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瀬戸忍者捕物帳

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#オリジナル

瀬戸忍者捕物帳 1-5

「はあっ!はあっ!」っと息も絶え絶えに誰もいない夜の街を甚兵衛は走る。

「もしもーし!もう諦めてくれませんか~?」と皐の声が聞こえてきた。

甚兵衛が振り返ると屋根の上を軽やかに伝って追ってくる皐の姿が目に入った。

「くそっ!化け物が!はっ!」

甚兵衛が前を向きなおると更に彼にとって都合が悪いものが現れた。

女同心・茜だ。

茜の方も、誰もいない町の中を前からいきなり甚兵衛が走ってきたので

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瀬戸忍者捕物帳 1-4

日が暮れて茜は己の無力さに落胆した。

皐が去ってから引き続き3人の大工に話を聞き、それからさらに被害者の友人たちにも話を伺いに出向いたが、結局有力な手掛かりを得られなかった。

「やっぱり皐のいうように大工の甚兵衛が怪しいのかな・・・?」

茜は考えた。やはり自分の追及の仕方が甘かったのだろうか?このまま何も手柄がない状態で同心屋敷に報告に行くのも気が引ける。また所詮は女だからだの、新人だからだ

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瀬戸忍者捕物帳 1-3

「新平は・・・本当に・・・優しい人だったんです。恨まれるようなことなんて・・・あるはずがありません。」

そういったのは地面に座り込み泣き崩れる女性だ。新平というのが今回の殺された被害者で彼女は新平の婚約者だという。

「仕事場での彼の働きはどうだったの?」

茜はまわりにいる三人の男たちに聞いた。この三人の男たちは大工であり、同じ職場で働いている。

「まじめな奴さ。遅刻なんか一回もしたことない

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瀬戸忍者捕物帳 1-2

ここは多くの人が住む大都市だ。

数年前に集結した天下を分ける大戦のあと、人々は戸惑いながらも新しい生活を始め、しかし生活は安定せず、その日暮らしの状態だ。犯罪は無くならず、街を歩いていると死体が転がっていることなど日常茶飯事であった。

そしてここにもまた一つ冷酷な犯罪に巻き込まれた人の亡骸が発見された。

「狐狸川(こりがわ)」と呼ばれる浅い川で男性の死体が発見され、町の同心たちはその事件の処

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瀬戸忍者捕物帳 1-1

瀬戸忍者捕物帳 1-1

ここは江戸・・・とどこかよく似たまた別の世界の町、瀬戸(せと)。

天下を分ける大戦(おおいくさ)が終結したばかりの世の中は治安が定まらず、町に犯罪が溢れ、町の同心(どうしん)達は犯罪を取り締まるのに苦心していた。

そんななか、町にある噂が広まる。

大きな十手を手に、忍者のような様相をした正体不明の男が人知れず捕り物(とりもの)しているというのだ。

これはその謎の忍者と、とある女同心(おんな

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