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詩「ひでじい」

「ひでじい」
-私-
思えば長く歩いてきました

自分の足では歩けない
遠い記憶の向こう側
父の二の腕、母の呼ぶ声
祖父母の笑顔、握りしめたお菓子

小さな歩幅は遠くへ行けず
数歩歩けば振り向いた
迷子の恐怖、水際の畏怖
汗だくのTシャツ、冷えたこめかみ

自分の足で踏みしめて
歩いたつもりの帰り道
大きな身体、小さな心
詰め込まれる知識、空洞の信念

思春期の衝動を秘めて
ペダルを踏んだ反抗期
大人への怒り、大人への甘え
ちっぽけな反骨、大切な青春

生まれ育ったこの場所と
別々に歩くと決めた18歳
自立とは砂上の楼閣、自律とは目一杯の成長
未熟な長男、満ちあふれた友情

砕け散ったすべてと残った美学
譲れないものへの錯覚は深く
大したことのない己、認めたくないプライド
大したことのない己、認めることがプライド

小さな化学反応はひとつの星になる
共に歩むと決意が生まれた20代
今、明日、来年、死に際、ずっと
隣にいてほしいというわがまま
柔肌のように温かな心地よさ
鋼のように静まり返る慈しみ
夫婦とは、柔肌のように、鋼のように

-じいちゃん-
あの頃出会いましたね。
こんなにも時が経ちましたね。
これからも続いていくんですね。
覚えていますか。覚えていますか。
うだるような夏蝉の声。
眼下に広がる田んぼの緑。
お小遣いの入ったポチ袋。
30年前もじいちゃんで、30年後もじいちゃんで。
歩けば軋む廊下。引っ張れば消える電気のヒモ。
満員のイオン。握りしめたゲーム。
お茶と焼酎の乾杯。得意げなマジック。
PCで調べ物。タブレットで動画視聴。
拓いて生きてきたのなら時代にだって負けないさ

覚えていますか。
私の結婚式。弱々しい足取り。立ち座りがままならない。
覚えていますか。
私の披露宴。立ち上がる元気。妻の名を叫ぶ声。写真を撮ろうと動き回った。
覚えていますか。
ついてきた杖を忘れたか。軽やかな帰り道。
人は人と関わって、人として生きていく。
どんなに貴方がヨボヨボだって、
孫は人として学んださ。
最大級の幸福と、それを受け止める貴方がいれば魂魄はエネルギーに満ち溢れていけるんだ

助け合って、ぶつかり合って、なぐさめ合って、赦し合って、愛し合って、競い合って、
わずらわしい生命の交わりが
からみ合った人生の行く末が
誰かに解を与えると、エネルギーを分け合えると
貴方の人生の終わりに気付くんだ

結婚式見届けてくれてありがとう。
元気になってくれてありがとう。
長生きしてくれてありがとう。
思い返した幼少と、浮かぶ情景の全てが
貴方からの解なんだ。

歩いていくしかないんだよ
歩いていくしかないんだよ
歩いて行こうよ、歩いて行こう
闊歩闊歩と歩いた果ての
解をつないでまた会おう
おっさん同士で肩を組もう

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