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「注射です。保健室まで来てください」

《いたずら》に対する許容度は人によってまったく異なるだろう ── もちろん、その内容によっても異なるし、何よりその実害にさらされたかどうかが決定的だろう。

父の本棚に合った『いたずらの天才』を読み、自分も『天才』を目指そうと大志(?)を抱いた少年時代から、いくつもの《いたずら》を実践してきました。

次の話は「次回書きます」と宣言はしたものの、やはり躊躇ためらわれます。読者の中には学校の先生や元教師の方もおられるでしょうし、生徒の側でも異論があるでしょうね。

くれぐれも……良いコは真似しないでくださいね。

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高校2年のクラスで……たぶん、退屈していたこともあるし、後で説明するような事情もあったでしょう。
下記の『テレパシーで答えました』事件のように偶発的な盛り上がりは、クラスでそれなりの頻度であるものの、『仕込み企画』もありました。

私が企画したのは……

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秋の終わり、インフルエンザの注射予告が全校にアナウンスされ、 ── しかし、まだ我々のクラスにはまだ順番が回ってきていない ── そのタイミングでした。

英語の授業が始まって間もなく、3階の教室ドアがノックされ、別のクラスの生徒が顔を出します。
「インフルエンザの注射です。男子は保健室まで来てください」
先生は、
「じゃ、行きなさい」
と促します。
保健室は1階です。
男女が分けられていたのは、問診聴診などもあるからでしょう。
35人の男子は全員席を立って教室を出ると、どどど、と階段を降りて行きます ── そして。

女子生徒10人と共に教室に残された先生が、ふと窓の外を見ると、予防接種に行ったはずの ── そして、注射を終えたら教室に戻ってくるはずの男子生徒全員が、グラウンドで二組に分かれてラグビーの試合を始めています。

体育の授業でラグビーを習って間もなく、クラス全員がこのボールゲームの魅力に夢中になりました。授業が休講になると決まってグラウンドでラグビーでした。僕のポジションはスクラムの最前線中央(フッカー)だった。
雨の日でもラグビーをした。いや、スライディングしながらのトライだったり、それをタックルで潰したりなど、かえって怪我をしにくい上にドラマがあり、雨天の方が楽しかった。
次の試合にはブラインドから攻めようかなど、集まって昼休みに作戦を立てたものです。

あまりに夢中になったので、先生側の事情とは別に、ユルそうな教師をしばしば拝み倒し、休講をもぎ取ってゲームをしたくらいです。
おそらく、穏やかだけれど真面目なその英語教師は、そうした『懇願』を一切受け付けなかったのかもしれない。

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次の授業冒頭で、その英語教師 ── 40代男性でした ── は文字通り顔を真っ赤にして怒り、
「教師生活二十*年、こんな屈辱は初めてだ!」
と言い放ちました。
僕たちは(少なくとも僕は)、
「あ、この先生でも怒ることがあるんだ……」
と少々戸惑いました。

真面目を絵に描いたような彼はひととおり心の内をさらけ出した後、自身を鎮めるようにしばらく沈黙し、そしていつものように授業を始めました。

その授業が終わった後、首謀者(=ボク)の所に何人かが集まった。
「あの先生も怒ることがあるんだな……」
そんなことを言っていると、中のひとりが、
「いや……生徒の中にも、ホントはちゃんと授業を受けたかったってヤツがいるんだろうな……」
ポツリと言いました。
僕は反射的に、
「ええ? そんなヤツ、いるわけないじゃん!」
と笑ったけれど……

もちろん、……いたのでしょうね。

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