不遜にして邪悪なる王

不遜にして邪悪なる男

歴史は勝者が紡ぐ。それは実に使い古された言葉だ。しかし今宵は勝者ではなく敗者の物語を語ろう。勝つべき戦いに勝つことができず、無惨に敗れた男。最悪の狂人、邪悪の徒、人類の敵…。そのように呼ばれながらも、なお己の矜持を失わず高潔さを捨てることがなかったある男の物語を。

ごう、ごうん…

風が吹き荒れる荒野。その中をひとり男が歩いていた。バタバタと音を立て、男の外套がはためく。周囲には灰色の砂埃。風の音だけが、ただただ響いている。

男は空を睨んだ。そこには巨大な虹…いや、天空にとぐろを巻く虹色の大蛇がいた。蛇は男のことをじっと見つめている。蛇の周囲には雲がたなびき、風の精霊たちが踊る。まるで男を嘲笑うかのように。

男の名はバスルマン。卑劣な策略によって全てを失い、そして人類の生存圏から追放された男。

男はひとり呟いた。

「虹の先、禁断の地、禁忌の力…。」

その目は静かに燃えていた。虹色の蛇がそれを見つめている。

【「無垢なる卑劣漢」に続く】

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