 監督はこれまでずっと短編を作り続けてきた方のようで、ポーランド映画祭では8本のうち5本が短編部門の候補にあがっています。本作が長編デビューとなる新人です。
 TVシリーズの撮影監督もしてきたようで、画像から分かるようにシックでキレイな撮影が期待できるでしょう。

『Luxembourg, Luxembourg』アントニオ・ルキーチ(ウクライナ)

長い間行方不明だった父親が突然現れ、自分たちの生活に対処しようとしている双子の兄弟の物語。

 アントニオ・ルキーチ監督は本作が長編二作目。長編デビュー作『My Thoughts Are Silent』(2019)はウクライナ映画アカデミー賞で作品賞を含む3冠と評価されました。またカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、北京国際映画祭にも出品され世界的にも評価されました。
 現在公開されている画像、どういう状況?と笑ってしまいますが、意外とストーリーはサスペンス風味。ズビャギンツェフの『父、帰る』を想起させますね。

『Ti Mangio Il Cuore』ピッポ・メッザペーサ(イタリア)

イタリアでは知名度の低い犯罪組織である第 4 マフィアに焦点を当てています。悪名は低いものの、他のものと同じくらい危険であり、フォッジャ協会とモンタナーリ・デル・プロモントリオの犯罪家族が指揮するプーリアの上部に根ざしています。
ガルガーノの高地には、マラテスタ家とカンポアーレ家という 2 つの家族がいて、この地域を所有しており、長い間ライバル関係にありました。マフィア家の相続人であるアンドレア・マラテスタとカンポアーレのボスの妻であるマリレナが恋に落ちたとき、2つの氏族間の確執が再燃しました。そして、まさにこの苦しめられた情熱的な愛が、家族間の衝突とその後の戦争につながるヒューズを作動させます...

 なんだか「ロミオとジュリエット」みたいな話ですね。監督は主にイタリア国内で評価されてきた方のようで、ダヴィッド・デ・ドナテッロ賞では短編部門に4度ノミネートされ1度受賞しています。
 長編劇映画としては本作が三本目となるようです。クリップが公開されていますが、モノクロの映像が美しいイタリアらしい作品になっている予感です。

『To the North』ミハイ・ミンカン(ルーマニア)

実際の出来事に基づいた心理スリラー。承認されていない貨物船に乗って大西洋を横断しようとしている若いルーマニア人男性を追っています。彼は、彼を救うために自分の仕事を危険にさらすことにした忠実なフィリピン人によって発見されました。

 ドキュメンタリー作家として近年注目された存在のようで、ルーマニア・アカデミー賞であるゴポ賞では2020年に長編ドキュメンタリー部門に2本同時ノミネートされました。本作が長編劇映画デビュー作となるようです。
 『ゼロ・グラビティ』『サウンド・オブ・メタル』の音響をてがけたニコラス・ベッカーがサウンドデザインをてがけ、『バクラウ』のシリル・ホルツが録音を監修しているということで、音が重要な要素になっている作品なのでしょう。

『Autobiography』マクブル・ムバラク(インドネシア)

ラキブは、市長選挙に立候補している退役軍人プルナが所有する貴族の邸宅で働く男性家政婦です。プルナの選挙ポスターが破壊されたとき、ラキブはためらわずに犯人を突き止め、ますます暴力的な一連の出来事を開始します。

 ムバラク監督は短編を2本手がけ、本作が長編デビュー作です。『The Malediction』(2016)がシンガポール国際映画祭で受賞しています。
 インドネシア映画というだけでも珍しいですよね。政治も絡んだ硬派なスリラーでしょうか。フィルメックスあたりでの上映を期待したいところです。

『La Syndicaliste』ジャン=ポール・サロメ(フランス)

2012 年にフランスの原子力産業を揺るがした国家機密を告発する内部告発者となった、アレバの CFDT 代表であるモーリーン・カーニーの実話を語っています。このスキャンダルを明るみに出し、50,000 人以上の雇用を守るために、彼女は暴力的な攻撃を受け、彼女の人生がひっくり返る日まで、すべての人に対して一人で、閣僚や実業家と徹底的に戦いました...

 ジャン=ポール・サロメ監督はロマン・デュリス主演の『ルパン』や一昨年のフランス映画祭で上映されたイザベル・ユペール主演『ゴッドマザー』など日本での紹介作も多い監督です。三大映画祭への出品はこれが初で、どちらかというと娯楽作をてがける職人監督という感じでしょうか。
 そして本作も前作に引き続きイザベル・ユペール主演、そして実話ベースの物語ということです。過去作をみていないので作風は分かりませんが、なかなか重厚な作品になっていそうですね。

『Jang-e Jahani Sevom』ホーマン・セイエディ(イラン)

 ホーマン・セイエディ監督は俳優としての方がキャリアがあるようです。監督としてはこれまでに5作手がけており、イラン映画批評家・脚本家組合賞では『Eterafate Zehne Khatarnake Man』(2015)で監督賞、『Khashm Va Hayahoo』(2016)で作品賞と立て続けにノミネートされています。また若手の登竜門、釜山国際映画祭でも『Sizdah』(2014)で新人賞を受賞しています。『Sizdah』は上海とワルシャワでも受賞していて、イラン期待の監督と言えそうです。
 本作の内容がちょっと分からなかったのですが、英題が『World War Ⅲ』ということで、かなりヘヴィーな内容になりそうです。第三次世界大戦を想定したSFチックなドラマなのか、それとも現実問題を世界大戦に例えているのか…どちらにしても観るのに覚悟が要りそうです。

『Najsrekniot Čovek Na Svetot (The Happiest Man in the World)』テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ(北マケドニア)

サラエボに住む 40 歳の独身女性 Asja が、デートイベントで 43 歳の銀行員 Zoran と出会う物語です。ゾランは愛を求めているのではなく、許しを求めています。1993年の戦争中、彼は反対側から街を撃っていました。彼は最初の犠牲者に会いたいと思っています。今、彼らは両方とも許しを求めて痛みを追体験しなければなりません。
本作は多くの実存的な質問を投げかけます。戦争とどのように生きるか? 戦後の生活はありますか?戦後の愛はありますか?そして戦争はいつ止まるのですか?

 昨年公開され話題になった『ペトルーニャに祝福を』の監督新作です!『ペトルーニャに祝福を』はベルリン映画祭コンペに選出、エキュメニカル審査員賞を受賞しました。『Veta』(2001)はベルリン映画祭パノラマ部門スペシャル・メンションを受賞、『How I Killed a Saint』(2004)はロッテルダム国際映画祭コンペ、そしてベルリン映画祭コンペ、ヴェネツィア映画祭オリゾンティ部門と凄まじい勢いで成長を続けていますね。
 あらすじを読むだけでももう痛みが尋常じゃないですね。いくつか写真をみると、今回のキーカラーはピンクのようです。それが何を表すのか、深読みを誘われます。

『A Noiva』セルジオ・トリュフォー(ポルトガル)

ゲリラと結婚するために家出をするヨーロッパのティーンエイジャーを中心にしています。
3 年後、彼女の人生は劇的に変化しました。彼女はイラクの捕虜収容所に住んでいます。彼女は現在 2 人の子供の母親であり、再び妊娠しています。彼女は 20 歳の未亡人であり、間もなくイラクの裁判所で裁判にかけられます。

 セルジオ・トリュフォー監督はドキュメンタリー作家としてスタートし、近年フィクションでも注目されるようになった存在のようです。ポルトガル・アカデミー賞であるソフィア賞では長編ドキュメンタリー部門に3度ノミネート、そして『Raiva』(2018)では作品賞を含む6冠を受賞しています。
 イスラム国をモチーフとした組織に洗脳される少女を描いた作品のようで、これまた重そうですね。日本で紹介されている作品がないのでどのような作風なのかは不明ですが、映像を待ちたいと思います。


ということで今回はオリゾンティ部門の紹介でした。どれも気になる作品ばかりです。東京国際映画祭やフィルメックス、大阪アジアン映画祭などでどれだけすくい上げてくれるか期待したいところです。

ところで今、パルムドール受賞作鑑賞マラソンをしているのですが、思いのほか日本でソフト化されていない作品が多くて苦戦しています。あと13作品!けっこうあるな…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?