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家庭用と業務用、何が違うの?【家具編】


多くの空間デザイナーは、店舗デザインで家具を選ぶ時は基本的に業務用を使います。

「家庭用」とは、概ね、街のおしゃれなインテリアショップや、楽天などのECショップで販売されている、みなさんの身近にある家具のことを指します。

最近ではアパレルメーカーが売り上げを伸ばす戦略として、自社ブランドに合う家具を企画・販売しているところも増えてきましたが、こちらも家庭用です。

いきなり脱線しますが、アパレル業界に限らず様々な企業が、家具をはじめ食器などの日用品まで企画販売し、ライフスタイル全般を提案する事例が増えていますね。

ブランドのファンはそれらアイテムを購入することで、よりそのブランドの世界観にハマっていくという戦略。良し悪しの話もあるかと思いますが販売戦略としては、人の心をよく捉えているなぁと感心してしまいます。
(脱線了)

それでは、業務用の家具ってどこに売ってるの?どういう商品なの?と色々疑問が出てくるかと思います。今日はこの「家庭用」と「業務用」の家具の違いについて書きたいと思います。

なぜこの話題を書こうと思ったのか。


初めて商業施設を手がけるクライアントとお仕事をした時に、業務用の家具を使う意図を説明しなかったせいで、様々なすれ違いが生じて迷惑をかけてしまったことがあるからです。

自分の常識が人の常識ではないことを忘れないように!
と、日頃から口酸っぱくスタッフに言っているにもかかわらず、自分もやってしまったことに対する反省のために書いています。

また、このnoteでは、新人デザイナーの研修になる内容を時折書いており、そちらのコンテンツとしても伝えるべき事例だなと思ったからです。

業務用の家具とはどんなもの?


築地市場で、並んだ食材を仲買人が仕入れている風景をご覧になったことがあると思います。

これを家具の話に置き換えると、食材を販売している人=業務用家具のメーカーで、仲買人=空間デザイナーなどのプロとなります。

一般客とは販売窓口やルートが違うということですね。

業務用の家具のほとんどは、店頭販売されておらず、基本的にカタログで商材を紹介しています。
ショールームに現物がおいてあることもありますが、そのショールームも基本的に一般の人に公開するための場所ではなく、プロ相手の場であることが多いです。

そんな業務用の家具たちは、みなさんが訪れるレストランやホテル、各種商業施設に置かれています。
そういう空間ではなぜ業務用が使われるのでしょうか?

なぜ業務用を使うのか?


それは以下のような違いがあるからです。

  • 耐久性が違う

  • 保証内容が違う

  • 希少性・既視感の観点

  • 在庫の確保の観点

  • 納品作業の観点

一つずつ解説します。


耐久性が違う

業務用は堅牢性が高いです。

特に椅子が顕著です。業務用は耐久試験における各種数値が高く設定されており、頑強な作りです。

お客さんがひっきりなしに着席し、かつ不特定多数の人がいろんな座り方をすることを考えると、家庭用の椅子を使った場合は壊れてしまうまでの時間が短くなります。

保証内容が違う

業務用の方が保証期間が長い、とか手厚い保証がある、という意味ではありません。
業務用も家庭用も基本的に1年保証のものが多いと思います。

では何が違うのかというと、家庭用の商品を業務用で使用した場合に、保証期間が短くなる、もしくは保証がなくなる。ということがあります。

ECサイトで家具を購入するとき、免責事項や注意書きをよく読むと、この辺りのことが明記されていますので、見つけてみてください。

もし明記されていない場合でも、問い合わせをした際に、この事実がわかるかと思います。

希少性・既視感の観点

レストランやホテルといった施設は、日常から少し離れて非日常を楽しむために訪れることでしょう。

こういった施設においてある家具が、例えばIKEAで売っているものであったり、普段良くいくインテリアショップに売っているもの、もっと言えば、自宅におくためにECサイトで調べてお気に入りに入れているアイテムだったとしたらどうでしょうか?

非日常性が少々損なわれ、施設での体験の価値が変わってくるのではないでしょうか。

こういったことが起こりにくいように、事業者さんは一般家庭で流通していない商品を導入することが多いという側面があります。

平安神宮会館

在庫の確保の観点

ECサイトやインテリアショップでは、検討中の家具を「まだ悩んでいるけど、買うかもしれないので、しばらく確保しておいてください」ということができません。

在庫を確保するには、カートに物品を入れ「購入する」ボタンを押さなければならない。

店舗デザインの現場では、お客さんへのプレゼンテーションのために、複数アイテム選ぶことが良くあります。
この時に在庫が確保できなかったとしたら、せっかく選んでもらったものが、発注しようとすると在庫がない、というようなことが起こります。

業務用メーカーさんだと、「このアイテムを1週間は確保しておきます」というような、いわゆる「売り止め」をしていただけます。(多用すると当然嫌がられますが) これが仕事上結構重要なんですよね。

余談ですが、ECサイトで売られている家庭用家具で、在庫がなかったり、入荷未定の商品でも、製造元のメーカーに問い合わせをし、発注確約すれば次期入荷予定数量から先に在庫の確保をお願いできることもあります。
ただし、確保できるのはプロユーザーか、家具の取次を生業にしているような業者の方に限られます。

納品作業の観点

お店に入れる家具が椅子やテーブル、コートハンガーや棚など、全部で10種類40個あったとしましょう。

これらアイテムをECサイトやインテリアショップで一つずつ発注するとどうなるか。
まず、現場に届く日時を揃えることが至難の業になると思います。

在庫確保がしたいがために、決まったそばから発注すると、発注時期がバラバラになる。すると、お店の倉庫や在庫管理の関係で、希望通りの日時に配送できない場合がある。これが複数アイテムあると想像すると、難しさがわかるのではないでしょうか。

そしてもう一つは、受け取りの問題。
全アイテムが運送会社も時間帯もバラバラに届く。
明日までに開梱して設置したいのに、いくつかのアイテムは夕方まで来ない、、

こういうとき、業務用をメインにしておくと、例えば一番多く買うアイテムを販売しているメーカーさんの倉庫に、他社商品も集めてもらい、ひとまとめにしてトラックで配送してもらう。という選択肢がとれます。

当然トラックのチャーターや倉庫代がかかるので費用はかさみますが、確実性が高く、店主は他の業務に注力できるなどのメリットがあります。

納品設置って大変なんよ。。


猫も杓子もお店には業務用家具を使うべき?


これまで述べてきたことを考えると、イエス!
と言いたいところですが、答えはノー。
当然デメリットや、そう単純に割り切れないことがあります。

価格に関するデメリット

堅牢性が高く、業務利用でも保証がつく商品
家庭用より安いとは思えないですよね。

もちろん商品によっては業務用でも安いものももちろんありますが、一般論として、業務用の方がコストは高い傾向にあります。
ただし、同じアイテムを大量に製作する場合は、海外で一手に作って単価を安くする、という方法もあります。

耐久性に関するデメリット

ソファの座り心地
商品によってまちまちですが、ソファに関しては業務用の方が座り心地は硬めのものが多いです。これは中材の耐久性を考えているからです。
柔らかい座り心地の業務用ももちろんありますが、選択肢は少ない印象です。

線が太くなりがち
耐久性を高めるために、線の太いデザインをしがちです。
特に脚ものに多いのではないでしょうか。

細い脚のデザインができない、というわけではありません。
そうしようとすると、接合部のデザインをあれこれ工夫したり、良い素材を探した上で、多くの試験をする必要があり、手間と時間がかかります。
これが最終コストに反映されてしまうため、割高の商品になることが多く、これを敬遠して安全なデザインが増えるという背景があります。

しかし、チャレンジ精神旺盛なデザインに熱いメーカーや、それに呼応するプロダクトデザイナーの奮闘によって、すっきりとしたモダンな家具が生まれることもあります。

家庭用が業務用になるオプションが存在する

耐久性に関するデメリットで、線が太くなるということを言いましたが、家庭用として販売している家具でも、業務用として扱えるようになるオプションが存在するアイテムもあります。

プラスの費用を出せば、座面裏に補強部材を取り付け、業務用扱いにできるアイテムが存在しました。

メーカーによってはこのようなオプションを用意している場合があるので、家庭用をどうしても業務用扱いで使用されたい方は、メーカーに確認してみてはどうでしょうか。

好きなデザインのものを選びたい


業務用のメリットとデメリットを解説してきましたが、最終的に、
「好きなデザインのものが欲しいわ」に行き着くことも多くあります。
人間だもの。

家庭用のものを業務用で使うと保証期間が云々、の話をしましたが、使用シーンによっては気にしなくても良いと思います。

例えば旅館やホテルで、そんなに使用頻度が高くない、客室のソファの考えた場合。
家で毎日座る頻度と時間と比べたら、時間的には業務利用の方が短いこともあり得る。こういった場合は、保証のことは割り切って、好きなデザインのものを入れても問題はないでしょう。

また、家庭用のプロダクトであっても、堅牢な作りで、どの時代・場所で使われても色褪せない、多くの人が憧れるようなマスターピースもあります。

こういったアイテムは、希少性は低く、既視感もあるのですが、むしろ「ずっと知ってるこの椅子に座ってみたかった」という共感性が得られるので、積極的に取り入れる事業主さんもいらっしゃいます。

結論

家庭用と業務用の違いを知った上で、それぞれのお店にあった条件を設定し、その中で自由に選べば良い!
長々書いたけど、結論シンプルやなぁ。
最後までお読みいただきありがとうございます。お疲れ様でした。


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笹岡 周平 |空間デザイナー/株式会社ワサビ 代表取締役
建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。

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