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左手に金の滝が打つ 12

第1話

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 暖かく迎えようとする場所には、変えようのない寂しさと補うことのできない温もりの欠如が飛散していた。

子供という存在の現実はなんの躊躇もなく傷口を突き刺し、無邪気さが逆に大人たちの心を抉っていく。

施設の中はだいたい一五、六名ほどいたと思う。思うというのも、他人など興味もなく私は本を読んでいただけなので知らないのだ。施設での暮らしは私の理想に限りなく近いものではあったが、いくつかは気に入らない点があった。

一つは個室がないことであり、静かに本を読もうとしても、境遇を忘れて走り回る子供や親を思い出して泣きわめく子供の声が聞こえてやかましかった。

もう一つはこの場所の全ての人が家族であることを強要しようとしていることだった。

施設の従業員数が常に三、四人いるこの状況への違和感とその従業員たちの熱心さには異常すら感じていた。

それについても調べてみたところ、彼ら彼女らは母親と同様に資格を剥奪されたもしくは資格を取ることができなかった人達の希望者であるということらしい。

そして、さらには、施設で育った子供達からの希望があれば、選んだ従業員が親としてその子と家族になることができるのだと言う。

しかし、その割合は二十パーセントにも満たないとのことである。それでも従業員達にとってみれば、可能性がない世界の中の唯一の挑戦の権利であり、それは希望以外になく、本気になるのは当然のことだ。

とはいえ、私にとってはそんなものは全く持って関係なく、従業員達の親という役への欲を押し付けられる筋合いなど毛頭ないのだ。

やっと外れた『家族』という枠の中にまた別の欲を持った大人達の私情に付き合わされる義理もない。

私は常に一人で行動をしていた。

和人が来れば話をしたが、それ以外は関わりを持たなかった。頭が悪すぎて、会話も成り立たず、ラジオのノイズがなっているのと変わらないくらいだったからだ。

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