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人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 ⅲ

前回

ⅲ.

 痛みで目が覚めた。

 木漏れ日が揺れている。小鳥たちが優しくさえずっている。涼しげな風が、さんざんに殴られ、蹴られた体の熱を、冷ましてくれている。

 口のなかには血の味が広がっていた。横たわる体には力なく、どうやら、自力で立つことは無理そうだな……と、疎水南禅は思った。

 近くからは、肉が叩き潰されるような音が聞こえてくる。続けて、下卑た罵声。罵声はまるで捨てぜりふのように、少しずつ遠ざかっていく……。

 静けさが訪れた。
 木漏れ日、小鳥のさえずり、そして痛み。
 涼しい風。

 ザッ、ザッ、ザッと、誰かが近づいてくる音がする。南禅はかろうじて目を動かして、その音の主を見ようとした。影がさした。木漏れ日を背景に、誰かが、南禅の顔を覗きこんでいた。

「よォお前、ボロボロだな」

 それは野生を感じさせる美しい顔だった。
 ふてぶてしい笑みを浮かべた……少年。

「だが見ていたぞ……お前、なかなかガッツがある。だから」

 少年は手を差しだす。

「気にいった」

 時が止まったようだった。南禅は魅入られたようにその顔を見つめていた。少年の面構えは傲慢そのものだった。でもどこか、信じてもよい優しさを感じさせた。それは、暖かさだ。

 そうまるで、この、木漏れ日のような……。

 少年は、うながすように首をかしげた。南禅は……震える手を持ち上げる。この瞬間……それは永遠であり、きっと、忘れることなんてできないだろう……そんなことを思いながら、気がつけば少年の手を取っていた。

 それが、金堂盧舎那との出会いだった。

 ああ。

 と、南禅は思った。

 これは在りし日の残影。
 過ぎ去って、もう戻ることはない永遠の一瞬。

 鮮烈な緋色の輝きとともに、鳳凰丸の放つ戦鎚が迫っていた。南禅はその緋色の輝きのなかに……ああ。見える、と呟く。お前の、盧舎那。お前の大きな背が見える。

 俺はいつでも見ていた。お前の背後で。常に前へと進んでいく、お前の背を。偉大で、雄大で。厳しくも暖かい。学園の秩序そのものである、お前の背を。常に皆のことを考えていた、優しい、お前の背を……。

「盧舎那……」

 信じていた。これからも、ともに歩み、そしてともに卒業していくのだと。そうなるものだと思っていた。そうなることが当然だと信じていた。あの、奇跡のような永遠の一瞬とともに。

「盧舎那……ッ」

 緋色の輝きが迫る。
 もはや、逃れる術などない。
 南禅は絶望とともに声をあげた。

「盧舎那……ッ!」

 鳳凰丸は咄嗟に目をつむる。
 泣き出しそうな顔を背ける。
 戦鎚の勢いは、止まらない。

「ああ……すまない……ッ! 僕は……僕は……!」

 直後、緋色の輝きが南禅の全身を貫いた。
 サファイアの義眼が砕け、哀れな輝きを残して宙へと舞う。

「盧舎那ァッ!」

 絶叫。
 サファイアとともに永遠の一瞬は砕け散り……疎水南禅は、退学した。

ⅳに続く

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