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J3 第23節 レビュー【ヴァンラーレ八戸 vs 鹿児島ユナイテッドFC】掴めなかった勝ち点

2020.10.25 J3 第23節

ヴァンラーレ八戸 vs 鹿児島ユナイテッドFC

悔しい一戦となりました。

あれだけのチャンスを作れて、最後までゴールラインは割れなかった事実に落胆が止まりません。

しかし、長野・熊本が足踏み、昇格圏との勝ち点差は5のまま。
勝ち点42に3チームが留まり、勝ち点40の岐阜も含めて、各々が勝ち点を逃すことを願わなくてはならない厳しい状況に変わりは無いですが、絶望的でもありません。

さらにはプレビューにも記載の通り、勝ち点は積めていないものの八戸も悪いチームではありません。

双方が何を仕掛け、どうアウトプットされたのか振り返ることは有意義なのではと思います。

それでは、振り返っていきましょう。

1.スターティングメンバ―

両チームのスタメンは以下の通りです。

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まずは八戸。

前節負傷交代した6番河津に代わって30番黒石が入り、WBへ。左CBはWBを担っていた33番佐藤が務めました。
さらに、前線は17番安藤、8番高見、9番上形が入りました。

鹿児島もスタメンを入れ替えました。

FWは酒本に萱沼の組み合わせ。DHには八反田が名を連ねました。
驚いたのは、右SBに藤澤の起用。個人的にここはフォゲッチの特徴がハマると思っていたので、意外な人選だったと感じました。

そんなメンバーで始まった試合。
いくつかポイントを挙げながら、試合を4分割して振り返ります。

2.第1クォーター

八戸の非対称ビルドアップ

八戸のビルドアップは冴え渡っていたように思います。
今日、鹿児島が苦しんだやり方の一つが非対称な陣形でした。
5:20辺りのシーンを例に取ります。

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このシーンは右上がりの陣形です。
右CB(以下、右HVと表記)がやや前方にポジションを取るので、右WBも高い位置に居ます。

まずは33番佐藤にボールが渡ったところから。米澤が半ば仕方なくプレスに駆り出されました。
佐藤はCBの40番深井にボールを送り回避。この時、10番新井山がボールに寄り、萱沼が付いていきます。

深井には酒本がプレスへ行きますが、ルートを確保している八戸はすぐにフリーの39番近石へ展開します。

さらに、WB対応でSHは低い位置まで下がっているので2ndライン端が1枚欠けた状態になります。そこがポケットとなり、DHやシャドーが受けるスペースとなりました。

これでビルドアップは完成です。
引き付ける選手などはその時々により異なりますが、このようにプレスの基準にズレを起こし、八戸は前進していました。

シャドーを塞ぐSH

プレビューで示した通り、HV→シャドーへの楔がビルドアップの出口になるのが、八戸の常套手段です。

ここへは比較的、対応出来ていたように思います。

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最初のポジションはWBを潰しに行けるポジションにいるSH。
ボールホルダーが楔を入れようとすると、シャドーへの楔を通さないため、SHは大外に位置するWBを捨ててDHとの間を塞ぎます。

DHと共に塞ごうとしていたので、チームとしての意図されていたと思います。
また仮に通されたとしても、ソリッドな4-4ブロックの網で捕まえることも出来ていたシーンが多く、強みを消す対策は奏功していました。

【スーペル八反田賞その①】

今日最も格別なプレーを見せてくれた選手ではないでしょうか、八反田。
敗戦の中にも明るく楽しく、光を見出だそうということで、私の独断と偏見で選ぶ「スーペル八反田賞」を開催しようと思います。

ノミネート1番は、9:45からのシーン。マイボールにして青山から組み立てが始まります。

最終ラインに降りた八反田が青山からボールを受け、八戸2人を引き付けながら酒本へ。

この時に牛之濱が高い位置を取ることで、WBの11番國分が最終ラインに吸収されていたため、9番上形は岡本、砂森、中原へのパス対応準備のため、身動きが取れません。

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酒本からリターンを貰った八反田は、八戸のDH2枚と交錯しながら砂森にパス。
砂森のクロスは大きくなりましたが、陣形や酒本の強み、八反田のセンスと技術を活かした理想的な前進でした。

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3.第2クォーター

WBからの迂回ルート

シャドーへの生命線が奏功しにくい八戸。
鹿児島SHが空けたWBにボールを渡す機会が多くなりますが、サイドのチェーンで連動し前進してきました。

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その1例が上記の図。
WBとDH、シャドーが円を描くように旋回し、マークを引き連れて移動することでボールホルダーであるWBの内側にスペースをもたらします。

旋回は主にフットサルで使われていたコンビネーションですが、サッカーでも局地的な優位性を得るために有効な方法の一つです。綺麗に活用していました。

その後も、カットインからドリブルや、FWに浮き球のパスを送るなどしてチャンスを作ることができ、脅威の一つになっていました。

プレスを強めるSH

シャドーを消してWBに迂回させても、前進出来る八戸。

鹿児島はこのままではどうしようもないので、SHが意図的に八戸HVまでプレスに出て、パスの供給源を潰そうとし始めたのもこの時間帯だと思います。

プレビューで言及したように八戸は数的同数でハイプレスに来られると、技術的にパスをつないでいくのが怪しくなります。これによって再現性ある形で前進出来る機会は減っていたと考えます。

【スーペル八反田賞その②】

38:30辺りの米澤、牛之濱の決定機を生み出したシーンです。
こちらはスーペル八反田賞ノミネート2番になります。見ていきましょう。

始まりは、八戸から中原がボールを取り上げ、砂森→岡本と繋いでビルドアップ開始したところからです。

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またもや2人引き付けるドリブルをしながら、2nd-3rdライン間にいた萱沼にパス→萱沼スルーで酒本が収めます。そして、CB-SB間で受けている酒本はSBを中央に引き付けつつ、走りこんだ米澤にラストパス。という決定機でした。

この時、藤澤がWBの30番黒石をピン留めしているので、米澤が本来のマークを背負うことなく(5バックの網を潜ることなく)スプリント出来ているのも鍵の一つです。

そして、八反田のパス。
八戸の1stラインと2ndラインをまとめて突き破るパスは、DFの目線を強制的に変え、後ろ向きでの対応を強いられる疑似カウンター状態を作ることができ、非常に有効でした。

しかしその後、米澤のシュートはGKのセーブに遭い、こぼれ球を拾った藤澤が牛之濱に送りますがヘディングは枠外。

チームとしての思惑が決定機に繋がったと同時に、決まっていれば貴重な先制点になっていたことを思うと、何度見返しても悔しさが込み上げるシーンでもあります。

【スーペル八反田賞その③】

どんどん行きましょう。ノミネート3番です。
こちらは47:30のプレー。個人の判断・技術が光ったプレーです。

ゾーン2、右サイドで萱沼がカット→藤澤に繋いだところからのシーン。

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敵・味方共に距離感が狭い中、藤澤は八反田に下げてプレスを回避しようとします。
しかし、そのまま30番黒石が八反田までチェイス。時間が無い状態で八反田がボールコントロールすることになりました。

そこで、八反田が下した判断はタッチライン側へのファーストタッチ。それにより、図の様に斜めに進んでいた黒石のベクトルを縦方向に変換します。

そして、瞬時に右アウトサイドで2回触り、180°方向転換(体の向きはピッチ中央)。3タッチ目がミスになり、体を前方に向けることは出来なかったのですが、黒石のプレスを交わすのには十分でした。

くるっと回ってプレスをいなすプレー(いわゆるカラコーレス)は、シャビのイメージが強いですが、このようなプレーをさらに高い次元で出来れば八反田はもう1ランク上の舞台に行けていたのかもしれません。

いずれにせよ今日見せてくれた高い基準のプレーを今後とも期待したいです。

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そしてその後、前を向き直した八反田は酒本にまたもや2ライン突き破るパス。
同時に、外に張り出していた萱沼が中央に戻ることでマークが追走、大外に走りこんでいた藤澤が空きました。

酒本からパスを受けた藤澤はクロスを放り、牛之濱に合わせますが枠外。
これも決めきりたかった一連の流れでした。

というわけで、前半終了。
お互いの強みや準備の成果が垣間見えた一方で、決めるべきところを決めきれなかったことに言い知れぬ不安を覚える前半となりました。

4.第3クォーター

構造で突く八戸

後半に入ってからの八戸。
前半に増して、構造上空くスペース、つまり大外を活用する機会が増えていたように思います。顕著に表れたのが、51:15からのシーン。

TACTICALista_八戸崩し3Q

WBの11番國分に入ったのが51:17。
牛之濱が対峙しますが、國分は中央へドリブル。同時に8番高見が大外へランニング。高見に付いていた中原は、國分のケアのため中央に居残ります。

中央でのデュエルによる混戦の中、ボールを拾った4番前田は、大外で空いた高見にロングパス。砂森が対応せざるを得なかったので、中央最前線は数的同数の様相となっていました。

高見からのクロスは難なく対応出来たので事なきを得ましたが、使いたい・空くスペースを確保し、有利に攻撃を推し進める形は出来上がっていたのではないかと思います。

ハイプレス八戸

八戸は、後半からプレス位置も高めていたように思います。

TACTICALista_八戸戦ハイプレス八戸

52:45からの鹿児島のビルドアップでは、CB+中原に対して数的同数でマーク、DHの10番新井山が砂森へのアプローチに出ます。

この時、①新井山による中央のパスコース切り②八反田の逆サイドでのポジションニングにより、砂森が選べる現実的なパスコースは牛之濱のみになりました。

実際、牛之濱にパスが出たところで待ち構えた11番國分がカットするに至っています。

さらに62:04のビルドアップでは、岡本がボールを持ったタイミングで「ゴー!ゴー!ゴー!」とシャドーにプレスを促すコーチングも八戸戦ベンチから飛んでおり、後半の狙いが読み取れるかと思います。

奏功したHVへのプレス

54:30からのシーン、萱沼の決定機です。
第2Qから意図的に仕掛けてきた八戸HVに対するSHのプレスが功を奏しました。大きく開いた左HV深井にボールが入ったところから始まります。

深井から39番近石、33番佐藤と順番に左に展開する八戸。
この時、佐藤には米澤が猛然とプレス。やや外切りしていると同時に、大外に位置している左WBにも藤澤がマークしていると思われます。

そのため、佐藤は中央に折り返しますが、時間が無い中出したパスはそのまま萱沼の下に。GKと1対1の局面に持ち込みました。

シュートこそ外れたものの、ミスを誘導したのは米澤だけでなくチーム全体の立ち位置ですので、より多く再現したいパターンでした。

そして、失点

失点シーン、65分の出来事です。
発端は八反田のパスミス、のように見えますが、八戸によるチームとして意図を持ったハイプレスにより選択肢を限定させられたことから始まりました。

TACTICALista_八戸戦失点①修正

始まりは左サイドで牛之濱がボール奪取、八反田にボールを渡したところ。
八反田には10番新井山が前を向かせないプレス。後ろ向きのプレーを強いられます。

また、中原・青山・岡本には数的同数でマーク。外で待っていた藤澤へのコースも17番安藤が背中で消していました。

新井山のプレスで余裕のない中、八反田が見つけたボールの送り先は五領。
しかし、ここにも30番黒石が待ち構えており、カットされてしまいました。

前々項で述べたシーンと同じように、選択肢を無くして無くして、限定したところで奪い取る。八戸の狙いが上手くいったシーンでした。

TACTICALista_八戸戦失点②

黒石はそのまま中央方向に切れ込み、シュートしようとしますがキャンセル。切り返して、上がってきていた33番佐藤にパスします。

佐藤に対応すべきは五領が最適だと思うのですが、ここでは画面内にさえも姿が映っていません。

何か理由があったのかもしれませんが、このトランジション局面に認知が追い付いていないというのであれば、八戸戦での復帰は時期尚早だったと結論付けても良いような気がします。

結果、大外には藤澤が対応を強いられる形となり、中央のスペースに人が少なくなったところでクロスボールを7番中村に渡してしまい、失点となりました。

【スーペル八反田賞その④】

八戸にしてやられたとはいえ、失点に関与してしまった八反田。
しかし、第3Qにスーペルなプレーも見せていたのでノミネートしていきましょう。

60:05からの一幕。五領の枠外シュートとなる決定機を作り出したシーンです。トライアングルのスクラップ&ビルドが鍵になります。

八反田だけでなく周りの選手との協働が重要ですが、チャンスを作り上げた張本人ということで、八反田の功績として良いでしょう。

TACTICALista_八戸戦八反田④-1

まずは八反田、砂森、酒本の三角形。砂森のボール保持から。
酒本が4番前田を引き連れて下がることで、砂森が走りこむスペースを作ります。砂森は一度八反田に預けて裏抜け。リターンを貰いますが、ここは対応されてしまいます。

TACTICALista_八戸戦八反田④-2

そこで、やり直し。
今度は八反田、砂森、牛之濱で三角形を形成。砂森は八反田に預けて、大外に逃げます。この時点で再び八戸DFラインが一直線になりました。
さらに八反田は、新たな三角形の頂点である牛之濱に横パス。

TACTICALista_八戸戦八反田④-3

一直線になったDFラインの裏に駆け出し、牛之濱からリターンを貰った八反田は五領へクロスを供給。決定機を演出しました。

この後、70分に八反田は薗田と交代。
もしかしたらベンチ復帰から日も浅く、90分のプレーは難しいという側面もあるのかもしれませんが、第4Qの停滞は八戸の戦術に加え、八反田の交代も影響していたと思います。

とにもかくにも今回ノミネートした4プレーの様に、光るプレーで貢献してくれた事実は評価として強化部の中に深く残るのではないのでしょうか。

5.第4クォーター

意志統一した八戸

八戸の得点と同時に給水タイムへ突入し、第3Qが終了。

今更ですが、給水タイムで前後半を区切り、ハーフタイムと加えて試合を4分割して試合を振り返っている理由をお伝えしていなかったかもしれません。

給水タイムで区切る理由としては、給水タイムにそれまでの流れを鑑みた上でチームの狙いを伝達出来るため、給水タイム前後で大局がガラッと変わったりするのが今シーズンの特徴であるためです

その意味で、今回の失点の時間帯は最悪と言って問題ないと思います。

第4Qの八戸は、5-4-1を中央に圧縮し、サイドはある程度好きにさせてもゴール前で跳ね返す!というやり方に重きを置く、意思統一をしていました。

これにより鹿児島は、肝心なスペースを占領できず、試合を塩漬けされる展開に持って行かれました。

それでも生まれた決定機

それでも、八戸DFを動かして決定機を作り出した場面もいくつかありました。最も印象的だった決定機の一つが89:40、枝本の決定機でしょうか。

始まりは89:27。藤澤が左サイドでボールを持ったところです。

TACTICALista_八戸戦第4Q決定機

牛之濱、五領、藤澤の三角形で旋回。
図の様にボールの回る向きと人の動きが逆になることでDFの目線を錯乱させます。
そうした旋回を通じて、藤澤の前にスペースが空きました。

TACTICALista_八戸戦第4Q決定機2

牛之濱→五領→牛之濱→藤澤と繋ぎ、時間と広大なスペースを手にした藤澤にボールが届いた時には、サイドの対応で人数を割いた八戸DFの間隔は広くなっていました。

難なく、藤澤のスルーパスを受けた五領は、枝本へマイナスのクロスを供給します。萱沼がDFを2枚引き付けた貢献もあり、枝本はシュートに至りましたが、惜しくも枠外。

最後まで決定機はありながらも、決めきれずに試合終了。
悔しい敗戦となりました。

6.あとがき

八戸戦、振り返ってきました。

何回見ても悔しい。悔しいに尽きます。
これ以上、出てくる感想がありません。

しかし冒頭に触れた通り、まだまだ諦める時ではありません。

また富山戦から一戦一戦闘い抜いていくしかないのです。

シーズン終了まで声援を送っていきましょう。

…と、締めくくりそうになりましたが、スーペル八反田賞大賞の発表を忘れていました!

大賞は…

②の酒本へのレイヤー越えパスです!
リアルタイムで見ていた時に、それ通せるのか…!と一番驚いたプレーでした。

皆さんが選ぶ大賞、他にもこのプレー良かった!というプレーがあれば、コメント頂ければと思います。

それでは、本当に終わりです。
お読みいただきありがとうございました!

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