学習を促進する指導方法(注意の向け方について)
運動指導やトレーニング指導において,どう教えれば良いか迷うことが多くあると思います.新たなスキルの獲得や,フォームの習得,などなどスポーツ場面のみならず,トレーニング指導場面においてもこのような場面は多くあると思います.
今回は,注意の向け方に絞って,効果的な指導の仕方についてです.
注意の向けかた
注意の向け方には2種類あります.インターナルフォーカスとエクスターナルフォーカスです.
インターナルフォーカスとは,自己の内側に注意が向いている状態,例えば,体の一部分や,体の動きです.反対にエクスターナルフォーカスとは自己の外側つまり環境に注意が向いている状態です.例えば,ゴールまでの距離や,ボールなど.
運動学習
多くの研究が,注意の向け方の違いが運動学習に及ぼす影響を比較検討しています.結論のみ言うと,エクスターナルフォーカスでの学習の方がインターナルフォーカスでの学習よりも学習効果が高いことが証明されています.
指導現場の問題
しかしながら,多くの指導場面において,指導者は学習者に対し"腕をこう動かせ”,”足の位置はここだ”などと,インターナルフォーカスを促すようなフィードバックを与え,指導を行うことが多いのではないでしょうか?インターナルフォーカスで運動することによって,特に考えなくてもできていた運動が,できなくなることは,多くの研究が証明していると同時に,皆さんも体験したことがあるのではないでしょうか? (例えば,糸を針に通す時は,針の穴に注意を向けますよね?指の動きに注意を向けたら思うように動けないと思います)
そこで,今回は,異なる注意の向け方を促すフィードバックがスポーツスキル学習に及ぼす影響を検討した研究を紹介します.
研究紹介
実験1
目的;異なるフィードバック(インターナルフォーカスとエクスターナルフォーカス)が熟練者と非熟練者の運動学習に異なる影響を及ぼすかどうかを検討
方法
被験者;バレーボール熟練者,非熟練者
条件;エクスターナルフォーカスフィードバック,インターナルフォーカスフィードバック
課題;テニスのサーブをバレーボールの条件で
練習;25回の試行を2日間
フィードバック;5試行毎に
保持テスト;最後の練習から1週間後に15試行
測定項目;パフォーマンススコア(サーブの成績),フォームスコア(ビデオ分析)
結果
練習でのパフォーマンス・フォームスコア;熟練者>初心者,エクスターナル>インターナル
=>経験に関わらずエクスターナルフォーカスのフィードバックがパフォーマンス及びフォームの改善の両方に効果的
保持テストでのパフォーマンススコア;練習同様に,熟練者>初心者,エクスターナル>インターナル
保持テストでのフォームスコア;熟練者>初心者しかし,フィードバックの違いでは差がない
=>エクスターナルフォーカスフィードバックでの学習は高いパフォーマンスを維持する(*フォームは保持されない可能性)
考察
注意の向け方の違いは,フィードバックによって引き起こされる場合でも,運動学習に影響する.さらに,エクスターナルフォーカスフィードバックでフォームの改善がされたことから,現場でよく見られる,インターナルフォーカスフィードバックでのフォームの改善は効果的でないだろう.
先行研究において,フィードバックの頻度の違いが運動学習に影響することが証明されている.(毎回フィードバックするよりも,何回かに1かい行なった方が効果的)そこで,実験2では異なる頻度でのインターナルフォーカスとエクスターナルフォーカスでのフィードバックがスポーツスキル学習に及ぼす影響について検討.
被験者;熟練者のみ
課題;ロフトサッカーパス
条件;インターナルvsエクスターナル × 100%vs33%
100%では毎回フィードバック,33%では3回に1回フィードバック
練習;30回,保持テスト;1週間後に10回
練習成績;エクスターナル>インターナル,Int-33 > Int-100, Ext-100 ≒ Ext-33
保持テスト成績;エクスターナル>インターナル,Int-33 > Int-100,Ext-100 ≒ Ext-33
考察
フィードバックの頻度の減少は,インターナルフォーカスフィードバックにのみスポーツスキル学習に効果的
考えられる原因;エクスターナルフォーカスは運動の自動化を促す.
結論
エクスターナルフォーカスのフィードバックは,学習者の経験,フィードバックの頻度に問わずスポーツスキル学習に効果的.この効果は,パフォーマンス成績のみならず,フォームの習得にも現れる.反対に,インターナルフォーカスでのフィードバックは,運動学習を阻害するが,頻度を減らすことで,その効果を最小化することができる.
指導者の改善点
つまり,多くの指導者が行なっている,”頭を動かすな” ”足の位置はここだ”などという,インターナルフォーカスを促すような,フィードバックは,学習者の運動学習を促進するように思われるが,特に,フォームの改善に効果的かのように思われるが,実際は,運動学習を低下させることが結論づけられている.したがって,スポーツコーチや,パーソナルトレーナーは指導をする際に,フィードバックの仕方を工夫する必要がある.実際,先ほどの研究においても,インターナルフォーカスのフィードバックは,"ヒットする腕の目の前に,ボールを高く上げる"であるのに対し.エクスターナルフォーカスのフィードバックは,”ボールをまっすぐ上げる”であるように,かなり似たようなフィードバックであるのにも関わらず,学習効果に違いが現れる.例えば,頭を上げるように支持したい場合,”頭を上げろ”というよりも”前を見ろ”の方が,効果的である可能性が考えられる.筋トレの指導場面では,顕著にインッターナルフォーカスでの指導が多いように思われる.主な筋トレの目的は,パフォーマンスではなく,筋肉を鍛えることつまり,筋に適切な負荷をかけられるフォームの習得が重要であるが,上記の研究が示している通り,フォームの習得にもエクスターナルフォーカスでのフィードバックが効果的である.つまり,特に,筋トレ初心者などのフォームを習得している段階の人たちへのフィードバックは,できる限り,エクスターナルフォーカスでのフィードバックで指導する方が効果的に思われる.さらに,他の研究によって,エクスターナルフォーカスでもより体に遠い所に注意を向けた方がパフォーマンスが向上することが報告されています.すなわち,インターナルフォーカスで指導する場合でもできるだけ,エクスターナルフォーカスに近い指導をすることで,効果を最大化できるだろう.
(競技力向上や,パワーリフティングのための筋トレはパフォーマンスが重要なのでもちろんエクスターナルフォーカスでの指導が好ましい)
したがって,例えば,スクワットの際に,膝が内側に入るのを改善する場合,”お尻に力を入れて”などと指導するよりも,”足の裏で床を左右に引き裂くように”などのように指導する方が効果的である.”足の裏で床を左右に引き裂くように”のフィードバックは,結局,お尻に力を入れるためのフィードバックであるが,より効果的なフィードバックである.ある程度,フォームが習得できた後で,筋に適切な負荷がかかるように,インターナルフォーカスでトレーニングする方が効果的だろう.以前の記事で,話したように,筋トレ中は,インターナルフォーカスで行う方が,筋活動が向上し,筋肥大に効果的である.https://note.com/shun_ex_edu_lab/n/n1d2cdf6795ab
指導者は,学習者にエクスターナルフォーカスを 促すようなフィードバックで指導しよう!!
主に,スポーツ医学や子どものスポーツに関することについて配信します.