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【受賞者インタビュー】当初のコンセプトは“1ヶ月で作る”!? ドット絵推理ADV『和階堂真の事件簿』開発メンバーの話を聞いてみた!

――往年の16ビットゲームを思わせるオールドクスールなドット絵を採用しつつ、誰でもストレスなく進行してエンディングまでたどり着ける絶妙なボリューム感のミステリーアドベンチャーゲーム『和階堂真の事件簿』シリーズ。

和階堂真シリーズの1作目。
80年代を舞台に不可解な連続首なし殺人事件の謎を和階堂警部が解き明かす…
レトロなドット絵とハードボイルドなBGMに裏に張り巡らされたトリックを、貴方は見破ることができるだろうか。
(画像、テキストは公式サイトより引用)

昨年開催された「Google Play Indie Games Festival」ではTOP10に入賞。同イベントでは「集英社ゲームクリエイターズ CAMP 賞」も受賞し、【クリエイターたちが本当にミステリー好きなのがよく伝わり、グラフィックをドット絵で表現したことがシナリオの行間を読ませることに貢献している】【あらゆるコンテンツが溢れかえっているなか、1時間でクリアできるアドベンチャー】という部分が集英社ゲームクリエイターズ CAMPのスタッフから高く評価された。

『和階堂真の事件簿』シリーズは小説やマンガとはまた違ったゲームならではの新ミステリージャンルを開拓し、今春にはNintendo Switch版もリリース予定という注目のインディーゲームだ。

そんなタイトルの開発メンバーたちの素顔とは? 企画・グラフィックス担当のハフハフ・おでーんさん、メインプログラマーのMOCHIKINさん、メインシナリオ担当のきっきゃわーさん、BGM担当のあだPさん。4名の開発メンバーたちにお話を伺ってみた!

当初のコンセプトは“1ヶ月で作る!”

――シリーズ1作目となる『和階堂真の事件簿-処刑人の楔』を制作するきっかけは?

ハフハフ・おでーん
もともと他のタイトルを制作していたのですが、それがなかなか進行しない状況となり……。リハビリ兼肩慣らしとして「インディーゲームを作るか!」と始めたのが、『和階堂真の事件簿-処刑人の楔』になります。

――『和階堂真の事件簿』シリーズは2020年9月に1作目が配信され、その後2作品をリリース。この高速スケジュールは“肩慣らし”にはなってないですよね。

ハフハフ・おでーん
まったくリハビリにはならなかったです(笑)。「とりあえず1本目だけ出そう!」とやったら続編も作ることになり、それでこんなスケジュールになってしまったという。実は、当初は“1ヶ月で作る!”というコンセプトのタイトルだったんですが、これは大きく破綻しました(笑)。

ドット絵/シナリオ/音楽/演出へのこだわり

――シリーズを象徴するのがモノクロ調のドット絵だ。この懐かしくもあり新鮮なドット絵を採用した理由は?

ハフハフ・おでーん
もともと僕がドット絵好きというのが理由です。キャラはモノクロではなく2色使いでデザインしましたが、続編を制作してキャラが増えるにつれ、“キャラの差別化”がどんどん難しくなったんです。これは失敗したなと(笑)。

――しかし、90年代風のドット絵は“ミステリーをしっかり読ませる”ことにも貢献していると考えるファンは多い。そしてオールドスクール感が強めの要素がゲーム中にちりばめられている。そのひとつがエンディングのスタッフロールのスペシャルサンクスに表示される“And YOU”の文字。このニヤついてしまう演出を挿入したのが、メインプログラマーのMOCHIKINさんだ。

MOCHIKIN
“And YOU”を入れないとゲームが成り立たないですって! でも、本当の理由としては、スタッフロールのスペースが余ってたから入れてしまいまいした(笑)。MSXやファミコン時代のゲームってみんな“And YOU”が入ってましたよね。

ドット絵のゲームだけど、音楽や演出の部分も頑張っています。メインシナリオ担当のきっきゃわーさんは、もともとお芝居をやってたからセリフ回しの部分を本当にノリが良く面白く作ってくれて、これは大きな魅力になると感じました。

ハフハフ・おでーん
確かに。1〜2時間でエンディングまで行けるミステリーアドベンチャーのサクサク進行を実現できたのも、きっきゃわーのシナリオ作りが大きかったと思いますね。

きっきゃわー
激褒めされて引いてます(笑)。お芝居の経験が役立ってよかったなと。シナリオ的には、とにかく贅肉をそぎ落とす作業でしたね。まず最短ルートを作って、「ここさえあればプレイヤーさんは遊べるはず」という部分だけ残しました。そして余力の部分でテンポの良さ、キャラ同士のセリフ回しの楽しさを追加していきました。思いのほか、余力が評価されましたね(笑)。

――推理アドベンチャーでストーリーを盛り上げる要素となっているのがサウンド。これを担当した、あだPさんはどのように音楽を仕上げていったのか?

あだP
僕はもともとおでーんさんの描くドット絵が大好きで、その絵を見ただけで音楽が自然と浮かんでくる感じでしたね。だから、ほかのメンバーみたいにスケジュールで苦労したとかはありませんでした。すべて、おでーんさんの描いたドット絵のおかげです!

ハフハフ・おでーん
あだP、今度なんかおごるからね(笑)。

あだP
そーいうの、いーから!

ハフハフ・おでーん
あだPさんは音楽的にジャズ畑の人間で、ハードボイルドなノワールな雰囲気を出したかった1作目にとてもマッチした音楽を仕上げてくれました。2作目、3作目と雰囲気を変えたのですが、それに対してもうまくマッチさせてくる。あだPさんには、シリーズを通して安心して音楽を任せられます。

あだP
ありがとうございます。今度、なんかおごります(笑)。でも僕、もともと『和階堂真の事件簿』シリーズには参加するつもりなかったんですよね。きっきゃわーさんが、「あだP、やるやろ? やるよな!」って、気づいたら参加していた感じなんですよ。

ハフハフ・おでーん
それ言ったら、きっきゃわーさんだって、実はイラストレーターで、僕が無理やり「シナリオもできるやろ!」と、やってもらったから。こうやっていろいろ巻き込んでいくのが、うちの体質であり、これが功を奏したと思います(笑)。

――1作目はハードボイルド、2作目は横溝風、3作目は80年代の刑事モノ風と、作品を通して雰囲気を変化させプレイヤーを楽しませる『和階堂真の事件簿』シリーズ。その一方でブレない部分もあるという。

MOCHIKIN
ドット絵で横スクロールのミステリーアドベンチャーであること。うちら、ファンタジーは作れへんから。だって、うちのメンバー、ファンタジー系の作品やって、鼻で笑ってるとこありますから(笑)。

一同
ない! あんただけ(笑)。

ハフハフ・おでーん
まじめな話、「なるべく和階堂じゃないものを作りたい!」という意識もあります。

MOCHIKIN
3作目で「和階堂、殺しとくか?」というプランがあったぐらいですから。

ハフハフ・おでーん
あった、あった。ただ、このシリーズの続編タイトルを作らなというわけではなく、2作目や3作目に登場したサブキャラを主役に据えるなど、変化をつけてシリーズをやっていきたい。和階堂家にはいろいろなキャラがいますので、その辺りは自由度が高いと思っています。それこそファンタジー系の和階堂作品とかね(笑)。

――いろいろプランがあると、スケジュール的なキツさも当然出てきますよね?

ハフハフ・おでーん
もちろん、メンバー全員がキツくなることもあるけど、我々独自の“ええやん進行”で乗り切れちゃうんですよね。とりあえず、“ええやん”でプロジェクトを進行させて、3ヶ月後にはなんとかなるという。

MOCHIKIN
まー。3ヶ月経ってもなんとかなってない場合もあるんですけどね(笑)。それでも、“ええやん”でやっていけるメンバー間のノリはあります。

「集英社ゲームクリエイターズCAMP」について思うこと

――とにかくノリが良く、にぎやかな和階堂メンバーたち。昨年開催された「Google Indie Games Festival2021」に「集英社ゲームクリエイターズ CAMP 賞」が設けられましたが、インディーゲームを制作するみなさんにとって、クリエイターを支援する集英社ゲームクリエイターズ CAMP は、どのような存在になっていくと思いますか?

ハフハフ・おでーん
僕は5年前ぐらいからインディーゲームの開発をはじめました。当時、僕的には「すごいゲームだ!」と思ったタイトルのクリエイターのなかには、現在ではゲーム制作から消えてしまった人もいます。これは「インディーゲームでは食えない」というのが要因だと感じています。

集英社ゲームクリエイターズ CAMPは、僕らクリエイターの作品やアイデアが評価されれば仕事の発注やサポートを受けられる。また、僕が拠点としている関西はクリエイター同士が交流できる環境がありますが、そういった環境がない地域のクリエイターにとっては交流の場として集英社ゲームクリエイターズ CAMPが機能していってほしいなと思っています。

きっきゃわー
集英社ゲームクリエイターズ CAMPに登録していると、「○○のプロジェクトに参加しませんか?」とメッセージが来ます。これまで自分で行なっていた営業的な部分が軽減され、創作活動に専念できる。これって、かなりありがたいですよね。

あだP
各種サポートだけでなく、自分たちのアイデアにフィードバックがある。これを企業や同じクリエイターからもらえる環境というのがありがたいなと思います。これは本当にやる気になるし、心強いですよ。

ハフハフ・おでーん
企画書を書くだけでもフィードバックがあったりして、僕の周りでもそれを喜んでいるクリエイターは多いですよ。集英社ゲームクリエイターズ CAMPは、百利あって一害なしのプロジェクトだと思っています。

MOCHIKIN
プロ野球にはスター選手がいて、子どもたちがそれを目指す。でも、ゲームクリエイターにはそういった環境がまだないんですよ。クリエイターの名前じゃなくて、みんなゲームメーカーの社名が先に出てくる。集英社ゲームクリエイターズ CAMPがきっかけになり、子どもたちが「○○みたいなゲームクリエイターになりたい!」という環境が自然に生まれてくると嬉しいですね。

ハフハフ・おでーん
それ重要ですよね。僕ら、インディーゲームのクリエイターって、少年ジャンプの作家さんみたいな立場になれれば良いなと思います。創作したタイトルが評価されて、それに見合った収入を得られる。

僕も含めて、これまでインディーゲームのクリエイターは暗闇の中で作業している感じでした。でも、集英社ゲームクリエイターズCAMPには「オリジナルゲームコンテストGAME BBQ 」のようなコンテストがあり、それで一次予選を通過しただけで自信につながる。もちろん大賞を獲得できればチャンスが広がります。

こういった取り組みを、「マンガ家さんとインディーゲームのクリエイターとの関係性は一緒である」と考える少年ジャンプの集英社さんがやってくれているのは、僕らインディーゲームのクリエイターがマンガ家さんのような夢のある存在に近づいているのかなと実感できますよね。

まだミステリーをやるのかファンタジーなのか想像もつきませんが、集英社ゲームクリエイターズCAMPと一緒にフルスイングでがっちりしたタイトルを作っていきたいです!

――ノリが良くて、意外とまじめな面もアリな制作メンバーたち。そんなメンバーたちと、「マンガ家さんと編集者、ゲームクリエイターとCAMPチームの関係性は一緒である」と考える集英社ゲームクリエイターズCAMPは、「クリエイターの作家性を最大限発揮できる様に、二人三脚で深く追求していきたい」と、新たなるゲーム作品のプロジェクトを始動している。

僕ら、プレイヤー的にはそんな新タイトルを期待しつつ、まずは制作メンバーたちのおもしろ要素が全部入りの『和階堂真の事件簿』シリーズを、ぜひ! そしてプレイ後はクリエイターが最も励みとなるフィードバックも忘れずに!!

左からウラベロシナンテ(プロジェクトマネージャー)、モチキン(プログラマー)、前列中央がきっきゃわー(シナリオ)、ハフハフ・おでーん(グラフィック)、一番右があだP(音楽)