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『ジョブ理論 / クレイトン・M・クリステンセン』(本めぐり③)

マーケティングや事業立案のコンサルに携わってる友人の薦めで読んだ1冊。
本の名前は聞いたことあったけど、『イノベーションのジレンマ』のクリステンセンの著書とは知らず…。
『イノベーションはどうすれば生み出せるのか』について、破壊的イノベーションを上回る汎用性と具体性を目指して書かれた本です。

とても面白かったです。
古今東西のうまくいった事例を行ったり来たりしながら、理論としての輪郭を明確にしていく感じは、洋書の定番のフォーマットですね。事例が豊富で楽しめました!

根幹にある主張は、
・「ニーズ」ではなく、「ジョブ」に注目せよ
・顧客の「属性」ではなく、「動機」を掘り下げよ

の2点につきます。
頭の整理も兼ねて、内容をまとめてみます。

●そもそもジョブって何?

旧来のマーケティングでは、「誰が」「何を」買うのかが重要視されてきました。
蓄積して分析するデータは、性別・年代・家族構成・年収などで構成される「顧客特性データ」か、ブランド・種別ごとの売上や利益率などの「商品データ」ばかり。
しかし、これらのデータの中にイノベーションの種は眠っていないとクリステンセンは主張しています。

本当に着目すべきは、「動機」である。どんな消費行動でも、片付けたい用事や仕事があり、それを叶えるために人は購買しており、その動機を見よ、ということです。
ミルクシェークのたとえ話が有名らしいのですが、同じ30代男性の購入でも、実は朝と夕方で動機は全く異なっている。朝のお客さんは、通勤で運転中の車の中で、片手で腹を満たせる朝食がわりのものを求めている。夕方のお客さんは、小学生の娘と一緒に訪れて、娘を喜ばせて楽しいひと時を過ごせるものを求めている。
こういった個別の動機を見ることなく、「30代男性に売れているから広告を打とう!」「新しいフレーバーを投入しよう!」などと動いても、全く意味をなさない。

そこで着目すべきものを「ジョブ」と呼んでいます。意味合いとしては、「顧客が解決したいこと」「顧客が実現したいこと」といったあたり。
ミルクシェークの例で言えば、それぞれの「片付けるべきジョブ」は、『運転しながら手軽に腹を満たすこと』であり、『娘を喜ばせること』である。
顧客属性や商品について掘り下げても、相関関係しか見出せず、動機と向き合って因果関係を究明することが必要だと説いています。
この解像度まで顧客の深層を掘り下げなければ、真のイノベーションは生まれえない、としています。

これを読んで思ったのは、『それってニーズじゃないの?』でした笑。一応ニーズとは全く別物と書かれていて、

・ニーズは漠然としすぎており、ジョブは遥かに明細化され、状況を的確に捉えているものである
・時にニーズは提供者都合で作り出されることもあるが、ジョブは常に消費者の側に存在する

といった点が挙げられてました。
(個人的には、「いついかなる時も、常に顧客の側から事業や商品を構想し続けなさいよ!」ということを強く訴求するために、新しい言葉・概念を作ったのかなと解釈しました。
OKRがMBOの一種であるように、状況や文脈レベルで顧客の深層を捉え、あぶり出されたニーズをジョブと呼んでいるのかなと。)

●どうすればジョブを見つけられるのか?

・自身の生活の中から、満足のいく解決策が得られていないジョブを探す
・競合のせめぎ合う領域ではなく、無消費(どこもジョブを解決できていない)領域を狙う
・できれば避けたい、やりたくないと思われている行動を掘り下げる
・雇用(購買)と解雇(買い替え・離脱)が繰り返されている領域を探す
・顧客も自身のジョブを知らないという前提を持ち、顧客に聞くのではなく、観察してこちらが見つけ出す

といった手法が挙げられています。
一番印象に残ったのは、「同カテゴリの商品しか競合していないのであれば、ジョブではない」というものです。
タバコとSNSは競合になり得るし、鉄道と手紙は競合になり得る。ジョブのレイヤーで考えれば、カテゴリは売る側の都合でしかなく、消費者の前では横並びでの競争が待っている。
深層ニーズを捉えられているかの判断基準として、明快で使い勝手が良いように思いました。

●ジョブ理論でイノベーションを生み出す方法

カスタマージャーニーマップとも近い手法だと思いますが、定性インタビューに基づいたストーリーボードの作成が推奨されています

・今どんな不便やペインに直面しているのか
・これまでにそれをどのように解決しようとしてきたのか
・実際に何を試し、何がダメだったのか
・状況がどのように好転すれば満足できるのか

といった内容を丹念にヒアリングし、つまづいているポイントを一つずつ丁寧に解消していく。商品を比較検討する時から、実際に購入する時、その後初めて使用して感動を覚え、日常の一部に溶け込むに至るまで、「ジョブの感動的な解決」というゴールをぶらさずに、丁寧にプロセスを紡いでいく。

時系列でユーザーを観察し、理想の体験を構想して実現していくというのは、そのまんまUXデザインで推奨されていく思考・行動方法と通じていくものだと思います。

・機能的便益だけでなく、社会的・感情的便益にも留意せよ
・既存の打ち手への不満と、新たな解決策を楽しむ心を味方につけよ
・現在の習慣の引力や、変化や新たなものを恐れる人間の性質に気をつけよ

といった考え方は、非常に参考になると感じました。

また、商品の購入という「Big hire(雇用)」のデータばかり追いかけがちだが、日々の使用という「Small hire」や、買い替え・解約といった「fire(解雇)」にも注目せよというのも納得でした。

そして、イノベーションを生み出し、他社と圧倒的な違いを生み出すために最も重要だと言われていたのが2つの「プロセス」です。

・理想の体験を実現し、ジョブを解決するためのプロセス=顧客体験のプロセス
・ジョブ中心主義で最高の価値を生み出すためのプロセス=価値創出のプロセス

これこそが価値の源泉であり、他社との圧倒的な違いを生み出すものだと述べられています。

多くの場合、解決すべきジョブが見つかり、商品サービスを構想する段階で、様々な制約(人的リソース、金銭、前例や慣習、法律、競合の妨害などなど)と直面します。
その時に、『プロセス的に難しいから、商品を変えよう』となるのか、『ジョブ解決のためにゴールは譲れないから、なんとか最適なプロセスを構築しよう』となるのかが分岐点であると。
ジョブが捉えられていれば、プロセスを理由に諦めるべきではないし、
ジョブが捉えられていないのであれば、プロセスを理由に取り組むべきではない
のだと理解しました。

●さいごに

ジョブを明確にし事業開発に携わるメリットとして、

・常に顧客志向で動き、顧客満足度が高まることでやりがいとの好循環が生まれる
・共通の言語や指針が生まれ、指示やマネジメントが不要になる
・ジョブを絞り込むことで、「やらなくていいこと」が明確になり、時間・人・金の無駄がなくなる

といった点が挙げられていました。
これは、OKRでフォーカスを絞り込み、「あれもこれも」から「あれかこれか」の組織に変容させるプロセスと非常に近いように思います。

煎じ詰めれば、「とことん顧客の目線に立ち、顧客の課題や願望を解決し、顧客満足度を高め続けてオンリーワンの存在となれ」という話で、それ自体に目新しさはないかもしれません。
ただ、「ジョブ」という新たな言葉が共通言語となり、顧客やサービスとの向き合い方を変えていくことこそが、ジョブ理論が目指すところなのだと思います。

「顧客が抱えているジョブは何なのか?」という問いは、常に持ち続けたいと思います。

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