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左手に金の滝が打つ 10

第1話

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 当然ではあったが、母親は私たち兄弟に詳細を伝えることはなく、私から見れば、母は変わることない未来に対して、駄々をこねてどうにか奇跡が起こることを望む子供だった。

父親がどんな罪状で連れて行かれたのかわからずにいたみたいだが、私は警察のデータベースをクラッキングして、非合法に資格のない大人たちに子供を斡旋していた罪に問われていることを知っていた。

でも、そんなことはどうでもよかった。それよりも、自分の無力さをなんとか「親だから」と感情的にもがきながら足を引っ張るこの母親と離れられることに喜びがあり、開放感に満ち溢れていた。

 施設に送られる朝、私と和人はその詳細を結局知らされることはなかった。私は自分の今後についても調べて知っていたので対して変わらない朝であり、父親が連れて行かれた日と同じように家の前に駐車した車から人が何人も降りていく様子が見て取れて、待ちわびた恋人との再会を待つようであった。

トントンとドアを叩く木の音が繕った軽さを演出した。私は「どうぞ」と言うと母親は首に死神の鎌でも当てられているかのような悲愴な顔をして、言葉だけがどうにか道化のように繕い笑っている。

笑いそうになる口元をばれないように下に向けて私はリュックサックを背負った。その中には父親に買ってもらった本が三冊しまわれていた。

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