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interview5/今だからこそ生まれた世界

大河紀さん(アーティスト)

友達に連れられて、大河紀(おおかわ のり)さんの個展に行きました。
大河さんの絵は、
シンプルな円、線、ユニークな色使いの組み合わせが印象的で、
一度見ればすぐに覚えてしまうような作風です。
私はアートにあまり詳しくない人間ですが、
作品を教えてもらってからというもの、デパートや雑誌などいたるところで
大河さんの絵に気が付くようになりました。
それほどに強い個を持つ、人気のアーティストさんなのだと
勝手ながら思っています。


この日伺ったのは『狼煙(のろ)す絵画』(2022年1月10日〜19日)という個展。
バラエティ豊かな神様が描かれた5枚の絵画と、
それらの作品の隣には絵画をイメージした香水が設置してあり、
目と鼻とで世界観を楽しめる少し変わった展示会です。

友達と会話を楽しみながら作品を眺めていたら、
なんと、大河さんご本人が声をかけてくださいました。
作品はもちろん、生き生きと自分の作品を語る大河さんはとても素敵で、
絵から元気をもらえるのは、作者のお人柄があってこそなんだなと思いました。

今回お披露目された作品は、コロナ禍を踏まえて生まれたものだそうです。
お話を伺い、自分のやり方で世界に向けて祈りを送れることがとても素敵だと思い帰ってすぐに文字にしました。

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(取材?:2022年1月)

Vividに祈る

大河さん
こんにちは〜。今日は来てくれてありがとうございます〜! お2人がじっと絵を見てくださってること、横目で見てましたよ。

――は! わざわざお声がけいただきありがとうございます。素敵な展示会です、ありがとうございます!

大河さん
よかったです〜!

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――絵と一緒に香りを楽しむのって、はじめてです。香りから絵のイメージを膨らませたんですか? それとも絵から香水をつくったんでしょうか。

大河さん
まず絵を描いて、調香師さんに絵の意味を説明して、それに合わせた香りをつくっていただきました! どんなのがくるのかな〜って待ってたんですけど、思いの外パンチの効いた香りがきて! とっても気に入ってるんですよ。
実は今回私が描いた絵は今までになく派手な配色になったので、ハッとさせるこの香りと、ガチッと合ったなって。もうまさに奇跡のコラボレーションです。へへへ。

今回私が描いたのは神様なんです。日本の神様と、世界の神様が一緒に楽しそうにしている様子を描きました。私は海外旅行が好きなんですけど、このご時世なかなか行けないじゃないですか。だからこそ、自由に旅行ができる世界になるようにって思いを込めて、日本と世界の神様を同じ絵の中に描いたんです。

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例えば手前の絵だと、天照大神っていう日本の神様と、エジプトの太陽神ラー。どっちも太陽の神様で、陽キャって感じ。

ーーたしかに。ピースとかしてて、ちょっと”ウェイ!”な感じ。

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大河さん
ですよね。へへへ。その奥の絵は、日本神話に出てくるスサノオノミコトと、ヒンドゥー教の破壊神シヴァです。「破壊神」っていうくらい、この2人は喧嘩っ早いというか、乱暴で強い神様なんです。だから拳がいろんな方向に飛んでるんですよ。四隅で牙をむいているのがヤマタノオロチっていう大蛇。2人で悪霊退散をしている絵です。

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あとこれは、日本を作ったと言われるイザナミとイザナギっていう2人の神様と、それをこう、包んでいるのがギリシャ神話に出てくるエロスですね。どちらも愛の神様です。

――なるほど。さっき2人で、この絵はなんかちょっとサイゼっぽいね、という話をしていました(笑)。

大河さん まさにそうですね(笑)。

(その後なんと全作品、制作意図や裏話までたっぷりお話いただきました。全部面白かった……。)

――すごく面白いです! いろんな国の似たもの同士の神様が、1枚の絵の中にいるんですね。どの神様も楽しそうにしていて、なんだか元気をもらえます。指ハートをキメてるイマドキな神様もいる。

大河さん
そうなんですよ~! ちょっとこう、テンションが下がってる時代だから、コロナが終息するといいな、自由に旅行ができたらいいなという祈りも込めて、楽しそうにしてる神様を描きました。

――大河さん自身の祈りが込められているんですね。作品にひもづく香水を作ったのはなぜですか?

大河さん
それもコロナの今だからこその発想なんですが、やっぱり今ってマスク、つけてるじゃないですか。匂いを感じる機会ってすごく減りましたよね。旅行に行くと現地の匂いをダイレクトに感じられて、そこも私は楽しいなって思うところなんですけど、そういうのも今では難しい。だからせめて作品で少しでも「いろんな匂い」を楽しむ感覚を思い出してもらいたいなって。

それにマスクって、どうしても距離ができちゃいますよね。そういうのもブチ破っていきたくて。コロナとかマスクとか関係なく、ダイレクトに楽しんでほしいって思ったからです。今回はキャンパス生地に絵を印刷して、その上下に木材を取り付けた「掛け軸風」のあしらいにしたんですけど、それも、ただの額だと作品と見る人との間に距離が出てしまうなと思ったからです。あとは「日本と世界の神様の融合」を描いているので、見せ方も和洋折衷にしてみました。

ビビっと決まる

――なるほど。コロナの今だからこそ生まれた発想と作品なんですね。先ほどちらっと、「いつもよりも派手な配色」と言っていましたが、本当に色鮮やかで、そこも素敵と思いました。

大河さん
そう言っていただけてすごくうれしいです~~! 配色、すごく頑張ったので! ああでもないこうでもないって何度も何度も考えて、ようやくできたんです。いつもより鮮やかになったのは、やっぱりちょっとでも明るい未来がきてほしいなって思ったからですね。

――配色が決まるときは、「これだ!」ってバチっと決まるものですか? それとも、ぎりぎりまで直して、「うん……これならOK……!」みたいな感じなんでしょうか。

大河さん
あ~そうですね。何度も何度も試すんですけど、決まるときは「これだ!」ってガチッと決まりますね。そこからはもうほぼ直しはないというか、それ以上に手を加えられなくなります。「この絵はこれ以上にはならない!」みたいな感覚。

――とすると、今改めて自分の作品を見て「ここ、こうすればよかった~」みたいに思ったりすることは……?

大河さん
ないですね! これはこれで完成形! なんか、自分の作品なのに、“別物、別人”みたいに見えるんですよ。完成して自分の手から離れてくというか。今はなんというか、「行ってらっしゃい!」って送り出す気持ちで自分の作品を見ていますかね、そう言われれば。面白いですね。

――すごい……! 作家さんならではの感覚、とてもカッコいいです。神様を描いているから、なおさら遠くに行く感覚があるのかもしれないですね。たくさん教えてくださり、ありがとうございます!! 作品だけでも十分楽しめるけど、お話と一緒に作品を見ると、面白さも感動も倍になりました!

・・・

個展を見た後友達と、旅の話になりました。友達は生まれてからこれまで、日本のいろんな場所で一人暮らしをしたことがある人です。一方私は生まれてこの方、ずっと同じ人と同じ場所で暮らしています。
その友達に、自分を知らない場所で生活をするのは怖くないのかと聞いたら「それって逆に楽しいんだよ。自分のこと知ってる人が誰もいないのは」と教えてくれました。そういうもんかと思いつつ、帰り道に『狼煙(のろ)す絵画』を検索したら、大河さんの説明書きにこうありました。「私にとって、知らない文化や言語が飛び交う世界は、自身の孤独を愛すことができる大切な場所である」。私たちはなんのために旅をするのでしょうか。つながるためか、それとも一人になるためか。いずれにせよこの日の経験は今年のお守りにしようと思います。

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