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子どもを産みたい、産みたくない

昨年8月に結婚したので確か11月だったと思う、もう避妊しないでもいいんだねと夫と話をしたのは。“セックスの結果”に伴い、“子が生まれ”ても、社会的にも許される。

今29歳の私。妊娠するなら早いほうがいい、とどんな人からも言われるからたぶんそう。それに私にはハンデがある。卵管が一本ない。だからなおさら子どもを産みたいのなら急がないといけない。でも、怖い。本当に子どもがほしいのか?と自分に問うと、即座にYESと答えられない自分もいる。

少しだけ昔話をしたい。10年前、私は19歳のときに子宮外妊娠をした。完全に事故である。当時付き合っていたA君との行為の途中で、膣の中でコンドームが外れてしまった。故意じゃないんだから、誰も責めれれない。

その後、すぐにアフターピルを処方してもらいに新宿の薬局に行った。二人ともすごく焦っていて、でも行為24時間以内に飲んだから大丈夫だと思った。処方してくれた医者にも99%の確率で避妊できるから大丈夫だよと言われたから安心してた。

それから、どれくらい経ったか覚えていないが、道端を歩いていた私は突然激痛で倒れた。
そのまま救急車ででっかい病院に運ばれ、
「卵管に着床して妊娠してしまっています。危険な状態なので右側の卵管ごと切除します」
的なことを医者に言われた。驚いたりする暇もないまま、ものすごい麻酔を打たれて意識がなくなって、起きたら陰毛の上らへんにでっかい傷があった。息をするのも痛かった。

結婚前の妊娠、10代、大学、しかも子宮外妊娠、卵管切除、緊急手術、入院……といったスーパーパワーワードが頭の中をぐるぐるした。術後、少し冷静になると、それらがドドドっと押し寄せてくるかんじがわかった。

わけもわからず、私の卵管はなくなった。そして同時にこの状況も意味わからないくらい怖かった。

私もA君も19歳。結婚もしてない、ただの大学生のカップル。
望んでない、もちろん望んでなかったけど……。何ヶ月か居た、私の子ども。妊娠したことに悩んであげる暇もなく。でも私、大学生。子ども、ちゃんと子宮で妊娠できたとしても、産めたのかな……。母は言った。「あの子があなたを守ってくれたのよ」と。ただの綺麗事に当時は聞こえた。

昔見たドラマ『14歳の母』とかって、もうちょっと若くして妊娠したことに悩んだり、それで出産決意したり、なんかこう、もっといろいろ。それに比べて私はあっという間すぎて。いや、緊急手術だったから仕方ないんだけど。

同時に、ちゃんと私たち避妊していたのに、なぜ?という疑問が湧き上がる。

どうして友達のあの子は、コンドームつけずに彼氏とセックスしているのに。
あの子は彼氏以外の男とセックスしまくっているのに。
セフレもいるのに。
ちゃんと避妊して、真面目にA君と付き合ってる私が、よりによって?

母は泣いてた。父はA君とロビーで話をしていたらしい。その後、父は私に手紙をくれた。長いこといろいろ書いてあったけど、父は手紙の中で「二人が愛し合った結果のことなんだからそんなに責めるようなことじゃない」と言ってくれた。またそれで泣いた。母も父もA君を怒ったりはしなかった。

救いようもないくらい悲しいできごとたったのに、家族、A君が私の病室にお見舞いにくるときは、ほんとに全員笑顔で来た。それもそれでつらかった。

地元の友達にも大学の友達にも知らせられなかった。なんせ10代の妊娠だ。自分で言うけど、優等生だった。その私がまさかの妊娠。でも、言ったとしてもそのとき私になんて声かけていいのかわからないんじゃない?と思う。友達に迷惑かけたくなかった。

大人になった今は、「子宮外妊娠って結構あることらしい」って事実に出会うことが出来たけど。あのとき、19歳の大学生の私にとっては、もうこの世の終わりってくらい絶望しか見えなかった。

A君は誰にも相談せず、バイトのシフトをめっちゃ増やした。私の手術費や入院費を二カ月かけてすべて貯め、私の母に渡してた。なかなか受け取らない母に「僕の責任なんで。けじめなんで」と言っていた。そんな忙しい中でも、私の見舞いには毎日来てくれていた。

そのままA君と結婚すると思ったし、A君もそのつもりでいてくれたのだけど、なぜだか一緒にいられなくなって別れた。悲しいできごとを共有しすぎて何を話しても泣けてきちゃったから。いろいろ崩れた。

人はどれだけ好きでも、悲しいを共有しすぎてしまうと一緒にいるのがしんどくなるんだなと悟った。私とA君は出口を見つけられなかった。全然ドラマチックじゃない。

セックスの結果に妊娠があるってこと、みんな本当に知ってるの? なんであたしの前で「昨日彼氏と生でやっちゃった」とか軽率に言うの? 友達にも相談できなかった分、自分の中に暗黒エネルギーみたいなのを溜めていった。

A君と別れてから煙草も吸い始めた。ご飯も食べるのやめたりしてイキってわざわざ自分を粗末に扱うようにした。肺がんとかになって早く自分なんて死ねばいいなって思って。

わざわざ「私は自分の子どもを(子宮外妊娠したことによって)殺したんです!」とか言っちゃったりもした。悲劇のヒロインぶってどんどん自分を追い詰めた。そんな私は生きる価値はない、と思い込ませて逃げられないように。

ああ、10代でそんなつらい妊娠経験があるなら、もう一生セックスできないんじゃない?って思うかもしれないね。

ほんとうにそう。私も最初そう思っていた。
けど、ふざけてるんですかってくらいちゃんと性欲はあった。それがめちゃくちゃに悔しかった。だから誰かとセックスをして性欲を消費する自分を、セックスするたびに責めた。

「お前、あんな悲しい事故があったのに、普通にセックスできるんだな。それでいてお前ちゃんと気持ちいいんだな」って私の中のわたしが言った。術後、A君とまだ別れる前だけど、A君とも普通にできてしまった自分も当時本当に許せなかった。

性欲はあれども、あれ以降、付き合う恋人とも、もちろん名前も覚えていないようなワンナイトの人とも必ず避妊はした。行きずりの人で、「いいじゃん」とか言ってくる調子のいい糞男にも制裁を与えるくらいの覚悟で。

大矛盾だけど、避妊してセックスしても、不安になることは多々あった。そのたびに、パニックになってすぐアフターピルを飲みに行こうと迫った。それくらい、妊娠が怖い。怖かった。

私は、あれ以降、誰かと付き合う前などに必ずこう言うようにした。
「私は昔、子宮外妊娠をしてしまったことがあって、卵管がないのだけどそれでもいい?」と。
つまり、もしかしたら妊娠しづらい女なんですけど、それでも大丈夫ですか?という意思確認。自分の欠陥を予め言うことでの防衛は、私の価値を図る大きな基準となってくれた。

これを言って、次の日から連絡を取れなくなる男の人ももちろんいた。そのたびに、ふうんそうなんだ、と思った。

A君と別れた後、B君という男の子と出会った。3年くらいで別れてしまったけど、彼に会ったから、私は私でいていいんだと思うことができた。

「もし、俺とお前が別れて結婚しなくても、お前が別の人と結婚してとして、その旦那さんとの間に子どもが生まれたら、俺はお前の子どもを喜んでだっこしたいと思うよ」と言ってくれた。すごく、すごく助かった。

当時、手術痕がちょうど陰毛の上らへんにバツンと入っていて「もう一生水着が着れない」と嘆いていた大学生の私に、B君はイオンモールで水着を買ってくれた。

あの事故があった後の私を最初に受け入れてくれたB君がいたから、今ちゃんと生きてけてると思う。キレイだって。ありがとう。

いざ、29歳の今。結婚した今。「妊娠する」と考えたとたん、過去や考えが駆け巡る。よく夫と「うちらの子どもが生まれたら〜」とか「出産するなら無痛分娩で〜」とかめちゃくちゃ具体的な話をするくせに、じつは頭の中で妊娠・出産についての考えを整理できていないのかもしれない。

子どもを産みたい。でも、産みたくないのかもしれない。

ちゃんと避妊をやめないと子どもはできない。のに、生理が来るたび怖くなったり、安心したり。そうやっているうちに私はどんどん年をとって子宮も何もかも老化していく。現に、去年の11月卵巣のう腫の疑いがあって私は入院してる。

「あのひとは何歳で出産したらしい」という誰かからの無作為な情報。
「子どもとか考えてないのー?」と子持ち友達からの何気ない質問。
「ママの次の夢は孫と一緒にキャンプに行くこと!」と無邪気に押し付けられる母の夢。
「お前に子どもがいてもいなくても、パパはどっちでも幸せ」と言ってくれた父。
「気持ちの準備ができるまで俺はいつまでも待つよ」という受け身の夫。
悩む私。年々重くなる生理痛。
今年30代を迎える焦り。
ときどき不安定になる自分にはたして子育てできるか。
死にたい気持ちになる自分に、新しい生命を生み出す権利はあるのか。
84歳、89歳のおばあちゃんたちが死ぬ前にひ孫を見せたいといういたいけな想い。
子どもにとって唯一無二の存在になれるという自分への期待。
子どもができたらフリーランスの仕事を続けられるのかという不安も。
フリーランスのせいか、この前医療保険落ちたのだが、同じように保育園入園も不利なのではないか。

あ。いざ、子作りしようって本格的になったとき、もし私があのとき卵管切除したせいで妊娠できない体とわかったら、そのときの絶望をまた乗り越えないといけないのか。今度はどうやって?

子どもはたぶん産みたい。でも考えることがたくさんありすぎる。きっとかわいいし、今度は愛せるはず。でも、わかんない。

全部、背負うつもりもない。全部、答えるつもりも特にない。
でも、私のペースで考えさせて。これがいまの私の精一杯。





今度一人暮らしするタイミングがあったら猫を飼いますね!!