2022シーズン川崎フロンターレ シーズンレビュー 戦術編
史上初のW杯が冬季に開催されるため2020シーズンのJリーグが11月5日に終了した。優勝は横浜Fマリノスで後半の追い上げもむなしく川崎フロンターレは2位で終わり2016シーズンぶりの無冠に終わった。昨季までの川崎が圧倒的に強かったとは言え、今季の川崎は非常に苦労した。この記事ではなぜ川崎が今シーズン落ち込んだのか考察し、そして来季の展望をしていく。
1.昨季からの問題点は最後まで改善されず
いきなり厳しい見出しをつけたが、はっきり言って今季優勝できなかった要因は昨季からの問題点を改善できなかったことだと思う。
上の記事は昨季のシーズンレビュー兼今季への展望だが、この記事内では川崎の弱点をビルドアップとハイプレスだと指摘した。これを改善しなければ来季は難しくなると考え、改善策として3バックの運用やSBのポジショニングなどを紹介した。
また2019シーズンに他チームから対策された結果三連覇を逃した反省から鬼木監督は大きく変えてくるのではという期待があった。キャンプでのテーマは「スピードアップ」という抽象的なものだった。個人的には大きく変えるべきだと思っていたので多少疑いはあったが、鬼木監督を信頼しているので特に気にはしなかった。しかし蓋を開けてみるとシーズン当初から苦戦が続き、キャンプで何をしていたのかという試合が相次いだ。もちろんハイプレスやビルドアップは改善されなかった。
ここからはハイプレスとビルドアップにおけるピッチ上の現象について紹介する。
・ハイプレス
川崎のハイプレスは433でWGが相手CBへ外切りのプレスをかけるのが原則。しかし場合によってはCFが相手ボランチへのパスコースを切りながらプレスをかける。このように川崎のハイプレスで肝となるのは"カバーシャドウ"や"コースカットプレス"と呼ばれるパスコースを切りながらプレスをかけること。しかしこのハイプレスも研究されフリーとなっているSBやボランチにパスを付けて川崎の中盤三枚を動かすビルドアップをされることが多かった。
例えばWGがパスコースを切れないままプレスをかけてしまい、相手SBに出されてしまう。すると川崎はIHがサイドに追撃しにくる。この状況では川崎のSBがハーフスペースにいる選手とサイドに張っている選手で数的不利になる。ここでSBが前に出れば裏を使われてしまうため、基本的にアンカーがスライドする。しかしそうするとボランチに落とされて逆サイドへ展開されてしまう。
この例ではCBからSBへ直接パスは出せないがボランチを経由してレイオフでSBに出されてしまう。ボランチにパスが入った時点で川崎はアンカーかIHが捕まえに来るので、その背後で再び相手チームの数的優位ができる。
このように川崎はWG裏である相手SBを経由されてしまうことで中盤三枚が動かされてスペースを作ってしまう。しかしSBが空くというのはこのプレスの構造上の弱点であるため、これ自体は問題ではない。問題なのはパスコースを切りきれないでプレスに行ったり、SBだけでなくボランチの選手までフリーにしてしまうことだ。たとえSBに出されてもCFがボランチを捕まえればCBはWGが近くにいるため、相手チームは逆サイドに振ることができず、同サイド圧縮を完成させられる。このような細かい部分が未完成だったためハイプレスがハマらなくなってしまった。
・ビルドアップ
そして川崎のビルドアップの問題点は相手の同サイド圧縮から逃れられないことだ。
上の図は川崎のビルドアップでよく起こる現象で、GKからCBそしてSBへとパスが出るが、CB(谷口)もSB(登里)もトラップした時にボールを外側に置いて体を外側の向きにしてしまう。これでは中央からプレスをかけてくるCFやSHの逆をつけない。つまり彼らが誘導してくる方向にパスを出すしかなくなってしまう。その結果同サイドの川崎の選手は全て捕まっておりパスの出しどころがなくなってしまう。
もしCBやSBがプレスをかけてくる相手に正対してトラップできれば、相手選手は左右どちらにパスを出されるかわからないため、プレスが弱まって時間もできる。そうすればスペースのある逆サイドへボールを展開できる。これを続けることで相手のプレスが間に合わなくなる。ビルドアップ隊にとって大事なのはプレスをかけてくる相手に逃げる向きでプレーするのではなく、正対して相手を止めることだ。ちなみにシーズン後半に出番を失ったが佐々木はこれができる。
・不調な川崎が陥る負のスパイラル
このようなピッチ上の問題点があり、もちろん全試合が内容の悪いものではなかったが、特に敗戦した試合ではこれから紹介する負のスパイラルに陥っており、横浜FM、湘南、C大阪そして札幌などは強度高くプレスをかけてきたため大量失点や敗戦に繋がった。
まず川崎のアイデンティティはボール保持。そのため低い位置からのビルドアップからプレーを開始する。しかし前述したような問題からビルドアップが不安定になる。そしてCBやGKからラフにボールを蹴り相手チームへボールをプレゼントしてしまう。それならまだ良いが、ビルドアップを安定させるために家長が出張して中央以左の狭いスペースで突破しようとする。しかしプレスにハマりボールを失う。すると家長が出張しており山根が高い位置を取っているためそのスペースでショートカウンターを受けて失点してしまう。これは低い位置でのビルドアップのみに限らず敵陣でのボール保持でも起きた現象だ。
そしてロングボールで相手にボールを渡してしまうためハイプレスでボールを奪回しようとする。しかしこれまた相手チームに対策されてハイプレスを突破されて疑似カウンターを受け失点に繋がったり、低い位置でボールを奪い返して再び不安定なビルドアップをすることになる。
ビルドアップでロングボールを蹴ったりハイプレスを突破されることで、縦に移動することが多くなり運動量が上がってしまう。川崎の中盤は運動量を武器にした選手は橘田くらい。橘田が五人いると称賛されるが、裏返せばそもそも橘田が人五倍仕事をしなければならないほど、オープンな展開で他の選手が仕事をできていないという意味でもある。
従ってビルドアップとハイプレスの問題点から自ら試合のテンポを上げてしまい、後半にオープンな展開で運動量が落ちてパフォーマンスが落ちてしまうというのが不調川崎が陥っていた負のスパイラルだ。
これを図にしてみました。
また、このスパイラルについてはデータ編でも詳しく取り上げますので、そちらもぜひご覧ください。
2.今季の不調は誰の責任か
おそらく川崎サポの多くは今季の責任は強化部にあると考えているかもしれない。しかし個人的には今季の責任は鬼木監督が大きいと考えている。ただ先に言っておきたいのは鬼木監督のおかげで2位で終わることができたのもまた事実ということだ。
今季はシーズン中での負傷者やコロナ感染者など不可抗力が大きく、鬼木監督の言葉を借りれば自分たちではどうしようもできないこともあった。そんな中で最終節まで優勝争いに参加できたのは鬼木監督のマネジメントがあったからだ。それは間違いない。
私が鬼木監督の責任を追及したいのはシーズン中ではなくキャンプについてだ。前述したように2019シーズンの反省から今季は大きく変える必要があっただろうし、ハイプレスとビルドアップに問題点があるのは明らかだったと思う。しかしそこに手をつけず今季終了まで改善されなかった。改善するための選手が揃っていなかったという意見もあるかもしれないが、昨季よりも選手層が落ちているのであれば、なおさらやらなければいけないし、チャレンジして負けた方が良い。
そして強化部の強化ミスという意見だが、近年主力だった守田、田中、三笘、旗手は全てルーキーで川崎に加入した生え抜き。ご存じのように川崎は移籍組がなじむのに時間のかかるクラブで補強をしていてもそれが今季にレギュラーとして活躍できたか疑問がある。また先の四選手は今や欧州や日本代表で活躍しており当時のJリーグトッププレイヤー。彼らのようなレベルの選手を複数人補強できるかと言われたら難しいだろう。それよりも昨季から所属している選手の底上げを期待する方が理にかなっていると思う。従って強化部が最も大きい責任だとは思わない。
これは個人的な意見だがチームの戦術的な問題点を補強で解決してもそれは対処療法でしかなく、チームにとって長期的な利益にならない。その選手が抜けたら再び同じ問題が起こるからだ。私としては今のチームでやることがあるんだから、それに挑戦して欲しかった。
3.来季への改善点
まず根本的に前述したようにハイプレスやビルドアップを改善することが必須だ。それ以外の細かな部分をここで取り上げる。
・グランダークロスへの入り方の原則
川崎は2021シーズンにクロスから26ゴールを上げたが、今季は14ゴールに留まった。クロスのCBPは両シーズンでほぼ変化はなかった。つまりクロスのチャンスは変わらなかったが、なかなか決め切ることができなかったということだ。
その改善点として上のスレッドで取り上げたようにクロス(特にグランダーの)への入り方を取り上げたい。川崎はグランダーのクロスが入ってくる時、ゴール前にいる選手が同じスペースで被ってしまったり、適切なスペースに選手がいなかったりする。
清水戦のレビューで取り上げたように、グランダーのクロスへの入り方の原則は、ニアへ飛び込む選手、ファーで待機する選手、マイナスでスペースを使う選手の三選手が必要だ。清水はこれがしっかりできていたためクロスからゴールを奪えていた。しかし川崎はおそらくこの原則が無いため、クロスの出し手と受け手のイメージが合わないことが多々あった。このような原則や優先順位を決めることでクロスの得点は増えると思う。
・マンツーマンプレスへの対応
前述したようなビルドアップの改善策は人を捕まえるゾーンでのハイプレスに対してのものだ。札幌のようにオールコートマンツーマンでプレスをかけてくる相手には別の対策が必要だ。
上のスレッドでマリノスをお手本としてマンツーマンプレスの対応策を書いた。マンツーマンプレス相手には中盤の選手が動き回り、DFからFWなど2列を越えたパスコースを作ることが第一段階。2列超えるパスを出せればパスの受け手が前を向けなくてもレイオフで他の選手が前向きにボールを受けれる。マンツーマンプレスの特徴として責任がはっきりしているため前向きのプレスは強い。しかし責任がはっきりしているデメリットとして、自分以外にパスが出ると気が緩んでプレスバックが遅れる傾向がある。そのためレイオフを使って一列飛ばされた選手にパスを出せると前向きでボールを持てる。
またマンツーマンプレスの相手にはビルドアップではなく前線へのフィードで前進するのも方法の一つだ。ただ今季の後半からソンリョンのフィードがCFまで届かないシーンが見られるようになった。マンツーマンプレスに対抗するためにもGKのフィード能力も必要となる。
4.まとめ
ここまで述べてきたような問題点があったため、今季は苦戦を強いられてしまった。問題点で終わるのではなく改善策まで提示して来季へ希望を持てる記事にしたつもりです。来季は若手も多く加入してくる。監督含めて来季の陣容がどうなるかわからないが、これらの改善をして来季もタイトル獲得へ頑張ってほしい。フロントからコーチ陣そして選手のみなさん過密日程のシーズンお疲れさまでした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
5.データ引用元
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