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2022シーズン川崎フロンターレ シーズンレビュー データ編

前回は川崎が優勝できなかった原因をピッチ上の戦術面から分析した。本記事ではそれをデータで見ていく。戦術編はこちらをご覧ください。

1.シーズン振り返り

まずは簡単にいくつかのデータから今シーズンを振り返ってみる。

まずはゴール期待値の推移から。青色が川崎の赤色が相手のゴール期待値を示しており、青と赤の差が大きい試合ほど勝てる可能性が高かった試合だ。シーズン序盤は両チームとも期待値が1を超えて拮抗している試合が多い。しかし第8節柏戦から第18節磐田戦までは湘南戦と札幌戦の例外はあるが、低い数字で拮抗している。その後の第21節G大阪戦から第29節広島戦までは川崎が相手チームを大きく上回る試合が多く、今季で最も好調だった期間と言えそうだ。注目は被ゴール期待値の高かった対戦相手でC大阪、湘南、札幌、京都などだ。これらのチームは川崎のビルドアップを困らせたチーム。

これはEPPと言って私が独自に集計してる効果的なパスを測る指標だ。詳しくはこちらをご覧ください。第9節横浜FM戦のOEPPが飛び抜けているが、これは集計方法によるものなので外れ値としてお考え下さい。OEPPはシーズン当初から中盤にかけて変動はあるが傾向として減少しており、相手に効果的にパスを回させなかった。しかしシーズン後半からは再び上昇しさらに安定している。それに対し川崎のEPPはシーズンを通してかなり大きく変動している。EPPの高かった対戦相手を見ても福岡のような撤退守備型もあれば札幌や鳥栖などのハイプレス型もある。あまりシーズン通して安定して効果的にパスを回すことはできなかった。

左:川崎 右:対戦相手

これは30m進入回数とPA進入回数のシーズン推移。青の線と赤の線の差が小さければより効果的にPAに進入できていたことになる。基本的に川崎が30mに多く進入できている試合ではPA進入回数も増加している。ただ第11節神戸戦や第18節磐田戦では30m進入回数が非常に多いのにPA進入回数は少なく攻めあぐねた試合だ。第24節横浜FM戦から第27節鹿島戦までの3試合は30m進入回数が少なく難しい試合だったが勝ち切ることができた。一方の被30m進入回数は最終節を除くと第5節広島戦が最も多いが被PA進入回数はそこまで多くなく、最後のところでしっかり守ることができていた。第16節京都戦は被30m進入回数も被PA進入回数も少ない試合だったが、ワンチャンスをものにされて敗戦している。

そしてこれはトラッキングデータ。基本的にスプリントが増えれば走行距離も増えるので傾向としては一致している。川崎はシーズン当初がスプリントも走行距離も最も多い時期だが、その後減少し続け第16節京都戦から第20節までは低いレベルで落ち着いている。しかしその後シーズン終了へ向けて再び上昇した。相手チームのトラッキングデータを見るとシーズン前半に大きな山が3つあるが、こちらもシーズン中盤の第14節鳥栖戦を終えたあたりから第26節福岡戦までは低いレベルで落ち着いていた。この時期はだいたいゴール期待値が安定していた時期とも重なっており、今回の大きなテーマだ。

2.昨シーズンからの変化

38試合で勝ち点92を積み上げ連覇を達成した昨季の川崎と34試合で勝ち点66で三連覇を逃した今季の川崎はデータ面からどのような変化があったのか。Football LABで比較し大きく変化があったものの中から気になったものを抽出した。

トランジション数=攻撃回数+被攻撃回数

左が2022シーズンで右が2021シーズンとなっているが、これらの項目は大きくリーグ順位を落としており昨季からのパフォーマンス低下と関係がありそうだ。従ってこれらの項目と関係のありそうな他のデータも使いながらデータレビューをしていく。

3.試合を決めたのは失点

昨季と今季を単純なスタッツで比較してもやはり今シーズンは失点が多すぎた。ではなぜ失点が増えてしまったのかがまず最初のテーマだ。

敗戦:赤 引き分け:青

上の表は各試合のゴール期待値と被ゴール期待値を示しており、左ではゴール期待値の降順に並び替え、右では被ゴール期待値の降順に並び替えた。左の表では勝ち点を落とした試合の分布がバラバラなのに対し、右の表では左に比べて勝ち点を落とした試合が上に集まっている。つまり被ゴール期待値の高い試合は勝ち点を落とす可能性が高かったわけだ。よって川崎にとって試合を決定付けていたのは攻撃面よりも守備面にあった可能性が高い。

上の二つのグラフは各チームの攻守におけるシュート成功率とシュート1本あたりのゴール期待値をプロットしたものだ。まず左の攻撃から見ていくと川崎は横浜FMと同じく決定機を多く作ることでゴールを決めていたチームだ。しかし右の守備を見ると川崎は被シュート1本あたりのゴール期待値がリーグで3番目に高く、決定機を作られてしまっていたことがわかる。被シュート数は10.2本でリーグ2位にも関わらずだ。つまりシュートを打たれることは少ないが、打たれてしまう多くのシーンが決定機だったということだ。そのためシュートを止めるのが難しく、被シュート成功率は11.9%でリーグ17位という最初に紹介したデータとも繋がってくる。

このような川崎だったが、チームの守備を測る指標となる被チャンス構築率は10.2%でリーグ2位。また被ゴール期待値そのものは1.056でリーグ2位と一見川崎の守備が悪いように見えない。ここでなぜシュートを打たれることが少ないのに決定機を作られてしまうのかイメージすると一つの仮説が生まれてくる。それは川崎がシュートを打たれていたフェーズは守備ブロックを形成する前のトランジションの段階だったのではという仮説だ。つまり川崎が守備ブロックを形成できればめったにシュートは打たれないが、ネガトラでカウンターを打たれると対応できず決定機に繋がってしまった。

被カウンターはボールロストから始まる。昨季の平均ボールロスト数は146.8回だが今季は136.6回へと減少している。ボールロストが全て被カウンターになるわけではないが、昨季からカウンターを受ける機会が大幅に増加したとは考えられない。従って問題は被カウンターの量ではなく対応にあると考えられる。

4.ハイトランジションな試合展開

ここで一度データから離れてピッチ上の現象を思い出してみると、今季の川崎は相手の被カウンターを受けてボールを奪い返した後、マルシーニョへのロングボールで陣地回復やカウンターを狙うことが多かった。するとどうしてもオープンな展開になりやすくトランジションが増えてしまう。今シーズン全試合のボールロスト数とトランジション数の相関係数は0.865と非常に高い数字で強い相関がある(トランジション数の中にはボールロスト数とほぼ同義の被攻撃回数も含まれるため)。

上の二つの散布図は今季リーグ戦全試合のトランジションと走行距離・スプリントをプロットした図だ。両方とも相関係数が6を超えており強い相関が見られる。統計学的な前提として必ずしも相関関係=因果関係ではない。しかしこの二つのデータを見た時、トランジションが多いと走行距離やスプリントが増えるというのはサッカー的にありえることだ。従って今季の川崎はトランジションが多くなると、走るという意味での強度が上がったと言えると思う。そしてここからは便宜上たくさん走るという意味で強度が高いと使わせていただきます。

では強度が高いと川崎の試合結果に影響を与えたのか。さきほどのゴール期待値と同じ手法で見てみるとあまり関係はなさそうであった。しかしサッカーは相手あってのことなので対戦相手の走行距離とスプリントも参照する必要がある。

上の四つのグラフは全リーグ戦における川崎の走行距離・スプリントと相手の走行距離・スプリントの四つのデータの相関関係を調べたものだ。どれも強い相関が見られ、川崎が強度高い試合は相手も強度が高い(もしくはその逆)ことになる。この場合も単なる無意味な相関関係ではなさそうだが、どちらが原因でどちらが結果かまではわからない。しかし少なくとも言えることはトランジションが多いと、両チームとも強度が高くなっていたということだ。

5.強度が高い試合は好ましいのか

では両チームとも強度が高い試合は川崎にとって好ましいのか。前述したようにただ強度が高いだけでは川崎の試合結果に影響しなかった。またゴール期待値との相関関係も強くはなかった。ここで相手チームとの比較をするために、川崎と相手チームの走行距離とスプリントの差(川崎-相手)を使って同じ分析をする。

左:走行距離差の降順 右:スプリント差の降順

するとこのような結果になった。走行距離差に関しては相手の走行距離が川崎のよりも大きく上回っている試合では勝ち点を落としている。スプリントに関しては走行距離と同じようには言えないが、少なくとも川崎の方が相手より多くスプリントできている試合では勝ち点を落としていない。実に単純なことではあるが、今季の川崎は相手よりも強度が低いと勝ち点3を得ることが難しかったと言えそうだ。

では今季の川崎は攻撃と守備どちらのフェーズで強度が低かったのか。それを正確に測ることは難しいが、ボール支配率を走行距離とスプリントにかけてボール保持と被保持におけるデータを作り分析した。ボール保持と被保持で同じくらい走るわけではないので、非常に雑ではありますが。それを各チームで行った。

これがその結果だ。各チームの分析は別の記事で取り上げるとして川崎の位置を把握する。川崎は守備時において走行距離とスプリントどちらもリーグで最下位の数字だ。しかしリーグ最少失点で優勝した横浜FMも川崎と近い位置にいる。異なるのは攻撃時のスプリントだ。横浜FMや鳥栖は攻撃時での走行距離とスプリントが飛び抜けており、これらが守備時の少なさを相殺して上回るためトータルでも上位にきている。しかし川崎は攻撃時のスプリントがリーグ9位で特に攻撃時での強度が落ちたと言えるかもしれない。

このセクションの結論としては、川崎は平均的に攻撃時での強度が低く、トランジションが多く強度が上がった試合展開で相手に走り負けしてしまい勝ち点を落としたと言える。

たしかに最初に紹介したデータでも昨季からスプリントが激減し、相手との差もプラスからマイナスに転じていた。今季に勝ち点を落とした原因は、やはり強度不足にも関わらずトランジションを多くしてしまったことになりそうだ。

6.まとめ

戦術編でも述べたようにやはり今シーズンの川崎はハイトランジションな展開をするには強度が足りなかったチームと言る。来季に向けては、トランジションの多いアップテンポな試合展開をしたいなら昨季のように強度を高める必要がある。それが無理ならハイトランジションな展開に持っていかないように試合をコントロールしなければならない。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

7.データ引用元


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