悲惨な戦争 (ゴキ戦記)
その濃い茶褐色の不吉な影が水道管の後から突然姿をあらわしたのは、一糸まとわぬ無防備な姿の私が給水口の蛇口に手をかけたその瞬間であった。
何もなかった砂漠に突如あらわれるゲリラのように襲ってきたこの敵、ゴキブリという地上あまねく存在するこの人類の天敵に、無防備のまま遭遇した時には、さしもの私の高度な知性も麻痺するらしい。なにか武器はないか!という原始的な思考が反射的にひらめいた。しかし、ここには丸めて筒にすべき雑誌も新聞紙もない。叩きつけるべきスリッパもない。風呂場というのは