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vol.1「世界の書棚から カナダ編」

はじめに


Bonjour!!!
はじめまして!淑徳大学杉原ゼミの丹野です。
ご覧いただきありがとうございます!

私たちが学んでいる淑徳大学東京キャンパスは板橋区に位置しており、その縁で、ゼミ活動の一環として「絵本のまち板橋」を取材しています。

絵本のまち板橋」とは、板橋区の友好都市であるイタリア・ボローニャ市との交流や印刷産業が盛んであることを活かし、絵本文化の展開・発信を活発化することによって板橋区全体を活性化していこうという取り組みです。

あまり知られていませんが、板橋区は3万冊以上の世界の絵本コレクションを有する区です。40年ほど前から始まった板橋区立美術館での「ボローニャ国際絵本原画展」からの縁があり、2021年3月にオープンした板橋区立中央図書館には、いたばしボローニャ絵本館が併設されています。
今回は、昨年から始まった「絵本のまち板橋」の一環として定期的に開催されている講演会シリーズ「世界の書棚から」を取材しました。

ボローニャ国際絵本原画展
板橋区立美術館にてイタリア・ボローニャ国際絵本原画展が開催される。
児童書のイラストレーション・コンクールの入選作品を紹介。
会期中には絵本に関する連続講座や講演会も多数予定。
会期:2022年6月25日(土曜日)~8月7日(日曜日)

https://www.city.itabashi.tokyo.jp/artmuseum/4000016/4001526/4001536.html

「世界の書棚から」とは

「世界の書棚から」は、在日大使館の職員や各言語の翻訳家を講師に招き、各国の注目の絵本作家や作品、最新出版事情などを取り上げる講演会です。

4月22日に行われた第2回講演「多文化主義-モザイクの国-カナダの絵本」を取材しました。

講師は、カナダ大使館 文化担当官の清水玲子さん。カナダの多文化主義や絵本についてお話を聞きました。

講師 清水玲子さん
カナダ大使館の文化担当官。
広報部でカナダ文学・出版の担当として、プロモーション等を行っており、カナダの絵本文化にも精通されている。


カナダの多文化主義

講演では、カナダの多文化主義について絵本を交えながらお話しいただきました。

講演の様子

講演は、司会進行をされる板橋区立美術館 館長の松岡さんのこの問いかけから始まりました。

「カナダでは、100か国以上からの移民を"新しいカナダ人"として受け入れています。板橋区にも118か国の国籍の人が住んでいますが、カナダの人のように皆さんは外国籍の方を”新しい板橋の仲間”として受け入れられているでしょうか」

多様性を受容するカナダの文化は、絵本にも反映されています。
絵本からカナダの多文化主義をのぞいてみましょう!

多文化主義が反映されたカナダの絵本

カナダでは多様性に関して多くの絵本でも表現されています。
女性が男性を助けるというシンデレラの逆転となるストーリーを描いた『紙ぶくろの王女さま』も紹介されました。男女関係なくそれぞれの個性が描かれている絵本で、常識に左右されるのではなく、自分がこうしたいと思う生き方を選べばよいのだと教訓になる内容です。この本は原著が1980年に発行されています。このことから、カナダが現代のような多様性を受容した作品を先進的に出していたことがわかります。

『紙ぶくろの王女さま』
ロバート マンチ 文、マイケル マーチェンコ 絵、加島 葵 訳、カワイ出版 (1999年)

ほかにも、カナダでは世界的にみても早い頃から多様性に焦点を当てた絵本が出版されています。カナダ人女性が手がけた『はじまりは、まっしろな紙』は、肌の色でひとを区別する法律のあった1960年代初頭、アフリカ系、アジア系など、さまざまな人種の赤ちゃんをはじめて作品の中に一緒に登場させた絵本作家ギョウ・フジカワについての絵本です。

では、なぜこれほどカナダでは優れた絵本が出版されているのでしょうか。カナダには、カナダ総督文学賞やアルクイン・ソサエティ・カナダ・ブック・デザイン賞などの賞が多く存在しているそうです。

カナダ総督文学賞を受賞した『このまちのどこかに』は、一人で外出し始める頃の子どもに向けた絵本。そのような年ごろの子どもに、どういう道を歩けば安全か、落ち着く場所はどこかなどが描かれています。「知らない街の喧騒に飲まれるのではなく、自分が落ち着く場所で過ごしてみたら?」と優しく提案してくれるストーリーで、家に帰ると家族が待っていることからも「あなたはひとりじゃない」というメッセージが伝わってきました。子どもだけでなく、初めての地に不安を抱えている人も勇気づける内容で、何歳になっても読者に寄り添ってくれる作品です。

『このまちのどこかに』
シドニー・スミス 作、せなあいこ 訳、評論社(2021年)

清水さんは、カナダの多文化主義のことを「モザイクまたはミックスサラダ」と例えられていました。カナダは、移民がそれぞれの国の文化を持ち続けたまま、一緒に一つの社会を作るという柔軟性のある価値観を持っていると語ります。

一人一人の多様性をモチーフにしている『TODAY』では、あらゆる髪形や服装などをカラフルなイラストを用いて紹介し、「きょうはどんなふくをきようか?」と個々人の興味関心を引き出し、個性を尊重した絵本です。この本は、まさにミックスサラダのように、肌の色の違う子どもたちが集まってそれぞれの国のご飯を食べるイラストなど、カナダの価値観が詰まった作品です。この絵本を読んだとき、子どもたちが「わたしはこれ!ぼくはこれかな!」と会話しながら絵本を楽しんでいる様子が目に浮かびました。

『TODAY(邦題:きょうがはじまる)』
ジュリー・モースタッド作、石津 ちひろ訳、BL出版(2018年)

講演を受けて

清水さんの講演を受け、「絵本=子どもの読み物」という固定観念がなくなりました。講演の中で紹介された本は、どれも大人でも教訓となるような内容ばかりでした。小学生ぶりに絵本を読むと、絵本を通して伝えたい作者のメッセージや絵のタッチに工夫があるかなど、子どもの頃に読んでいた際には気づけなかった絵本の魅力がひしひしと伝わってきました。特に、カナダの多文化主義の要素が含まれたジェンダー平等やSDGsの話題を取り上げている絵本は、学生にとって学びの多いものでした。今後、ジェンダー平等や先住民への先進的な取り組みが活発に行われているカナダの絵本に注目していきたいと思います。

今月の「世界の書棚から」は、7月8日に実施される第5回講演「知られざるアルゼンチンの絵本の魅力」です。今回の記事を読んで、絵本に興味を持っていただいた方はぜひ講演をチェックしてみてください!

以上、淑徳大学杉原ゼミの丹野でした。

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