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足を振り出すということ

脳卒中片麻痺患者の遊脚期の最も一般的な障害として、麻痺側下肢の振り出し困難が挙げられる。

代表例としては、共同運動などにより遊脚時に麻痺側膝関節屈曲が生じないstiff-knee-patternが挙げられ、その代償として体幹の側屈と骨盤挙上による分廻し歩行が観察される。

ヒトの歩行において遊脚期には位置エネルギーを使用した振子運動(遊脚振子)が大きな動力源となっている。

運動麻痺が重度であると、⇒ロッカー機能が低下⇒振子モデルの形成が困難⇒歩行の非対称性、遊脚膝屈曲の制限


どういう介入をすればよいか


歩行練習時に遊脚下肢の位置エネルギーを増大させる、すなわち麻痺側立脚中期から後期にかけて骨盤を前方に移動させ麻痺側股関節伸展を促し、下肢質量を股関節に対してより後方に移動させるよう介助を行うことで、麻痺側下肢振り出し困難に対して治療的側面を捉えた歩行練習が可能となる。


・麻痺側股関節の安定性に対して、立位で麻痺側股関節内外転を伴う重心移動練習

・ニーリングで同様の重心移動練習と自身の膝を触ってもらう

⇒股関節を屈曲位で保持する練習


・立脚後期の練習として、ステップ時に麻痺側支持で、麻痺側股関節・膝関節を伸展位で保持できるよう、ハンドリングにて骨盤後方回旋を制御し、膝関節を伸展方向に誘導しながら、骨盤前方並進を伴う股関節伸展運動


・片脚立位で体幹を前後傾させ、体幹前傾時には膝屈曲、後傾時には伸展介助を行い、麻痺側股関節・膝関節に加わる外的モーメントを相対的に変化させてその肢位を保持する練習

⇒筋収縮の切り替え練習


・歩行では立脚中期から後期にかけて骨盤前方並進運動を伴う股関節伸展を誘導し、麻痺側股関節屈筋群の筋活動の誘発、位置エネルギーの変換による下肢の遊脚を促す



正常歩行時の遊脚動力源は、股関節屈曲筋である腸腰筋や大腿直筋に加え、遊脚振子として股関節の位置エネルギーがある。

この遊脚振子は重力のみをエネルギーとし、立脚側の下肢質量中心が、股関節の関節中心よりも後方へ位置することにより、振子様に股関節屈曲運動が起こるというメカニズムが重要な要素となる。



TLA


TLA:大転子から第5中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角

が歩行効率に関与する。

立脚中期以降における骨盤前方並進運動を誘導することによって、股関節屈曲の遠心性収縮や股関節前面に付着する筋や靭帯の張力により、立脚後期での股関節伸展角度が増大し、歩行効率が改善する。

立脚後期に股関節前面に加わる張力は、股関節屈曲筋が一旦引き伸ばされてから収縮することで、stretch-shortening-cycleと呼ばれるメカニズムにより股関節屈曲筋を効率的に活用できる。


参考文献 麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例ー下肢遊脚のバイオメカニクスと歩行介助 齋藤隼平 他 理学療法 2019


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