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セツナの久遠

 お前だけは許すわけにはいかない。

 御堂クオンはビルの階段を駆け上がった。暗がりの中、屋上から差す陽の光が眩しく輝いている。輝きの中で過去が走馬灯のように浮かぶ……自室にオブジェのように置かれていた美しい屍。クオンは叫んだ。最愛の人、橘ミオ。

 ミオを失った俺の側に、いつでもお前はいた。時に励まし、時に叱咤し、共に犯人を捜し……いつでもお前が……俺の側に、いつでもお前が!

「弑波セツナァーッ!」

 屋上でセツナは微笑みながら待っていた。

「やあ、ようやくだね」

 クオンは拳銃を突きつける。

「お前……お前がッ!」

 セツナはため息をつきながら首を振った。

「事件の謎を解き、君はここまで辿り着いた。でもね。それじゃダメなんだ……やっぱダメかあ」

 クオンは引き金を引く。乾いた音と共にセツナの胸に赤い花が咲く。セツナは涙を流し、笑っていた。

「またね」

 二人のいるビルは、崩れ落ちた。

「これで終わりだ」

 壮麗なる神殿の丘で、クオンの剣はセツナの体を貫いた。セツナは血泡と共に吐き出す。

「ダメ、やり直し」

 二人を、津波が呑み込んでいく。

 神経接続管がブチブチとちぎれ、母艦から切り離されて戦場へと降下していく。極彩色の空の下で、クオンは緑の翼を拡げて吠えた。

「セ、ツ、ナァーッ!」

 翼の輝きが爆ぜ、幾条もの煌めきが拡散する。それは弧を描き空を埋め尽くし、異邦人どもの鉄機兵団へと降り注ぐ。爆炎が戦場を覆う。クオンは雄叫びをあげ、炎を貫くように飛んだ。

 民俗学者、御堂クオンの顔は青ざめていた。
 訪れた寒村で、古老から手渡された古文書にはこう書かれていたからだ。

アガン第三文明のクオンから、他の世界のクオンへ。俺は今、お前たちとの連携を試みている。セツナを殺すな。俺たちは本来、ひとつのクオンであるにも関わらず

「ねえ」

 振り返ると助手のセツナが立っていた。

「それはダメ」

「いいや」

 そう返したのは古老だった。

「お前の好きにはさせない……セツナ」

【続く】

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