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ミスド探し(10/14日記)

■中耳炎になった。めん棒のやりすぎとAirPodsのつけすぎで蒸れたのが原因なので自業自得の結果だ。“その先にある何かを掘り出したくなる”――そんな癖は小さいころからあった。小中学生の時もめん棒のやりすぎで外耳炎と中耳炎を繰り返した。今回の中耳炎も20年ぶり10回目。馬鹿を見ているのにそれでも耳の中をえぐるのをやめられず、他にも、へその穴のごまを取って赤く腫らしたり、頭皮を掻きむしってかさぶたを無理やり作り、さらに髪の毛をかき分けて出来たかさぶたやフケを爪でえぐったり、みたいなことも中学卒業までやめられなかった。今思うと日常の中に強迫観念があったのかもしれない。痛くなっても血のついたかさぶたや様子のおかしい耳垢がポロッと取れると安心できた。傷ついた頭皮のまわりには徐々に髪の毛が生えてこなくなり、でもそれを見て私はさらにそのまわりの毛を抜いた。自分を傷つけて安定しようとしていたのはきっとこの頃からだったんだな。

■中耳炎になった後、「しばらくイヤホンとかAirPodsは禁止ね」と医者に言われた。とにかく人の話し声が苦手なので、常に外に出るときはAirPodsをして、ノイズキャンセリングモードにしていた。これも中耳炎を悪化させてしまった原因だが、ノイズキャンセリングはわたしにとって超超超画期的でありがたい存在だった。ノイズキャンセリングすると、外界の音が一切聞こえなくなる。音楽に集中するため音を遮断する機能だと思うが、精神を揺さぶる外野の音がなくなるだけで気持ちが安定した。しばらくできないのがつらい。カフェの隣の人のアニメ声、後ろの人のタイピング音、おじさんのくしゃみ、誰かが新聞をめくる音、家のそばを通る救急車の音――。そういう音は自分の世界には、必要ないものなのだなとAirPodsが使えなくなって改めて実感する。

■体が不調だと、心も沈んでくる。心が沈むと、いろんなことが楽しめない。音が聞けないので、音楽も、YouTubeも、ラジオも聞けてない。荻上チキのsessionというラジオは毎日聞いてたし、最近は空気階段の踊り場もお気に入りだった(ただTBSラジオが好きなだけ)空気階段のコントは音だけでもおもしろいから作業中に聞くと癒やされた。庵野秀明展のチケットも取っていないし、積ん読は増えていく一方だし…。読みかけた小説のことを思い出してはさっさと読了しろよ!と自分を責めてしまう。本が読めない。そういうエンタメに向き合うテンションで居れない。少し休む時間が必要だと思うので、今週の校了を終えたらゆっくり過ごそうと思う。

■最近の仕事は、「もう30歳になるし、嫌な仕事は断る。好きな人と、適正なギャラで仕事を請け負う」を信念とし、実行できている気がする。フリーランスだからといって理不尽なことはもうしたくない。「その金額ではここまでしかできません」とはっきり言う。「そのスケジュールではここまでしかできません」と体調を優先する姿勢でいく。

■すごく苦手な編集者がある出版社にいて、前回一度仕事をしたときには不当に低すぎるギャランティとありえない仕事量を押し付けられた。しかし当時の私は弱すぎて何も言えなかった。「若い、フットワークが軽い、若い人は使ってなんぼ」「物腰柔らかな女」「フリーランス」という勝手なイメージを押し付けられ、これくらいできるでしょ?というゴリ押しがあったというか。さらにマタニティハラスメント的なことも言われた(無邪気に、子供は?おめでた?などプライベートなことにズカズカ踏み込んでくる)。この人と付き合うのはこれで最後にしよう、もう我慢しないぞと思い、仕事を始める前にギャラの交渉をしっかりやったし、いいたいことははっきり言った。すると、ちゃんとギャラは上がったし、私がはっきり言うことで業務契約以外の仕事は押し付けこなくなった。言ってみるもんだな、と思う。もうそいつとは仕事しないけど。

■先日、その嫌いな編集者のことを、別の先輩(嫌いな編集者の同僚)に愚痴ることができた。泣いちゃった。安心した。「たくさん愚痴って下さい。そうしないとあなたが鬱になっちゃいますよ」とその先輩は優しく言ってくれた。そう、嫌なことを溜め込みすぎると鬱になる。そうやって人間は設計されていることを忘れてはいけない。

■誰もいないのに誰かに見られているような気がずっとしていて、私は長いこと「嫌なことがあったら愚痴る」ができなかった。何時もいい子であれよ、という毒親から刷り込まれた概念が、自分の中からなかなか消えないせいか、社会人になり、30歳を目前にした今でもいい子でいようとするのだ。「愚痴ると、口に出したことがさらに耳に音として入り、脳が再び認識するので、二度も嫌なことをする羽目になる」私はよくそう言って愚痴らなかった。弁の立つ謎の言い訳は小さいころから。でも、違ったよ。声に出して愚痴らないとその嫌な気持ちは頭の中に永住しちゃうんだよ。

■中耳炎の病院が終わって、猛烈な虚無感に襲われた。朝から何も食べていないと虚無になりやすい。あてもなく散歩した。時刻は10時50分で、お昼を食べようにもどこもまだランチ営業前だった。5分10分潰すのにこんなに時間がかかるのか、と思いながら、でも中耳炎の影響で口が開きづらいから固いものは食べられないなと思いながら、街をさまよった。

■ミスドの中華麺なら食べれるかも。そう思ってミスドがある場所に行ったらすでに潰れていた。うーむ、定食は重たいし、サンドイッチは口が開かない。何か、麺みたいなつるっといけて顎をあまり使わずに食べれるもの。するとコメダ珈琲を見つけた。コメダ珈琲には、極太のパスタというメニューがある。先日ミートソースを食べたんだった、と思い出し、今日は明太クリームを頼んだ。口をあまり開けずともおいしく食べられた。コメダの看板を見ると安心する。どの店舗に行っても店員は全員優しいし、店員の声が大きくない。充電器もあるし、椅子もふかふか、電源もWi-Fiもある。コーヒーもおいしいし、長居しても怒られない。コメダの安定感に今日は人生を支えられた。


今度一人暮らしするタイミングがあったら猫を飼いますね!!