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本と酒の日々:スマホのない人生から半導体をみたら

スマホを使わない人生をなんとか貫徹しよう、あと長くて10年だ、と思っても時々気持ちが萎えそうになるので、時には「敵情視察」をすることで決心を長持ちさせようとしている。

『半導体戦争』はあの政商学者クルーグマンがやたら面白がっていたのできっとオモシロいに違いないと思って読み始めたら、期待にたがわずオモシロかった。

『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか』は、ビットコインが流行っていた頃、ブロックチェーンを維持するための大量の電力を中国の発電力に依存していて中国に広大な発電所とサーバーが並んだ巨大都市ができている、その環境汚染がすごいと聞いていて、ビットコインが下火になってコロナ禍でいろいろなことがウヤムヤになっているので、どうなっているか知りたくて購入。これも予想以上のことが書かれている。全体としては、現在の世界のデジタル産業のエネルギー・資源消費量は、イギリス一国の消費量の3倍に達し、世界の電力量の10%を消費しているのだそうだ。

10m先の同僚にSNSでいいね!を送ることがインターネットではどれだけのエネルギーを消費するかなどと細かく見せつけられると、SNSをこうやって使う気分もチト萎える。それでもしかし、スマホを持たないおいらは、LINEもできない。あのLINEというヤツはハタから見る限りやたらとスタンプとやらを使って、いいね!押すよりずっとエネルギーを消費していそうだ。LINEをやれないということで、これでいいのだと思うことにする。
日本では熊本が今、半導体バブルであるそうな。熊本出身者に聞いたところでは空港の周囲ががらりと変わって地価高騰し、広大な土地が台湾のTSMC誘致のために使われるという。雇用に関しても地元の期待はすごそうだ。

『半導体戦争』によるとTSMCはその機能の中核を台湾外に出すつもりはなさそうなので、どれだけの技術転移が日本に有利になるのかはわからないだろう。もしかしたら、半導体に必要な莫大な量の良質な水が奪われ、かつての東南アジアのように日本人が半導体の周縁部の作業に安い労働力として使われるだけなのかもしれない。
だとしても、TSMCの誘致はグローバルな危機管理の一環であることは確かで、中国の台湾侵攻に備えて工場機能を分散する目的があり、それはアメリカの対中戦略のひとつに日本も組み込まれていくことである。

台湾の人ら自身は自分たちがTSMCのような中核的半導体産業を握っていることによって、中国からの侵略から守られていると思っているとのことだ。しかし、逆にいえば中国の強力な国家企業が半導体の自給に成功してTSMCが企業として中国からみた価値を失えば、中国が台湾に侵攻する事態は起こりえる。その場合、半導体サプライチェーンを失って混乱するのは西欧諸国のほうなのだ。それゆえ、アメリカの軍事戦略は台湾半導体企業をどうしても分散させておきたい。そのひとつが日本であり、現在の熊本なのだろう。そのあたりの激しい競争について書かれた本であり、ドキュメンタリーの面白さとしても一級である。さすが、政商学者クルーグマンだ。大衆の好みをよく知っている。

ところで、技術としての半導体はムーアの法則に限界が言われている現在、次のブレークスルーを待たねばならない状況だと思うが、これらの本を読む限り、また最近の半導体バブルの状況をみる限り、産業としての半導体は今しばらくグローバルにもさらなる発展を遂げるだろう。そのスピードは、今世紀に入ってからますます加速しており、今世紀からコロナ前までは5年単位で変化していたのが、おそらく3年ぐらいでめまぐるしく変化していくだろうと思う。これは生成AIが出現した影響が大きいだろう。巨大なデータ(サーバー)センターがそこかしこにできていくだろう。そして、これがまた凄まじいエネルギーを消費していくに違いない。

それはそれとして自分事としては、3年で状況が大きく変わるとなると、あと10年、スマホなしでやっていくという自信が挫かれてくる。このまま現金を握りしめる感触を経済の身体的基盤としてやっていけるんだろうか、おいら。



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