狭間のアスカディア
空には巨大な三つの月。
星々が神秘的に瞬く、その下で。
「ばかな…」
絶命へと向かう意識の中、ルゼは自分を貫いた女の顔を見た。たなびく黒髪。整った顔。そして獣のような目。女はルゼの胸から腕を引き抜くと、そのまま反動をつけて回転。背後の敵に向かって強烈な打撃を叩きつけた。
「なっ」
とっさにクロスした腕がみしみしと音を上げ、体が後方へと吹き飛んでいく。吹き飛ばされた男の名はナザ。女の名はバルダ。悪名高き賞金首。バルダを取り囲むのはドニ守備隊の精鋭、通称「四星」。だがすでにルゼを含めて二名が命を失っていた。
「どけ」
立ち上がろうとしたナザを押しのけ四星の長ダギが前へと進み出る。ゆらり、とダギの体から黒い瘴気が立ち昇る。
「ふふはっ、いいじゃない」
強者を前にして獰猛に笑うバルダ。
ここは地球と彼岸との間、狭間の世界アスカディア。この女バルダによって三界を貫く争乱が引き起こされる。そのことを今はまだ誰も知らない。
【「野望の女バルダ」に続く】
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