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沿線まるごとホテルにて

3/6 12:47 青梅駅

青梅線の青梅駅から4両の列車に乗り込む。左窓には多摩川の渓谷。列車は川に沿って右に左に急曲線をきいきいと音を立てながら走る。川との高低差は数十mはあり、街道沿に斜面の集落や、僅かな平地に設けられた集落が続く。

13:21 白丸駅

白丸駅の待合室でチェックイン。白い丸ということで作られた待合室の建物はJRの無人駅には珍しいデザイン。集落の住民としてはどうもおちょくられているような気がすると...。

13:35 白丸集落のおさんぽ

チェックイン時に荷物を預かってもらい、そのまま身軽におさんぽへ。白丸の集落のお父さんが案内してくれる。ここに生まれ、ここに育った方。

集落のメインストリートは石畳の細い道。ここに住んでいる人だから、ここに育った人だから案内できる細い道。自分が、子供の頃に家の近くで友達と細い道を探して歩きまわり、時には道ではないところを草をかき分けて進み、自らの地図を頭に作っていったことを思い出すよう。

車の通れない道はよそ者には無用に思われる(そう感じることには車を身体化してしまっていることを改めて思わされるがこれはまた別の話)。しかし、だからこそ住んでいる者にとって細い道は安心感を抱く道でもある。自分しか、近くの人しか知らない、そんな道はよそ者の来ない、楽しい遊び場であり、避難場所であり、そして何よりも自分がこの地に住んでいることを再確認する場所なのではないだろうか?

中心に広がる耕地は、高齢化の影響を受け、耕作者がもういない。管理の為されない耕地は徐々に荒れていってしまう。この写真の真ん中を通る道は農道であったようだが、草の浸食やイノシシによる石積みの破壊で、もはや用をなしていないように見える。

家々を集落の端の林との境界部に寄せてまで、陽の当たりやすい真ん中の一等地に造られた畑は荒地と化している。

また細い道をずんずんと進んでいく。荒地、空き家、どちらも強力な草木に覆われていっている。ちょっと数年、数十年放っておくだけで人の住む場所は簡単に自然に侵食される。

耕作され、作物で彩られていただろう姿は、村民の過去の記憶の中だけだろうか。

巨大な岩を割り、作られた切り通し。詳しくは村のお父さんのお話をお聞きいただければと思うが、簡易な道具しかない時代に、相当の労力をかけて村民が通したという。新たな道ができた今はほとんど誰も通らないし、ここで遊ぶような子供(そもそも子供の数が少ない)も、いなさそうだ。

14:50 境集落のおさんぽ

こちらの案内は「森の演出家」ことツッチーさん。博識さ、自然の中でのスキルに感服しっぱなし!

サルノコシカケ。下から見るとプラスチックでできた作り物のような色合いだったなんて知らなかった。

多摩川をさかのぼった先にある境集落も急斜面に立地する。僅かな足場を見つけて斜面にへばりつき、足を延ばして耐える家々は、さながらアイベックスのようだ。

素朴なように見える集落も、建築・土木の技術が一定のレベルに達した故に可能になった建築。

ムササビのつけた傷に日が当たり、輝く。

住民にによる案内、自然に詳しい人による案内で、人の営みの歴史の深さに、世界の広がりに思いを馳せ、それから解像度を高めて世界を見ている自分の目に気づく。

もはや世界は昨日まで自分が見ていたものではなく、新たな知識や考え方を身につけた状態で知覚する世界が、自分にとっての世界となる。思えば日々はその繰り返しだ。新たなモノ・ヒトとの出会いが自分を取り巻く世界を変え、自分は世界と、昨日までとは異なる関係性を切り結ぶ。

16:15 NIPPONIA 小菅 源流の村 到着

村の古民家をリノベしたNIPPONIA 小菅。長屋門をくぐり抜けた先には、建物と庭園の織りなす小宇宙に、今の人の求める暮らしの小宇宙が重ねられる。

ややもすればオーセンティシティを破壊しかねない微妙なバランスで成り立つそれはしかし、改変しやすい木造の柔らかさを最も生かし、そしてそれまでもなされてきた改変という層の追加の一つでしかないのかもしれない。時々に作り替えやすいことは木造の良さの一つだ。

至極曖昧な言葉であるが、「元の建物に敬意を払った改築」はその建物の良さをより引き出す行為であろう。「敬意を払う」という非常に主観的な言葉ゆえに何も意味をなしていないかもしれないけれど...。

19:00 青梅線沿線や小菅村の食材の夕食

日本酒ペアリングで楽しんでいきましょう。

岩魚のマリネ。岩魚を生でいけるとは驚き。小菅村は養殖にいち早く成功し、日本の中でも美味な岩魚を食べられる。

山菜の天ぷらよちよち山女魚のから揚げ。稚魚を「よちよち」と名付けるの、めちゃかわ。

東京シャモのコンフィ。添えられているのはなんとキウイフルーツのソース。酸味がちょうどよくシャモに合う。鴨肉にも似た味わい。

開けた瞬間にふわっと広がる、旨味の香り。香ばしいおこげを、甲斐サーモン、平茸と共に。お腹いっぱいなのにおかわりしてしまった。

夜は静けさに包まれる。集落の主要な道に接していながらも、夜中に通る車はほとんどない。

お店があんまりなく、18時までしか開いていない道の駅でしか地の物を買ったりできないのは少し残念...。地ビールもなんとか温泉で買えたけど。

3/7 08:30 朝食

小菅、奥多摩の食材たち。

12:30 奥多摩駅

多摩川を下る道を送ってもらい、奥多摩駅へ。
駅の2階のポート奥多摩で使えるドリンク引換券を片手にビールを。

ここからは、どっぷり沿線まるごとホテルのコンセプトに浸って、青梅線沿線で寄り道しながら粒ぞろいの地を楽しんでいこう。

12:40 鳩ノ巣駅

鳩ノ巣駅から鳩ノ巣渓谷へ。ちなみにこの駅の近くのカフェ山鳩で使えるチケットもついている。

渓谷に降りていくとごつごつとした岩に囲まれた多摩川。3月に来たから少し寒い。夏に来たらひんやりとしてとても気持ち良いだろう。

15:20 沢井駅

この駅には歩いてすぐのところに澤乃井を造っている小澤酒造がある。集落の中の大きな区画をしめ、道の向かい側の川との間には澤乃井園という、日本酒を屋外で楽しめる庭園がある。

川で釣りをする人や、散策する人、ロッククライミングをする人を眺めながら日本酒を。我々は飲み比べと熱燗というソフトな楽しみ方をしてしまったが、どっかと座って一升瓶1本と四合瓶2本を並べる男性3人組も。どんだけ飲むんだ。

沿線・沿川としての繋がり

沿線をこまごまと降りて行ってもこんなに多様に楽しむことができる。粒ぞろいの沿線だ。この駅でお昼を、この駅でチェックインを、そして川をさかのぼった先で泊まる。翌日には別の駅でカフェを楽しみ、昼を食べ、酒を飲む。

ただ、惜しむらくは線としての繋がりを意識しづらいところだ。古くは多摩川の沿川として、そして青梅線が引かれてからは青梅線の沿線として、青梅線~小菅村に至るまで文化的な繋がりがあるはずだ。物流・人流の線は文化的な繋がりを強くもたらす。粒ぞろいだからこそ、それはまた面白いやり取りがあったはずである。

ここを描き出すようなものが欲しいと思った。点を繋ぐ観光はこれまでもあった形である。現状として沿線・沿川としての繋がりは、辿ってきた道で採れた食材を使った夕食だ。これに加えて一つでも線の要素を付け加えたら、より際立った”ホテル”となるのではないかと夢想した。


全国の美味しいお酒に変換します。