アダム
清浄なる白亜の空間に少年が一人。その体は淡く輝く。空中に方形の力場が浮かび、そこには地上の光景が映しだされている。獣を狩る人間。天使の光に導かれる人間。巨大なモニュメントを建造する人間。人間、人間、人間。次々と移り変わる光景を少年はじっと見つめている。
(何を探しているのか、アダムよ)
遥か遠い次元の彼方から天使の声が響き渡る。
(お前と人間は異なる目的で造り出された)
アダムは静かに耳を傾ける。
(お前は我らが道標。我らが大いなる受肉の雛型。その役割を忘れてはならない。ヴリルの力を磨くのだ)
次元を貫く意思の力、ヴリル。多次元の存在たる天使の科学は意思の科学と呼べるものであった。その力は無限の距離をも零にし、別次元に新たな生命を創造することすら可能にしていた。
天使の気配が去った後、アダムは再び地上の光景を見つめ始めた。自分がなぜここまで人間の雌に執着するのか。未分化な彼の心はそれを理解できずにいた。
【「失楽園」へと続く】
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