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接待とファッション(10/20日記)

■大人数の撮影があると次の日絶対に動けなくなる。人に会える許容量をがくっと超えてしまうからだ。ずっと涙袋に涙が溜まっている状態がここ数日続いている。先日の撮影では、あたしが苦手なおしゃれ系ファッション業界人がたくさんいたのと、ホモソ体育会系男ノリの男性がたくさんいたのが特に嫌だった。奴らは、いかに自分が子育てに参加しているのかを自慢し、経歴職歴手掛けたプロジェクトを自慢し、撮影に責任なく口出しをし、何かうまくいかなかったらカメラマンやライターや自分の後輩の不手際のせいにする。優しそうな面を装っているが、奴らの体の隅々にまで自己肯定と保身が染み渡っているようなかんじだ。

■イライラする。原因は何か。よく考えてみたら、奴らよりもあたしが一番イヤだったのは、驚くべきことにあたし自身だった。寒気がした。そういう奴らに無意識に話を合わせていたあたし。奴らの自慢話につきあい、思ってもいないのに「すごいですね」と言うあたし。顔色を伺い、忖度した笑顔で接するあたし。あたしは、少し馬鹿なふりをして、「わからないから教えてください」という態度が自然とできてしまう。男が教え、女が教わるという構図が気持ちいいことは前の会社でさんざん知った。相手が気持ちよく感じるだろうという単語を並べられる。称賛、見た目、仕事、センス。おもしろくない話でも笑える。ものすごく爆笑もできる。実際はよく覚えてないのに。そういう接待みたいな癖があたしの体の奥底まで染み付いてしまっているのだ。

■こういう茶番が嫌だから会社を辞めて、フリーランスになったはずなのにとここ数日ずっと自問している。ひとりになりたい。誰からも干渉されたくない。疲れた。人と話した分だけ、ちゃんとあたしは接待してしまう。奴らの人数が多ければ多いほど疲弊の数が重なっていく。

■ファッションは武装だ。体の線を隠したいから太いパンツを履く。相手になめられたくないから黒を着る。それっぽく見られたいから髪を赤く染める。攻撃的なアイライン。赤く主張するリップ。名刺交換のときに見られるネイルは、セルフでもセンスよく見られるような色にする。すべては尻込みせず、自信を持ったままその戦場を乗り越えるため。

■でも、撮影の現場で、おしゃれ系ファッション業界人たちに囲まれると、どのような武装をしていったとしても自分を見失う。自分がブリーチしていれば黒髪にしてもっと清楚な大人感を出しておけばよかったと自分を責める。黒髪のヘアスタイルだったら、金髪にして自己主張の強いおしゃれなライターを気取っていればよかったと後悔をするといった具合に。スカートを履いていけば、ズボンにすればよかったかもと思う。何を着てもダメ。どう着飾ってもダメ。「絶対に今ダサいと思われたよ」「あーあ、なめられた」「ほら、この人あたしにだけタメ口じゃん」と心の声が聞こえる。鮮明に。

■結局あたしは自分にずっとムカついているのだ。そんな接待みたいなことはやめて、嫌われてもいいんだから現場でも自分らしくいなよって思うけど、それができないんじゃないか。だから苦しいんじゃないか。ファッションは武装とか言ってないで、好きなもの着なよって思うけど、結局自分を着飾りまくっても問題は解決しないんだよ。だって、自信がないのが原因なんだから。

■「だったら仕事やめれば?」って自分の中の人もそう言ってる。けど、そういう問題じゃないし、「じゃあ結婚しなければよかったじゃん」「じゃあ子供産まなければよかったじゃん」「じゃあその会社入社しなければよかったじゃん」と同じようなかなり投げやりな回答はやめなよとも中の人は言っている。今も仕事が手につかないくらい悩んでいるんだったらまた泣いて、落ち着いてから考えたほうがいいんじゃない。昨日夫がカラオケ行って発散しようねと言ってくれたしそれでいいんじゃない


今日、東京が晴れていることが唯一の救いです。

今度一人暮らしするタイミングがあったら猫を飼いますね!!