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八戸の老舗百貨店「三春屋」閉店へ、中心街もクルマ優先へ転換を

 青森県の八戸市を中心とする県南部で広く読まれている地元紙「デーリー東北」。同紙の人気コラムで複数の寄稿者が執筆する『私見創見』を2020年から約2カ月に1度のペースで書いています。
 第11回は2022年3月8日付から。2022年4月に、八戸市中心部にある老舗百貨店が閉店になるとのニュースを受けて、クルマ社会の要請に合っていないのではないか、という(やや古くさい)視点で書いてみました。
(※掲載時の内容から一部、変更・修正している場合があります)

八戸市十三日町13番地にある老舗百貨店「三春屋」を、経営主体のやまき三春屋(八戸市、土屋与志晴社長)が2022年4月10日に閉店すると決めた。中心街のにぎわいを支えてきた三春屋の喪失は、本当に残念で寂しい。

昭和から平成バブル期の頃まで、地方の百貨店はファッションを中心に「都会的な華やかさ」を地元顧客に求められてきた。三春屋はそれに乏しかったが、地下の食品売り場は鮮度や品ぞろえの評価は高く、ローカル百貨店ならではの魅力があった。

筆者の弟は学生時代に、三春屋の地下の鮮魚コーナーで、これまたローカル色あふれる「生ホヤの殻むき」のアルバイトをしていた。そんなことがあって個人的にも親しみ深い店だった。

百貨店は地方だけでなく東京でも衰勢の一途だ。モノと情報の入手に格差があった昭和の頃ならともかく、今はチェーン店が全国に広がり、ネットで最新コンテンツを入手できる。百貨店が記号的に「都会的=流行発信の場」だった意味はすっかり薄れ、今は流通業の中で非常に中途半端な立ち位置にいる。

大多数の人がクルマで移動する地方では、街の中心部にある百貨店は「不便な店」でしかない。八戸もそうだが、中心街は今も(一部例外を除き)駐車する場所を探す必要がある。買い物をしなければ駐車料金を払う必要があるなど、運転者への壁が高い。

飲酒後の帰りに運転しないのが前提の飲食店は今も強いといえるかもしれない。だが、物販店はどうしても分が悪くなる。

市民の行動もそれを証明している。八戸近郊では中心部にあった長崎屋は1990年に八戸市沼館地区に移転して「ラピア」となり、今も隆々としている(※後記参照)。1995年に開店した「イオンモール下田」(おいらせ町)も人気が続く。いずれも駐車場と料金の懸念が不要だ。

平成の30年間を振り返ると、郊外でクルマ社会に合わせた業態を展開する企業の成長が目覚ましい。これは鉄道網が充実している首都圏でも同じだ。

都心型店舗が多い「東急ハンズ」を3月末に傘下に置くホームセンター国内首位のカインズや、作業着からトレンド服まで扱い人気のワークマンなど、6つの物販チェーンからなる群馬県発祥のベイシアグループ。2020年度の売上高は1兆円を突破し、20年間で約3倍になった。首都圏郊外型スーパーのヤオコーやベルクも急成長を遂げた。

そうした成長企業は都心から半径約30キロメートル離れた地域をぐるりと囲む国道16号線沿いに多く出店。その沿線人口は約1200万人もあり、30代以下の子育て世帯が急増している。

国道16号線「日本」を創った道』を著した柳瀬博一・東京工業大学リベラルアーツ教育研究院教授は「業績を比較すれば、クルマ社会に対応して郊外型店舗を広げてきた流通業が伸び、鉄道集客に依存した都心型店舗が落ち込んできたのが明白である」と話す。

全国的にも駐車場の大きな郊外型モールを展開してきたイオングループは勝ち残った。一方、バブル期に土地値上がりを前提に融資を受けて都市の中心部に大型出店してきたダイエー、そごうは破綻した。

三春屋も中心街のシンボル的に百貨店であり続ける意義は、もう残念ながら、ない。三春屋をはじめ、街の物販店で働く人の雇用と街のにぎわいを守るには「クルマで行きやすい街づくり」が本質的に重要になる。

資金を要するため困難ではあろうが、提案したい。三春屋の土地か市中心部に6〜8時間無料の大型駐車場を、八戸市や商店街連合などが整備する。駐車場の建屋内にも店舗を置けば、客は中で飲食や買い物もできるし、街にも出かけやすい。

地下には評判の高い三春屋の食品部を置き、周囲には市民が自慢できて観光客を招きやすい横丁的フードコートも設けたい。クルマ社会を取り込んで中心街を活性化するには大胆な政策が必要になる。


 (初出:デーリー東北紙『私見創見』2022年3月8日付。社会状況や肩書などについては掲載時点でのものです)


【後記】
 ほかの地方都市と同様、我が故郷である青森県八戸市も「車がないと生きていけない」社会になって久しい。はっきり言って鉄道駅を起点に、近くに住むのを考える首都圏に住む人々との差は、いかんともし難い。

それでもあえて、とこの記事を書いたのは、昔から思い出の多い地元の老舗百貨店が「潰れる」とのニュースに接したからだった。

 八戸市中心部にだって駐車場がたくさんあるのは知っている。今もたくさんあり、これからもたくさんあり続けるだろう。だが中心街はますます寂れてきており、昔は「イトーヨーカドー」だった中心部の一角も取り壊され、マンションが建つという。はっきり言って往時の賑わいは見る影もない。

 だが、上で「今も隆々としている」と書いたイトーヨーカドーも2023年末、全国の地方都市にある店舗を再編すると発表した中で、八戸市沼館の商業施設「ラピア」にあるイトーヨーカドーを2024年の夏に閉店することを明らかにした。

 中心街からヨーカドーが移転した沼館地区も、そんなに郊外とはいえない。ただ中心街に近いかどうかは、あまり関係ないのだろう。

 八戸市だけでなく、地方の中堅都市は日本の人口構成の変化(老齢化)で消費力が生活に欠かせない若い人が、もういない。いや、いても少ない。

 日本政府の少子化対策の“貧困性”と“無気力性”を嘆いても仕方ないが、無策のまま長く放置され続けているとしか言えない状況が続いている。

(了)

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