スキスパムハンター_B

スキスパムハンター・B〈欲望都市 脳都〉第一話

『今日の脳都からのおすすめは……「地方でバリバリ仕事をしていた私が、気がつけば都心で農家をやっていた」「意識高い系の僕から意識低い系の皆様へ」「これからのスタートアップはキャッサバで未来を掴む」……』

 煌びやかなネオン瞬く夜の摩天楼。

 そのいたる所にデジタルサイネージ(電子看板)が設置され、サブリミナルめいて人々の心に語りかけてくる。万華鏡のごとく映し出されているのはこの煌びやかな都市──〈脳都〉の公式おすすめ記事だ。通りを歩く人々は携帯端末を操作して、まるで魔法にかかったかのように次々とおすすめ記事に「スキ」を押していく。

 サイネージの向こうから語りかけるのは喫茶店マスター風の男だ。こちらに向けてビシリと指をさし、声も高らかに告げる。

WE WANT YOU! 今週の募集はこれだ! なんとあの有名企業とタイアップ! 題して「コーラの大好きなあなたへ」! 大賞は五万円! そう、一、二、三、四……おお、五万円、なんと五万円だ! これは凄い! 今すぐ参加するっきゃない!』

 キラキラと宝石箱のように輝く表通りには着飾った人々が歩んでいる。しかしそこを進むあなたは、幾人もの男たちに呼び止められることになるだろう。

「お兄さんお兄さん、いい記事あるよ、いい記事あるよ。アナタの閲覧履歴にもとづくおすすめだよ。どう? いやいや、損はさせないって。いいからいいから、ほら見っててよ、見てって。ほら、どう? どう?」

 その傍らではズン、ズン、ズン、ズン……重低音の四つ打ちビート。脳都CXO(Chief Exaggerate Officer)によるキャッピキャピな歌声を響かせて、巨大なプロパガンダ宣伝車が疾走していく。

※ 「バニラ求人」っぽい感じで脳内再生してね。

『のぉと! のぉと! のぉと! (つくる♪) のぉと! のぉと! 高支援! のぉと! のぉと! のぉと! (つながる♪) のぉと! のぉと! 高流入! のぉと! のぉと! のぉと! (とどける♪) のぉと! のぉと! 高治安! 不埒なやつはBANしたぁ~い~(のぉと♪)』

 その通りを歩く人々は皆楽しげで、どこか意識高い雰囲気を身に纏っている。華やかで煌びやかな自己装飾と、同時にSUCCESSを夢見るギラギラとした欲望。その危うい均衡の中で、この都市の人々は生きている。

 脳都。それは人々の希望と欲望とが渦巻く一大サイバー都市である。

 その都市政策は徹底している。「クリエイター支援都市」を名乗り、快適なクリエイティブ空間を提供すると謳う。そして多くのクリエイター志望の市民獲得を目指している。あの賑々しいデジタルサイネージもまた、実は脳都によるクリエイター支援の一環なのである。

 しかし、光あるところには必ず影がある。賑やかで華々しい表通りから一歩離れると、そこには薄暗くうらぶれた裏通りが続いている。そしてそこを今、涙を流し、泣きながら歩いていく女が一人。

「なんで……なんでなのよぉ……!」

 彼女の名は堕駄打野怒怒子(だだだのどどこ)。煌びやかな世界に憧れ、最近になって脳都に移り住んできた女子大生だ。しかし──

「スキが……スキが全然つかないよぉ……」

続く

この作品はジョン久作さんによる「スキスパムハンター・B」にインスパイアされ、久作さんにも許可を得たうえで作成しています。が、当然、本作品の内容に関してジョン久作さんは一切かかわりなく、その全責任はしゅげんじゃにあります。その点、どうかご承知おきください。

なおこれを読んで「しゅげんじゃさんはnoteに恨みでもあるのかな……?」と心配された方もいるかもしれませんが、そんなことは全然ないのでご安心を。どうか最後まで連載を読んでからご判断いただければ、と思います!

本連載は短期かつ不定期連載となる予定です。

この記事が参加している募集

noteでよかったこと

きっと励みになります。