マガジンのカバー画像

人類救済学園

43
命みじかし、闘争せよ少年。
運営しているクリエイター

2021年5月の記事一覧

人類救済学園 第肆話「恋の始まりは晴れたり曇ったりの四月のようだ」ⅳ

【前回】 ⅳ. ハニカム状のガラスがゆるやかに、ドームのようにフロアを覆っていた。ドームは鮮やかな緑に溢れ、ガラスから降りそそぐ講堂の光は柔らかく、並んでいる長テーブルは白くすべらかであり、そんなテーブルに、生徒たちはおもいおもいの席をとり、歓談しながら食事をしている。  ここは、人類救済学園の学食堂だ。  そしてその一画。ひとつのテーブルの周囲に、ものものしく人影が立ち並んでいる。あたりを警戒するその人影は……風紀委員たちだ。  テーブルには、 「いよいよ明日だな

人類救済学園 第肆話「恋の始まりは晴れたり曇ったりの四月のようだ」 ⅲ

【前回】 ⅲ. 「ふふ。でははじめに……」  中宮は、もったいぶりながら語りはじめた。 「わたしについて、理解してほしいです」 「興味ないね」  と、鳳凰丸。 「悲しい……どうか、そう言わずに。ちゃんと知ってほしいのです、わたしのことを。実はわたしは……図書館から出ることができないのです。なぜだと思いますか?」 「どうでもいいよ」  鳳凰丸は心底、興味がなさそうに言った。中宮は寂しそうに微笑んだ。 「わたしは図書館を出た瞬間、全身がはり裂けて退学する」 「

人類救済学園 第肆話「恋の始まりは晴れたり曇ったりの四月のようだ」 ⅱ

【前回】 ⅱ. 鳳凰丸は立っていた。学園の外れ、古城のような建物の前。その建物はどこかねじれ、感覚を狂わすような奇妙さを漂わせている……それは、人類救済学園の図書館だ。 「うし……」  と呟き、図書館の大きな扉に手をかける。すると、扉はぎしぎしという音ともに、勝手に開いていく。「むむ」そしてその扉の向こうには……待ちかねたように立つ、長身の少年がいた。少年は芝居がかった大仰さで、腕を広げながらこう言った。 「災いよ、ついに動き出したな! 望むようにやってみるがいい!」

人類救済学園 第肆話「恋の始まりは晴れたり曇ったりの四月のようだ」 ⅰ

【前回】 i. 燦々と講堂の光が降りそそぎ、爽やか……と言うにはいささか強すぎる風が、鳳凰丸の髪を揺らしていた。 「うー、まぶしぃ……」  と、鳳凰丸は目を細める。なんだか空気が薄いぞ、気圧で耳がキンとするぞ、と鳳凰丸は思った。鳳凰丸がいるのは校舎の最上部、円塔の頂きだ。地上から遥か遠く離れたその場所に、鳳凰丸は立っていた。  そこはテラス状の構造になっていて、そこからは、世界の果てまで見渡せる……などと、まことしやかに言われていた。しかし、実際に世界の果てを見たもの

人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 outro

【前回】  outro. 黒と緋色、闇と輝き。  空に鮮烈なる十字が刻まれていた。  その光景を、人類救済学園の生徒たちは見た。それは畏怖すらおこさせる光景だった。  立てつづけに起こる異変──  嵐、生徒会長の逮捕、緊急生徒総会の開催告知。そして今、空に現れた、この異様な光景。  一連の出来事は、なにかの終わりを……終末の予感すら感じさせるものだった。不吉だった。そして実際、一部の生徒たちは気がついていた。己に権能を振るっていた生徒会役員が……庶務と書記、疎水南禅

人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 ⅴ

【前回】 ⅴ. 薔薇の色は深紅であり、それはまるで血を思わせた。咲き乱れる薔薇の花、荒れ狂う荊。  亜麗愚悧亜。  それは破壊と美の権化であり、嵐のような暴虐だった。鳳凰丸と櫻、二人の身体は飲みこまれていく。それはもはや櫻の神速をもってしても不可避、避けることのできぬ退学だった。 「鳳凰丸さんッ!」  櫻は絶望のなか、鳳凰丸に覆い被さろうとした。しかし……わずかな違和感とともに立ちどまる。胸のアミュレットが輝いている。それは不気味な輝きだった。その輝きは、今までには

人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 ⅳ

【前回】 ⅳ. それらはすべて、刹那の間、まばたきにも満たぬ一瞬のできごとだった。  櫻坊は見あげた。狂おしいまでの輝きが降りそそいでくる。その光は退学の輝き、狂った星の煌めき、渦巻く光……狂星群だ。  輝きのなかで……櫻は決断していた。アミュレットの、半跏思惟中宮の語る言葉を信じ、そしてなによりも鳳凰丸を信じた。今はただ、目の前の敵を……生徒会書記、八葉蓮寂光を撃破する。ただそれだけに、意識を集中させるのだと。  体は自然に動いていた。必要な知識と力は与えられていた

人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 ⅲ

【前回】 ⅲ. 痛みで目が覚めた。  木漏れ日が揺れている。小鳥たちが優しくさえずっている。涼しげな風が、さんざんに殴られ、蹴られた体の熱を、冷ましてくれている。  口のなかには血の味が広がっていた。横たわる体には力なく、どうやら、自力で立つことは無理そうだな……と、疎水南禅は思った。  近くからは、肉が叩き潰されるような音が聞こえてくる。続けて、下卑た罵声。罵声はまるで捨てぜりふのように、少しずつ遠ざかっていく……。  静けさが訪れた。  木漏れ日、小鳥のさえずり

人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 ⅱ

【前回】 ⅱ その決着は一瞬だった。  すべては刹那のうちに、終わりを迎えた。 「さよなら……」  寂光は呟く。宙を埋め尽くしたナイフが光を放ち、それは一斉に飛んだ……鳳凰丸に向けて、ではない。櫻坊へと向けて。輝きが一点へと集約される。光の軌跡を残し殺到するその様は、まるで流星群だ。 「……!」  櫻は目を見開く。それは尋常ならざる質量による、尋常ならざる刺殺攻撃、過剰にして過大なる殺戮の技だった。その攻撃は際限なく人を切り刻み、容赦なき退学へと導くであろう。生徒会

人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 ⅰ

【前回】 ⅰ. 飛びかうナイフが殺到する。まさにここが死線、すべてを決する瞬間だ。鳳凰丸は叫び、戦鎚を振るう。駆け、ナイフの群れに突入する。  それはまるで吹き荒れる突風だった。ナイフは渦を巻き、鳳凰丸を刻みながら、「うわあッ!」と、気迫とともに戦鎚を振るう少年を、完全に取り囲む。少年の制服はズタズタに裂かれていた。柔肌からは溢れる鮮血。彼の白かった詰め襟を真っ赤に染めぬいて。  なおもナイフは容赦なく迫り続ける。鳳凰丸はそれでも、叫び、駆け、戦鎚を振るおうとする。しか

人類救済学園 第弐話「校内暴力」 ⅴ

【前回】 ⅴ.  それはまるで、獣の咆哮だった。  ドッドッドッ、ドゥルルルン。  ドッドッドッドッ、ドゥルルルン!  振りあげられるチェーンソー。ドゥル! それを、疎水南禅は頭上で旋回させた。ドゥルルル! チェーンソーの回転刃は空気を焦がし、陽炎のような灼熱旋風をつくりだしていく。ドゥル、ドゥルル! 照らしだされた南禅は笑っている……猛々しく、荒々しく。ドゥル、ドゥルルルン! 狂った獣のように吠え声をあげ、チェーンソーは、鳳凰丸へと振りおろされる!  鳳凰丸は戦鎚を

人類救済学園 第弐話「校内暴力」 ⅳ

【前回】 ⅳ. 鏡鹿苑は高々と手をかかげて叫んだ。 「緊急動議! 校内暴力行使の許可を求めるッ!」 「……!?」  鳳凰丸は唖然と鹿苑を見た。  鹿苑は嘲るように続けた。 「ぎゃは! 賛同する生徒会役員は、挙手をォ!」 「当然だ」「!」  鳳凰丸は背後を見た。  そこにはゆらりと佇む少年がいる。 「朝になると太陽が昇り、やがて沈んで夜が来る。ああ、それぐらい自明だな、鏡。こいつには、校内暴力を行使すべきだ。当然俺は、賛同する」  その右目が確定的な殺意ととも

人類救済学園 第弐話「校内暴力」 ⅲ

【前回】 ⅲ.「うわ……!?」  風紀委員、櫻坊(さくら・ぼう)は今、圧倒されていた。彼の自称チャームポイントであるくりくりとした瞳が、心配そうにキョロキョロと動いていた。櫻は早くも、図書館に入ったことを後悔している自分に気がつく。図書館に来るのは初めてだったが、まさか、ここまでだったとは……。噂には聞いていた。だから覚悟はしていた。そう、覚悟はしていたのだ。しかし、でも、これはいったいぜんたい、これはいったい……。  櫻は見あげた。書棚は信じられないほど高く、遥か、遥

人類救済学園 第弐話「校内暴力」 ⅱ

【前回】 ⅱ. 心地のよい風が吹いている。 「んん~……」  鳳凰丸は伸びをすると、そのままばたりと倒れこむように寝転んだ。芝生が柔らかく受け止めてくれた。昨日、救世とともに訪れた丘の上。警護の風紀委員たちは、全員下で待たせている。ようやく訪れた一人きりの時間だ。  腕をまくらに空を見あげる。そこには深い、吸い込まれるような瑠璃色が広がっている。天頂に浮かぶ講堂の光は、優しくすべてを照らし出している。鳳凰丸はくちびるを尖らせながら、呟いた。 「鏡……。鏡鹿苑(かがみ