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Interview3/Thank you for the MUSICAL!

ちかさん(オーケストラコーディネーター)

ちかさんとは、少し変わった出会い方をしています。
6年ほど前、お互い22歳だった頃に
彼女が働いていた会社を、私が営業社員として訪れたのです。
私の拙い営業トークはそこそこに、
同い年で、趣味も同じミュージカルということに気づき、
途中から最近見た舞台の話で盛り上がり、連絡先を交換したのが始まりです。

その後は一度ご飯に行って、お互いSNSで近況を知る程度。
会う回数は少なかったけれど、私にとって大切な友達の一人になりました。
「意気投合」っていう奇跡みたいなことがあるもんだなとつくづく思います。

ちかさんは2019年の春に前職を辞め、私は最近5年半勤めた会社を辞めました。
なので彼女は私より一足先に、新しい道を歩いています。
SNSを見る限り、自分の行きたい方向に進んでいるよう。
そんな彼女からエールをもらいたくて、5年ぶりにお茶に誘いました。

(取材:2021年11月)

夢見た世界で。

――久しぶり! と、言いつつ2人で会うのってまだ2回目くらいだね。

ちか
商談もいれたら4回目くらいだよ。

――あはは、懐かしいな。今は舞台の仕事をしてるんだっけ。

ちか
そう。2019年の3月に前職を辞めて、今は「オーケストラコーディネーター」っていう仕事をやってるんだ。ミュージカル作品の依頼や編成を聞いて条件に合う演奏者を集めたり、パフォーマーに譜面を配ったり、スケジュール調整からリーサルの仕切り……管理全般だね。今もいくつか公演を担当してて、同時進行でいろんな作品のオケをみてる。

――そんな仕事があるんだね。なかなか忙しそう。

ちか
そうだね~。正直前職よりもずっと忙しい! どんな感じに働いているかと言うと、例えば、本番が始まるでしょ。それを見届けたら、今度は楽屋で次の準備に向けてノートPCを開いて、演奏のクオリティをチェックしつつ作業、みたいなのが日常茶飯事。

ーー素人発言だけど、プロの演奏がBGMって贅沢だね……! でも仕事となるとそんなゆっくりしてられないか。

ちか
私はミュージカルが大好きだから、仕事として携われるのはうれしいけど、前みたいにただ観客として作品を楽しむ、みたいのはできなくなったかなあ。舞台を観てもどうしても音楽を気にしちゃうし、劇場で仕事の人に会うかもしれないしね。休みの日も仕事のことばっか考えてる。

ミュージカルなしに語れない自分史。

――たしかミュージカルの専門学生だったよね。そのあと飲食チェーンの本社で働いて、今の仕事。夢を叶えたんだなと思って、今日はいろいろ聞きたくてお誘いしました。せっかくだから思い出の場所を聞いたら、浜松町。

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ちか
そう。劇団四季を観に、昔よく来ていたから。ミュージカルが好きになったきっかけも、四季の「キャッツ」で。

――そうだったんだ。それはいつの話?

ちか
小学5年生だったかな。観劇好きの母と、母の友達に連れられて観に行ったんだけど、もう雷に打たれた衝撃ですよ。 観劇後にTシャツ、次の日にはサントラも買ってもらって、その日からずっと「キャッツ」のことで頭がいっぱい。ずっと歌って踊ってた。それまでバレエは習ってたんだけど、その日から「キャッツ」に出たい、ミュージカルを演じる側に行きたいって思うようになったのね。

――それが始まりだったんだ。それからどういう道を?

ちか
中高は普通科で、周りに合わせてバドミントン部とか英語部とか部活をやりつつ、バレエも観劇も続けてましたね。あとは声楽とか市民ミュージカルを始めたりもして。高校になると、宝塚とかTOHOとか、見る演目に広がりが出てきたかな。高2の時、宝塚を受験したこともあるよ。まあ記念受験でしたね。

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でもそういう生活だと、お金がかかるでしょ。だから高1からは地元のシーフードレストランチェーンでバイトを始めたの。バレエ以外の習い事や観劇は、自分のお金で。ちなみにそのバイト先が、前職。

――え、じゃあバイトスタッフから社員になったんだ。

ちか
そうなんです。
で、高校3年生くらいからは、TOHOのアンサンブルになりたいなって気持ちが大きくなってって、それに向けて学校を探し始めたかな。それで専門学校のミュージカル科に入学したんだ。

――ミュージカル科ってどんな感じなの?

ちか
もうね夢のような2年間だった。ふふふふ! 20人くらいのクラスで時間割が決まってて、1時間目「発声練習」、2時間目「モダンダンス」、3時間目「芝居」、4時間目「ヒップホップ」……みたいな感じ。授業も楽しいんだけどさ、休み時間とか放課後とか、みんなでよくミュージカルごっこしたのが楽しかったな。しかも私の代、みんなすっごく仲が良くてさ。

――楽しそう! そんでごっこ遊びのクオリティが高そう(笑)。 専門卒業後はどうしたの?

ちか
就職活動としていくつか劇団のオーディションを受けたよ。それで、規模は大きくないけど希望の劇団に入団しました。

――おお~! ついに役者さんになったんだね。

ちか
そう。ふふふ。そこで何作品か舞台に立って、喜びはもちろんあったけど、だんだん後ろめたい気持ちが大きくなってきちゃったんだよね。

――後ろめたい気持ち?

ちか
親のすねをかじり続けなきゃいけないから。チケットノルマとかレッスン代とか、バイトを続けてもどうしても自分では払いきれなくて。それを親にお願いしてたんだけど、だんだんお願いしづらくなっちゃって。舞台に出る喜びよりも、常にお金がない、みたいなジレンマが。

――ああ……なるほど。

ちか
それでいったん、自分を整えたいなって。やっぱり一度は社会人の生活をしてみたいし、すべきだって思ったの。20代前半にデスクワークとか経験しておいて、それから女優を目指す、とかの方が人生の選択肢が広がるかなって。
バイト先でそういう人生相談をしたら、本社が人足りてないからどうかって誘ってくれたの。それで、レストランチェーンの広報部に。華のOLライフの始まりですよ(笑)。

ライフワークの舞台はどこ?

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――おお~。その後私たちが出会ったのか。会社生活はどうでした?

ちか
そう。出会ったときは入社2年目だったかな。会社には、仕事を自分のライフワークと捉えて前向きに働いてる人が多くて、素晴らしい場所だった。私もそのモチベーションで「働く」ってことをしたいなと思ってたんだけど、4年目の25歳の時に、それをするのはここではないのかもしれないなって思い始めたの。で、また悩み出します。

――会社に不安はないけれども。

ちか
うん。仕事は快適だし悪いとこはないけど、このままOLを続けていいんだろうかって。将来結婚とか子どもができたら、自分の時間が制約されるでしょ。そうなったときにミュージカルにもう一度挑戦しなかったことを後悔しないかなって。

――これからの人生に悩むタイミングだったんだね。

ちか
それを素直に上司に相談したら最初に、「新しい道に行ってみたいって思ってくれたことがうれしい」って喜んでくれたの。すごい人だよね。で、「次の就職先が決まるまではここにいて、決まったらそっちに行きな」って背中を押してくれました。ほんとに、器がすごく大きい人でさ。なんかこう話してたら、改めてすごい人だったなって、こみあげてくるものがあるね。で、働きつつ転職活動をして、今の会社を見つけたの。

今の会社はね、求人に「ミュージカル好き歓迎! 根性がある方歓迎!」って書いてあって、業務はよく分からなかったんだけど(笑)、この2つは満たしてるなって。割と軽ノリで応募しました(笑)。

――そして今日に至ると。さっき大変な仕事って言ってたけど、それでもきちんと続けていてすごいね。ちなみに前職って、バイト含めてどのくらい在籍してたの?

ちか
えっと……15歳でバイト初めて、25歳で辞めたから……関わったのは丸10年かな。かけがえのない場所になりました。

――ざっくり勤続10年。いやほんと、お疲れ様です。

大好きな人たちに、背中を押してもらったんだから。

――もともとミュージカル女優を目指してて、それから社会人を経験して、今度は舞台を支える仕事に就いたってことか。

ちか
そう。入社した時は女優に戻ることを考えてたのに、社会人を経験してその気持ちが変わったんだよね。レストランチェーンの本社では、店長とかお店の人とか「人を支える業務」が多くて、私は人を支えることが好きなんだってことに気づきまして。だから、転職活動では舞台を支える仕事を探しましたね。

――自分の好きなこと自体は変わっていないけど、いろいろ経験してそれに対する見え方が変わったっていうのは、面白いし素敵だなあ。

ちか
そう言われればそうかも。そういうわけで好きな業界に就けたけど、2年働いた今はまだまだできてないことばっかです……。

――正直、「前の仕事の方がよかったな」みたいな気持ちはあったりします?

ちか
それはない! というか……。私は前の会社の人たちに「辞めさせてもらったんだ」と思ってて。だからくじけそうになったときは、「皆さんが送り出してくれたんだから、ここで負けてはいられない!」って思うようにしてる。前職の経験やそこで出会った人が、今の仕事のモチベーションになっているというか。

――はあ素敵。私も最近5年半勤めてた会社を辞めたんだけど、正直今更ながら迷いもあって。6年目くらいからようやくいろいろ自由にできるようになるはずなのに、今辞めて正解だったのかって。だから未来の自分が「今この時、この決断をしてよかった」って思えるように舵を取っていかなきゃと、なんというか、緊張してるところ。

ちか
うんうん分かる! 私たちマインドが似てるね。前の会社の大好きな人たちのためにも、これから頑張っていかなきゃね。

夢を叶えた今の夢。

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――おっと、お話が身に沁みすぎて、つい自分の話をしてしまいました。ほかに、今の仕事のモチベーションというか、喜びを感じる瞬間はある?

ちか
あとはね、演目のパンフレットに自分の名前が載ってるのは、喜び。

――おおすごい! そうなんだ。

ちか
うん。これはもう毎回感動しちゃう。小さい頃から夢にみてきたミュージカルに、やっと携われたんだな~って。母も毎回劇場に来てくれてて、パンフレットも買ってくれてるみたい(笑)。

――お母さんもうれしいだろうなあ。ちかちゃんがミュージカルを好きになるその瞬間を見た人だもん。こうして夢を叶えて感慨深いだろうな……。今後について夢はある?

ちか
そうだねえ、やっぱり将来的には、家族や子どもを持ちたいなと思ってる。母親になってこの仕事を続けるのは、多分私には難しいと思うんだ。だから今はとことんこの仕事を極めたい! できるところまで!

――タフな仕事なのに、「辞めたい」とか後ろ向きな言葉とか愚痴が出てこないの、ほんとかっこいいね。

ちか
いやいや私なんて……。とりあえず数年は辞めない! 入社したてに担当した演目で、ある女性スタッフにお世話になったんだけど、その方が本っ当にかっこよくてさ。いつか仕事で再会して、大きくなったって思ってもらえるようになるまでは辞めれないな。

――今の仕事でも素敵な出会いがあったんだね。

ちか
本当に、恵まれてます。今日はなんか、今までの自分を振り返れていい機会だったよ。ありがとう。また近いうちに会おうよ。

――こちらこそ! 私もすごく背中を押されました。ぜひ。
 
(おわり)


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