高木 俊介

高木 俊介

最近の記事

<正常>を救え

アレン・フランシス「<正常>を救え 精神医学を混乱させるDSM-5への警告」 この人、以前「精神医学」で訳者の大野裕と対談しているのをFBでも紹介した。 (https://www.facebook.com/shunsuke.takagi.79/posts/pfbid021EYVK1qKfGZNVotjdJ4QcuFReb9zhMPg676eiBRr6z5JV84cJtWiSGy3UZMsTb26l) パラパラめくってみると、思ったほど過激な内容はなく、穏当。DSM-Ⅲの頃

    • オットー・グロース  フロイトによって追放されユングを変えた天才精神分析家

      【オットー・グロースのこと(1)】  遅ればせながらクローネンバーグの「危険なメソッド」をDVDで観る。ザビーナ・シュピールラインをめぐるフロイトとユングの物語。世紀末から20世紀初頭のヴィーンの雰囲気がわかる。スイスのブルクヘルツリ精神病院にサビーナが強制的に入院させられる場面があるが、本物のブルクヘルツリであろうか。  フロイトとユングの初対面の場面が面白い。ユングの妻が裕福であることを知った生活に追われる開業医フロイトの反応や、フロイトがユダヤ人であることで精神分析が迫

      • 本と酒の日々:スマホのない人生から半導体をみたら

        スマホを使わない人生をなんとか貫徹しよう、あと長くて10年だ、と思っても時々気持ちが萎えそうになるので、時には「敵情視察」をすることで決心を長持ちさせようとしている。 『半導体戦争』はあの政商学者クルーグマンがやたら面白がっていたのできっとオモシロいに違いないと思って読み始めたら、期待にたがわずオモシロかった。 『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか』は、ビットコインが流行っていた頃、ブロックチェーンを維持するための大量の電力を中国の発電力に依存していて中国に広大な発電

        • 悲惨な戦争  (ゴキ戦記)

          その濃い茶褐色の不吉な影が水道管の後から突然姿をあらわしたのは、一糸まとわぬ無防備な姿の私が給水口の蛇口に手をかけたその瞬間であった。 何もなかった砂漠に突如あらわれるゲリラのように襲ってきたこの敵、ゴキブリという地上あまねく存在するこの人類の天敵に、無防備のまま遭遇した時には、さしもの私の高度な知性も麻痺するらしい。なにか武器はないか!という原始的な思考が反射的にひらめいた。しかし、ここには丸めて筒にすべき雑誌も新聞紙もない。叩きつけるべきスリッパもない。風呂場というのは

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          少数派になることのエレジー

          絶妙なタイトルの本。 『もうすぐ絶滅するという煙草について』キノブックス、2018 ひとつの文化が絶滅していくことへの哀惜に満ちているではないか。 驚いたのは、中井久夫の文章が含まれていることだ。中井ファンには知られた文章なのかもしれないが、中井久夫の文章なのに素直で、しかも思わず笑いが漏れてしまう。禁煙成功者がよくやる自慢話へのピリリとした皮肉にもなっている。 谷川俊太郎の詩もよかったので、書き写しておく。 「煙草の害について」 公園に吸殻を散らかし 家じゅう

          少数派になることのエレジー

          人生、あほうだんす。踊るように哲学を。

          人類学には「一人民族誌」という分野があるらしい。僕の連想ではクローバーの「イシ」などが思い浮かばれるのだが、この本の著者トム・ギルは水俣病患者の緒方正人からの聞き書きである「常世の船を漕ぎて」を代表的一例に挙げている。その選択からもわかるように、マイノリティーへの視線が確かな著者だと思う。 そのトム・ギルの快作「毎日あほうだんす 横浜寿町の日雇い哲学者西川紀光の世界」(キョートット出版)は、西川紀光(きみつ)という一人の男の一生を通して寿町の世界を描きあげた、というと立派な

          人生、あほうだんす。踊るように哲学を。

          社会批判のレイヤーについて  PCRと甲状腺の政治学

          PCR検査のことをあれだけ言っておいて、偽陽性が多いだろう福島の甲状腺検査はオッケーとはこれ如何にと訝しがられることがある。もっともな疑問であり、MBA取得のコンサルタントだったらここでペンをくるりと回してペン先を質問者に向けて「良い質問だね、ありがとう」と言うところだ。 だが、その説明はきっとなかなか骨が折れる。僕にとって、いろいろなことはその時々のレイヤーの中で位置づけも意味づけも違うのだ。日常生活のレイヤー、臨床の、社会運動の、政治批判のレイヤーなどなど、このレイヤー

          社会批判のレイヤーについて  PCRと甲状腺の政治学

          水俣、という経験  権力は謀議する

          山本義隆『近代日本一五〇年 ─科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書) 水俣病は1959年にはチッソ工場からの排水に含まれる有機水銀が原因であることがわかっていた。しかし当時の通産大臣・池田勇人はチッソの排水と水俣病との因果関係を否定する「閣議決定」を行った。それから10年してチッソは排水中の有機水銀が水俣病の原因であることを認めたが、これは日本の化学産業がこの時点で有機水銀発生源のアセトアルデヒドの生産を終了したためである。その10年の間に不知火海に膨大な有機水銀が流れ、水

          水俣、という経験  権力は謀議する

          カルトからDMもらっちゃったい!

          普段から日本の精神医療の貧困、遅れ、人権侵害などなど、あっちゃこっちゃで批判していたら、あの『市民の人権擁護の会』からダイレクトメールを、しかも宛名手書き!!でいただいた。 精神科の診療報酬不正請求を内部告発しましょうという内容。 ええことやっとるやん。 でも、それ言うなら精神病院なんてまるごと不正請求みたいなもんでっせ。いまだに多くの精神病院は医者なんてまともに診察してへんのやし。(ひきもきらず起こる病院不祥事、患者虐待を見てみ。) で、ちょっと待て、人権を謳うこの

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          酒と本の日々:ADHDの生みの親、キース・コナーズの伝記として

          アラン・シュワルツ『ADHD大国アメリカ  つくられた流行病』(誠信書房、2022) こういう題目の本を、ジャーナリスティックとかセンセーショナルな話題にすぎないとして敬遠する人は多いと思う。精神医療『噂の眞相』班をもって任ずる僕の紹介ならなおさらだろう。 だが、ADHDの過剰診断と精神刺激薬の乱用はすでにアメリカでは社会問題になっており、それでも逆に子どもの診断マーケットが飽和して大人の領域に進出しつつある。今後日本でも問題になるはずの領域である。 この本の読み所。

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          酒と本の日々:高口光子vs上野千鶴子、鬼滅の介護対談

          髙口光子・上野千鶴子『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』(集英社新書、2023) 紹介するのはスリラー対談ではない。だが、実に怖い本である。まずは登場する二人の女が怖い。ひとりが怖いのは全国的に有名である。東大でケンカの仕方を教えていたという人だ。習いに行く芸能人までいたぐらいだから本当に強いのだ、ケンカ。 もうお一方はそこまで有名ではないが介護の世界では超有名だ。あの介護界の大御所、シーラカンスと呼ばれる三好春樹が完全にキンタマを握られていると

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          酒と本の日々:國分功一郎、アガンベンを語る

          【アガンベン、再見;國分功一郎『目的への抵抗』(新潮新書;2023)】 2020年5月、『現代思想』でアガンベンを読んでしまったことが、その後の3年間の僕の振るまいを決定してしまった。同書の他の思想家、ジジェクもナンシーも、当時確かに未知のものであった感染症に脅えてそれまでの自分たちの思想を放棄してしまうほど老いて衰弱しているように感じたのだ。 だがアガンベンの問題提起は惨憺たる反感と批判を浴び、ついには無視されてしまった。そしてこの日本でも、本来なら社会が号令ひとつで一

          酒と本の日々:國分功一郎、アガンベンを語る

          酒と本の日々:なんで今さらインフルなのよ、インフル怖くてコロナが終わるかぃ!

          2020年1月11日記 風邪ごときで仕事が休めるかい!!と思って60年生きてきた僕が勧めるのも変な話ではあるが、サラリと読めてちょっとおもろい新書。 木村知著「病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ」(角川新書) 著者のことは知らないがネット上ではけっこう知られたプライマリケア、在宅医らしい。 帯にある「健康増進法という健康自己責任法」「「自助」を強いられる不寛容社会で命を守るために私たちができること」という惹句で、まっとうな内容であることが推測されるが、中味も

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          酒と本の日々:コロナワクチン問題読み比べ

          3年前のFBにあげた記事。 この後峰宗太郎という人は何の釈明もなくひたすらワクチン推進路線に走り、いつのまにかぷっつりと現れなくなった。 免疫学の宮坂氏とこの人、現代科学者が社会的発言のなかで行った「現代の転向」として究明価値すらあると思う。 2021年1月11日 記 【新春新書読み比べ】 コロナ関連の新書新刊2冊。 こういう本を買うとまず、検査についてどう書いてあるかを見る。検査についての理解がしっかりしていて、それをわかりやすく述べていれば合格。そうでなければ、そ

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          酒と本の日々:『欲望会議』 ~ポリコレに疲れる日常に

          千葉雅也 二村ヒトシ 柴田英里 『欲望会議 「超」ポリコレ宣言』(KADOKAWA 2018) 今日はポリコレなことをやったり言ったりしている合間あいまにコレ読んで、ポリコレに走る自分の毒を中和していた。 二村ヒトシはレズものや女装ものを撮ってきたAV監督で、自分とは趣味があわないので数編しか見たことないし、著書も多いけど自分とは文体あわないのであまり読んではいないが、宮台真司と対話した「どうすれば愛し合えるのか」が面白かった人で、自分の欲望と素直に向き合える人と思った。

          酒と本の日々:『欲望会議』 ~ポリコレに疲れる日常に

          酒と本の日々:野口裕二「ナラティブと共同性 自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ」

          【野口裕二「ナラティブと共同性 自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ」(青土社;2018)】 ~「愛」の体現としてのオープンダイアローグ シンポジウムの素案が固まったので、次の原稿の準備へ。オープンダイアローグについてはあくまで一翻訳者と言いながら、次々来る原稿依頼に応じて乏しい内容を絞り出していると、自分の頭が干からびてくるのがわかる。脳は皺が増えるのは歓迎らしいが、ひび割れができるのは困る。それでこの分野の先達の本を読んで、ちょっと潤しておくのだ。 ナラティ

          酒と本の日々:野口裕二「ナラティブと共同性 自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ」