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左手に金の滝が打つ 14

第1話

前話

 齢一六にして真っ赤な絨毯の上を歩くことに慣れてしまったのは、自分でもいかがなものかとは思っている。

平然と公園の遊歩道でも歩くように父親は少しだけ腰を曲げながら歩いていく。すでに会社からは引退しているにもかかわらず、秘書を左後ろに連れて歩かせ、右隣を私も歩いた。

普通ならば、日本という国を出ればば、私たちなどただの観光客に過ぎず、場所によっては良いカモだと思われて、調子の良い笑顔の外人に取り囲まれるくらいなものだ。

しかし、父親は違っていた。

楽しそうに談笑するブロンドの髪の女性の視線は父親を見つけると一瞬で釘付けにされて真顔に戻り、会話相手の彫りの深い男の表情筋は父親を見て萎縮した。

父親はその様子を木々の葉がこすれあう程度のようにペースを崩さず絨毯を歩いていく。

人前に出ることがほとんどなくなってしまった日本よりも反応は大きい。日本人というそもそも童顔な民族の中で一六歳の私が後ろを歩くので残念ながら注目は浴びるわけで、困惑や疑問と不満、そういった視線が私にも刺さり、私が視線を向けると彼らは顔を背けた。

しかし、彼らの思考はもっともなものであり、家族を記念に連れてきたと思われるような人選では確かにあるのだ。

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