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Two Founders(創業者)

私の知り合いで、自分の発明品から会社を興し、いわゆるグローバル・ニッチ・トップ企業に育てた人がいる。その会社の創業からの歴史は物語としてもとても面白いので、いずれ紹介しますが、会社幹部のひとりに成功の秘密を尋ねたことがあります。
「発明家ってのは自分の発明品が可愛くて、なかなかビジネスとしてからい目で見ることができないよね。でも彼(当時社長)は、発明者でありながら、優秀な経営者でもあった ── 稀有な例かもしれません」

確かに、普通は、発明者(あるいはアイディアを出した人)は、
「手(発明やアイディア)に惚れる」
ので、経営には不向きなことが多く、経営者として成功に導いた人は別の場合が多いのかもしれない。

研究開発のほとんどはその通り。
ゼロから1を作る人と、1から10,100,そして1000を作る人やチームとは、多くの場合、分業されている。

将棋AIの先駆者は、機械学習によってそれまでの評価値型ソフトをいきなり破ったBonanzaの作者であり、将棋のルールも知らない物理学者・保木ほき邦仁くにひとさんだった。さらにそのBonanzaに、強化学習を加えたPonanzaを開発した将棋アマトップクラスの山本一成いっせいさん ── やはりふたりのFounderがいる。

そして ──

映画「The Founder」のマクドナルド兄弟と彼らの店を世界的なフランチャイズに育て上げたレイ・クロック。
── どちらがFounder(創業者)の名にふさわしいのだろうか?

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和題:ザ・ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ

以下は私の鑑賞メモ(5年前、かな?)。若干のネタバレがありますのでご注意ください。

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朝8:50からの第1回映写を見るためにエアポートウォークに行く。
客席は2割ほどしか埋まっていない。
主演のマイケル・キートン、聞き覚え、見覚えがあると思ったら、バットマンである。かなり年をとって髪も後退している。

カリフォルニアで、効率化したキッチンと訓練された従業員により注文後30秒しか待たせない、客は車の中やベンチで食べる ── そんな新ビジネスモデルを考案し、実践しているマクドナルド兄弟のハンバーガー店に注目し、フランチャイズで世界中に広げた《自称・創業者》レイ・クロックの物語(実話)である。

マクドナルド兄弟とレイ・クロックの関係は、売れない小説家とその小説を原作として大ヒット映画を作ったプロデューサーの関係に似ている。
マクドナルド兄弟はオリジナルのやり方を変えないことにこだわっているが、もはや「別のレストラン/別の作品」と割り切るべきだった。

自身の小説が映画化されたことのある原作者は、誰しも経験していることだ ── そう思いながら観ていた。

レイが成功後、成功のために必要なのは、persistence(持続性)のみである、と言っているのが本質をついている ── 天才も教育も必要ない、と。
成功のためには戦略として嘘もつく。
最後は契約には書かないが紳士協定として守る、としてマクドナルド兄弟にサインさせておきながら、売り上げの1%を払うという口約束を守らなかった。

他国製企業・マクドナルドは会社としてこの映画を認めてないそうだが、この映画は必ずしもレイを悪役として描いているわけではない ── と私は思う。
映画製作者が、
「さて、どちらが真のファウンダーだろうか?」
というシニカルな視野を含めて表題『The Founder』をつけている
のは間違いないが、現在のマクドナルド帝国の創設者はレイであると、映画作者も認めている作り方になっていると思う。

技術開発型企業で働く者にとって、なかなか示唆に富んだ映画だった。

傑作、と言っていいと思う!

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