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人類救済学園 第参話「VS.鏡鹿苑!」 ⅱ

前回

 その決着は一瞬だった。
 すべては刹那のうちに、終わりを迎えた。

「さよなら……」

 寂光は呟く。宙を埋め尽くしたナイフが光を放ち、それは一斉に飛んだ……鳳凰丸に向けて、ではない。櫻坊へと向けて。輝きが一点へと集約される。光の軌跡を残し殺到するその様は、まるで流星群だ。

「……!」

 櫻は目を見開く。それは尋常ならざる質量による、尋常ならざる刺殺攻撃、過剰にして過大なる殺戮の技だった。その攻撃は際限なく人を切り刻み、容赦なき退学へと導くであろう。生徒会書記が代々継承してきた恐るべき技……寂光はその名を呟いた。

 狂 星 群

 光が、降りそそぐ。

「……ッ!」

 決断を迫られる。ほぼ同時、櫻は視界の端に、凄まじい圧力とともに鳳凰丸へと迫る南禅を捉えていた。鳳凰丸を護らなけれならない。鳳凰丸を護るべきだ。しかし……その直後、櫻はナイフに切り刻まれ、退学することになるだろう!

『大丈夫』

 胸のアミュレットが輝き、力強く言いきった。

『彼ならば……大丈夫です!』

「は、は、は、はッ!」

 南禅は吠え、笑っていた。彼の見る世界が灼熱に染まり、そして、灼熱のなかを飛ぶように過ぎ去っていく。南禅は回転している。チェーンソーを両手でつかみ、己を軸として……超高速の回転。それは殺意の竜巻だった。灼熱の炎が渦を巻き、空をも焦がしていく。超弩級の技だ。

 それに触れる者は何者であろうと、一瞬で終わることだろう。微塵に粉砕され、焼き尽くされ、退学する……歴代の庶務が研鑽を重ね、代々継承してきた技を、南禅はさらに昇華し、完成させていた。

 それは恐るべき即退学の技であった。
 その名は……

 デ ッ ド リ ー ス ピ ン !

「盧舎那ッ!」

 南禅は荒れ狂う灼熱のなかで、獰猛なる雄叫びをあげていた。

「見ろッ! 滅ぶぞ……お前の敵が!」

 奇妙な感覚だった。痛み、血を失い、薄れゆく意識の向こう。そこにはただ、静寂だけがあった。まるで、時が止まったかのようだった。

 高速で回転し、灼熱の渦とともに迫りくる南禅が見える。それと同時に、その静寂は存在している。ふたつの視点。絶体絶命と、静けさと。まるでネガとポジのような、奇妙な同居。

 静けさのなかで、鳳凰丸は手を伸ばす。
 そこにはかつて出会った言葉がある。

 生まれ生まれ生まれ生まれて
 生の始めに暗く

 死に死に死に死んで
 死の終りに冥し。

 鳳凰丸はその手を握りしめる。チカチカと、頭のなかで光が瞬く。それは直後、鮮烈な閃きとなって浮かびあがってくる。

 閃き。それは文字通りの閃きだった。鳳凰丸は動きだす。鳳凰丸は知っている。新たに得たものが何であるのかを、鳳凰丸は、すでに知っている。

「なに……!?」

 南禅はその獰猛なる笑みを歪め、うめいた。灼熱の回転はすでに、その射程のなかに鳳凰丸をとらえている。荒れ狂う熱が鳳凰丸の制服を焦がし、その血を蒸発させていく。一秒と満たない刹那の後、やつは粉微塵となり、焼け、退学する。そのはずだ。

 鳳凰丸は動きだしていた。灼熱のオレンジに包まれながら、瀕死だったはずの少年は静かに……そして絶対の優雅さをもって戦鎚を構えている。

 ……なんだ?

 南禅は言い知れぬ恐怖を感じた。デッドリースピンは無敵の技。一撃即退学。触れた瞬間、やつは滅びる。そのはずだ。そのはずなのに、それなのに……。

「なぜだッ!」

 南禅はおぼろげながらも理解しはじめていた。俺は勝っている。そのはずだ。盧舎那の敵を滅ぼす。そのはずだ。それなのに……それなのに……今、死地にいるのは鳳凰丸ではない。ほかならぬ……俺自身ではないのか……?

「ガァァッ!」

 南禅は叫んだ。直後、火炎のごとき灼熱とともにデッドリースピンの凶刃は鳳凰丸へと到達する。鳳凰丸はそれを……戦鎚で受けた。

 それはまるで、流れゆく清流だった。

 鳳凰丸の戦鎚は優美な弧を描く。その弧は荒れ狂うデッドリースピンをも優しく包みこみ、そして、そらした。南禅は目を見開く。灼熱が、回転の力が流されていく。南禅もまた体勢を崩し、そして、彼は見た。

 鳳凰丸は舞っていた。受け流した灼熱を、回転の力を、その身にまとい。自ら描いた弧を、再び全身で表現するかのように、宙で身をひねる。その姿は、異常なほど美しかった。

 それは壮絶なるカウンター技。対象の技が強力であればあるほど、それは倍の威力となって相手へと返っていく。

 鳳凰丸は確信とともに、その技の名を叫んでいた。

 倍 返 し だ !

 その叫びとともに……南禅の脳天に、緋色に輝く戦鎚が振りおろされた。

ⅲに続く

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