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究極の《サブスクリプション》ビジネスモデル

創作について作者自身が解説らしきものを書くほど野暮なことはありません。ただ、《派生エッセイ》はいいんじゃないの、とあたしゃ時々やりますね。

はい、昨日アップした『パラサイト・ペット』です:

音楽・動画配信に始まり、近頃ではアパレルや外食産業に至るまで、世の中のビジネスはサブスク化に移行しています。
これは、一時的なブームや景気のアップダウン、季節による増減に左右されることなく、安定して収益を上げる魅力があるからです。

消費者は一旦サブスク契約をしてしまうと、活用頻度が減ってもなかなか解約しない。ただし、ライバル企業とのサービスと価格競争には、常にさらされています。

さて、バイオテック・ショート・サーキット(BSC)社はこれまで生体がらみの技術開発プロジェクトから様々な新商品を生み出してきました。

今回のBSC社の『パラシッチ』ビジネスの本質が、実は『サブスク』です。
課長は《パラシッチ・エッグ》1錠《パラシッチ・プラス》1週間分をお試しとして無料で入手します。
《パラシッチ・エッグ》を飲んだ翌日から《パラシッチ・プラス》を1錠ずつ飲むと、3日目に《エッグ》が孵り、体内ペットとして皮膚の下で動き始めます。
あとはその《パラシッチ》に名前を付け、飼い続けることになります。《プラス》を服用しなくなると、自分だけのペット《パラシッチ》は消えていきます。
(そのメカニズムは明かしませんが)

つまり、飼い主(あるいは宿主)が《パラシッチ》を飼い続けたいと思う限り、《プラス》を購入し続けることになります。
たとえば、愛犬や愛猫が大好きな、特定メーカーのペットフードを買い続ける人はいるでしょう。でも、そのフードが何らかの事情で値上がりしたら、他メーカーの製品に乗り換えることも検討するはずです。最初、顔をしかめていた(かどうかはわかりませんが)ワンちゃんも、背に腹は代えられず、他メーカーのドッグフードで腹を満たすことになるでしょう。

しかし、《パラシッチ》はそうはいかない。BSC社別売りの《プラス》を買い続け、与え続けることが、かわいい《パラシッチ》を飼い続ける ── 生かし続ける ── 唯一の道なのです。

つまり、BSC社は、
他社に乗り換え不可能なサブスク・ビジネスを始めたことになります。
皮膚の下で動き回り、名を呼べば寄って来る、かわいい《パラシッチ》は、いわば『人質』です(ヒト、じゃないけどね)。

BSC社の商品やビジネスモデルは、どれも見ようによっては怖いものが多いのですが、今回の《パラシッチ》は、既に自分の体の一部になってしまったペットを、製造元がいわばまだかたに置いていて、集金し続けるわけです。
BSC社はペットロスなどで悲しんでいたユーザーを幸福にした、と胸を張っているようですが……。

阿漕あこぎではありますが、サブスク・ビジネスの理想かもしれません。
《パラシッチ》はもちろんフィクションですが、現実世界のあのビジネスって実際……といくつか浮かびます。
でも、クワバラクワバラ……ここには書きません。
例えば医療関係のビジネスには、結果として概念が究極のサブスクであるものがいくつかありますね。
もちろん、利用者を幸福にしているのでしょう……。

BSC社のこれまでの最高傑作ですか?
《アンジー》だと断言します。これもサブスクです。
《アンジー》の怖ろしさは 利用者が周りにどんどん増え、自分も利用せざるを得ないところに追い込まれていくところ……。
《アンジー》『バージョンD』でお読みいただけます:

BSC社のセールスが声をかけてきたら……くれぐれもご注意を。


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