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テミスの天秤

   被告人の最終意見陳述を大沢諒を含む六名の裁判員が並んで聴いている。
被告人『どんな判決が出ても控訴しない。裁判は一審だけでも本当に長いと思った』



   エルグレコのカウンターに寄りかかり、コーヒーを飲む大沢、その奥で時計を弄っている田村祐司。店の奥のテレビから裁判のニュースが聞こえてくる。
田村『死刑か無期懲役かの量刑判断を求められることになるね』
大沢『はっ』
大沢が携帯を落としそうになる。
田村『死ぬのはむしろ楽なのでは。一生苦しんで、罪を背負って生きる事もできるんじゃないか?』
大沢『死刑を突きつけられて初めて、殺人という己の行為が重大であること、恐ろしさが身に染みて分かるのではないかとも』
田村『死刑とか無期とか、多数決で決めていいものなのか?』
大沢『人が心で一生苦しんで、罪を背負って生きてゆく人が果たして何人いるのでしょう。もしくは死刑を選んだら、殺人に加担してしまったのではと自問するようになりそうで』
大沢の目に涙がつーっと流れた。
田村『そのことを受け入れることを拒否しているようだね』

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