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人類救済学園

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命みじかし、闘争せよ少年。
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人類救済学園 目次

第壱話 「嵐を呼ぶ少年」intro +ⅰ ⅱ ⅲ ⅳ ⅴ+ outro 第弐話 「校内暴力」ⅰ ⅱ ⅲ ⅳ ⅴ 第参話 「VS.鏡鹿苑!」ⅰ ⅱ ⅲ ⅳ ⅴ outro 第肆話 「恋の始まりは晴れたり曇ったりの四月のようだ」ⅰ ⅱ ⅲ ⅳ ⅴ 第伍話 「緊急生徒総会」ⅰ ⅱ ⅲ 第陸話 「講堂決戦」ⅰ ⅱ ⅲ ⅳ 第漆話 「地に堕ちて」ⅰ ⅱ ⅲ 第捌話 「それはなんだッ!」ⅰ ⅱ 第玖話 「許されざる者との死闘」ⅰ ⅱ ⅲ ⅳ ⅴ 最終話 「平等院鳳凰丸」

人類救済学園 最終話 「平等院鳳凰丸」 ⅳ

【前回】 ⅳ.  友は消えた。  冬の夕陽のように、あっという間に過ぎ去り。  あとには、孤独な闇だけが残された。  闇のなか、鳳凰丸は床にくずおれている。  しかし、それでも。それでもなお鳳凰丸は……。 「……諦めてたまるものか」  と呟く。  そこに、光がさした。  鳳凰丸は呆然と顔をあげ……目を見開く。  光とともに、女がいた。  女はあたかも、ずっとそこに居たかのように笑みを浮かべ、鳳凰丸から十数歩ほど離れた場所に佇んでいる。  女はニヤニヤと、貼りつ

人類救済学園 最終話 「平等院鳳凰丸」 ⅲ

【前回】 ⅲ. ゆっくりと、救世の体が倒れてゆく。鳳凰丸にもたれかかるように倒れる彼を、鳳凰丸は、迎えいれた──抱き締めるように。そして救世の重みにくずおれて、ふたりは、お互いを支えあうように膝をつく。  静かだった。  静寂と闇。  救世の血と、脳漿の匂い。  救世の体温。  救世の呼吸。  そして、救世の鼓動。 「はは、やはり貴様は……凄いやつだった……」  そう、救世は言った。 「はじめて会ったときからわかっていた……貴様は誰とも違っていた……貴様は……眩し

人類救済学園 最終話 「平等院鳳凰丸」 ⅱ

【前回】 ⅱ.「待て……」  その呼びかけに、夢殿救世は足を止めた。 「待て……ッ!」  救世は目をつむる。息を静かに吐きだす。意を決したように振りかえり、そして。 「……鳳凰丸」  救世は見つめた。黒に染まった闇のなか、立ちあがっていく少年の姿を。その静かな覚悟を見つめた。  平等院鳳凰丸。 「フン……」  救世は諦めにも似た声音で言った。 「保健委員長が回復させたか」  救世と鳳凰丸は向きあう。鳳凰丸の目は燃えるように輝き、鋭く救世を見つめている。

人類救済学園 最終話 「平等院鳳凰丸」 ⅰ

【前回】 ⅰ.「さあて、いよいよ。ついにクライマックスだね」  六波羅蜜弁財は、んふふ、と笑った。  ふたりだけだった。  ふたりだけ……たった、ふたりだけが残っていた。  体育委員長、保健委員長、図書委員長、美化委員長……幾人もの生徒が闘い、傷つき、退学していったこの回廊で。今、立っているのは、このふたりだけだった。  平等院鳳凰丸。  そして、夢殿救世。  ふたりは向かいあう。  すべての決着をつけるために。  己が信じる、結末へと向かうために。  鳳凰丸は

人類救済学園 第玖話「許されざる者との死闘」 ⅴ

【前回】 ⅴ. 憎め。  憎め。憎め。憎め。憎め。  いっそのこと俺を憎め、鳳凰丸。  そして……!  救世は冷たく刀を構えた。  中宮は嘲笑う。 『おーおー、勇ましい。ふふふふふ! 夢殿救世ェ! あなたひとりで、このわたしに勝てるとでも?』 「貴様の闘いはずっと見ていた」 『へえ。言うねぇ~』 「そして俺の相手は……」  救世の目が見開かれる。 「貴様ではない」  その瞬間、緋色の閃光が回廊を貫き、絶叫が轟いた。 「救世ッ!」  そうだ、それでいい…

人類救済学園 第玖話「許されざる者との死闘」 ⅳ

【前回】 ⅳ. 荊がアミュレットを貫き、砕く。  紫の煌めきが散った。  砕けたアミュレットの破片が床に落ちていく。それらはひととき紫の焔をあげ、燃え尽きるように消えていく。  そして学園の外れにある図書館では……半跏思惟中宮が絶望の悲鳴をあげていた。 「バカな……そんな……これは!?」  胸に吊るされたアミュレットの輝きのなかで、不気味な蟲のごときシルエットが蠢いている。そしてそれは、溢れた。  荊だ。無数の荊が弾け、それは急激に伸び、膨らみ、書棚が林立する図書

人類救済学園 第玖話「許されざる者との死闘」 ⅲ

【前回】 ⅲ. その時──鳳凰丸と鹿苑は左右に分かれ、駆けだした。一瞬、中宮の眼が左右に泳ぐ。  それはまさに、運命を分かつ瞬間だった。 「ギャハッ!」  鹿苑が嗤い、中宮の周囲で荊が弾けた。まるで繭玉のように、中宮の体を覆っていく。 『ふふッ! それがどうしたァ、メス豚ァッ!』  紫の閃光。繭玉をすり抜け、迸り、中宮は繭玉に押し潰されることなくその外に出現。  だが、その時すでに──  すでにふたりはッ!  中宮の前。凶悪な笑みを浮かべ、鏡鹿苑は不敵に立っ

人類救済学園 第玖話「許されざる者との死闘」 ⅱ

【前回】 ⅱ.  それはさながら、尋常ではない強靭さを持った有刺鉄線……そんな印象だった。進みでた鏡鹿苑の手から伸びる荊は中宮の腕に食いこむように絡みついていた。  半跏思惟中宮は嗤っている。 『ふ、ふ、ふ!』  鹿苑は唇をイラ立ちで歪め、右目を見開く。表情はそのままで、ギョロリ、と視線を動かす。床に這いつくばり、喘ぐ鳳凰丸を見た。倒れ、微動だにしない阿修羅、救世を見た。そして、二体の中宮によって袋叩きにされている九頭龍滝神峯を見た。 「クソ野郎」  鹿苑の眉間に

人類救済学園 第玖話「許されざる者との死闘」 ⅰ

【前回】 ⅰ.『ふふ、ははは……』  中宮の笑いが木霊する。倒れていた櫻の上半身が起き上がり、アミュレットから浮かび上がった中宮の像と、重なり合っていく。  櫻は巨大な矛を手にしていた。その身を覆うのは書の鎧だった。櫻と重なりあう中宮は、長衣をまとっている。重なりあうその姿は、不気味でグロテスクだった。  鳳凰丸は駆け、戦鎚を振りかざし、叫ぶ! 「何をしている! 保健委員長ッ!」  唐突な事態に、九頭龍滝神峯は腰を抜かして尻餅をついていた。ハッ、とその顔をあげる。

人類救済学園 第捌話 「それはなんだッ!」 ⅱ

【前回】 ⅱ. 入学回廊の上には、巨大な講堂が浮かんでいた。間近で見るそれは、まるで空を覆って迫りくる、漆黒の吊り天井を思わせた。  非常識なまでの圧迫感。それを目の当たりにして、櫻坊はごくりと唾を飲みこむ。この巨大な闇が落ちてくれば、なすすべもなく押し潰されることになるだろう。あの巨大で壮麗な校舎が、あっさりと崩れさった光景を思い浮かべ……櫻は、恐怖した。  ちらりと鳳凰丸を見る。その制服は血で真っ赤に染まっている。その髪は、血を使ってオールバックに撫でつけられている

人類救済学園 第捌話 「それはなんだッ!」 ⅰ

【前回】 ⅰ. 極楽真如の首が飛ぶ。盧舎那が退学していく。渦巻く漆黒の闇。微笑む救世。次々と大地へと落ちていく生徒たち。  ああああああ……やめろッ! やめてくれ!  そして……さよなら、風紀委員のみんな。 「…………!」  鳳凰丸はがばりと身を起こした。思わず己の顔を手で撫でる。在学している……退学はしていない。鳳凰丸は混乱していた。落ちて、阿修羅に救われて、それからいったい、どうなったというのか? 「無理しない方がいいよ~。応急処置しかできてないからね~」

人類救済学園 第漆話「地に堕ちて」 ⅲ

【前回】 ⅲ.「なぜ……君が……ここに……」  阿修羅の目を見つめながら、鳳凰丸はかろうじて口を動かした。その声音は弱々しい。あきらかに退学寸前だった。  阿修羅は横抱きにしたその体を、そっと優しく抱えこんだ。 「櫻という一年が教えてくれた。だから……」  阿修羅はささやくように言った。 「柄にもなく、すっ飛んできたんだ」  その艶やかな髪がゆるやかに風になびき、その肩に下げた竹刀袋がカタカタと揺れた。鳳凰丸は力を振り絞る。 「櫻……くん……は……」 「彼は

人類救済学園 第漆話「地に堕ちて」 ⅱ

【前回】 ⅱ. 夕闇のなか。大地へと降りそそぐいくつもの影。櫻坊は息を呑んでいた。落ちていく、人類救済学園の全校生徒たち。美しく、そしておぞましい光景だった。  その胸元でアミュレットが明滅し、呟いた。 『やはり行き着く先は悲劇……櫻さん、あなたが保健室にいたのは幸いでした。そうでなければ、あの悲劇から逃れることはできなかった』  あの日……鏡鹿苑と鳳凰丸が校内暴力を繰り広げたあの日、保健室で眠る櫻の枕元で、鳳凰丸はアミュレットを叩き壊した……そのはずだった。しかし、