見出し画像

川崎フロンターレからわかった昨季バルセロナ不調の原因

先日、自分が応援している川崎フロンターレの2020シーズンをデータで振り返るという記事を書きました。その中で以下のようなグラフとともに紹介したデータがあります。

画像1

説明させていただくと、青い棒グラフは各節のパス数を白い数字はパス成功率を表しています。そして今回のテーマとなる赤い面はパス数をシュート数で割ったもの、つまりシュート1本あたりのパス数(以下 Pass Per Shot PPSとします)を表しています。

何故こんなデータを紹介したのかと言うと、フロンターレの試合を見ていて、苦しむ試合は相手チームが高い位置からプレッシャーをかけてきてなかなかボールを前進させることができなかったことが多かったと感じたからです。
ということはなるべく少ないパス数でシュートを打った方が良いのではと仮説をたて、上のグラフを紹介しました。すると既に紹介した通り仮説通りであったことがわかりました。
しかしこれはフロンターレのことだけではないかという疑問が生じます。この記事ではこの仮説は本当に正しいのか検証しようと思います。

1.仮説

今回の検証で使用するデータの説明をする前にまずは仮説を再度確認します。

PPSが少ないチームは得点が多いのか

これを仮説として検証していきます。もちろんPPSが少ないチームの方が勝利するわけではありません。勝敗には失点も関係してきますので、今回はあくまでPPSと得点との関係性があるという仮説を検証していきます。

2.使用するデータと検証方法

次に紹介するデータを紹介します。前提として既に述べたPPSと得点の関係性を調べるわけですが、得点としてしまうとPPS以外のシュート決定率という別の要因が関係してしまいます。得点にはチームとして良い攻撃をしなければなりませんが、最終的にはシュートを打つ人の個人の能力シュート決定率に依存します。ですのでPPSとの関係を調べるのに得点というデータは適切ではないと思います。そこで得点の代わりに別のデータを使用する必要があります。そこで今回はゴール期待値で代用しようと思います。

次に検証方法について。仮説であるPPSが少ない試合(チーム)は得点が多いのかを言い換えるとPPSと得点(ゴール期待値)には関係性があるのかどうかとなります。これを検証するためにゴール期待値を横軸にPPSを縦軸にとった散布図を作成します。その散布図と相関係数(2つのデータに関係があるのかを示す)で検証します。もし検証が正しければPPSが少なければゴール期待値が高いので、負の相関関係が強くなるはずです。

2.Jリーグ

まずはみじかなJリーグから検証していきます。検証する範囲は2020シーズンのJ1全チームで、使用するデータはゴール期待値とPPS(パス/シュート)です。

画像3

こうして見てみるとトレンドラインから離れたチームが多く、この2つのデータに強い関係があるとは言えません。相関係数は-0.496と相関関係があるとは言えません。つまりこの結果ではPPSが少ないチームほど得点が多くなるとは言えません。しかしここで疑問が生まれます。Jリーグにはさまざまなスタイルのチームがあり、ポゼッション指向のチームもあればカウンター指向のチームもあります。さまざまなチームスタイルがある18チームを一緒に検証していいのかということです。

今回の検証の原点はフロンターレから始まりました。フロンターレはご存じの通りポゼッション指向のチームです。そこでJ1リーグでボール支配率が50%以上のチームで再検証したいと思います。

画像5

これがその結果です。全チームの散布図よりもトレンドラインに近いチームが残りました。チーム数が9チームなので正確とは言えませんが、相関係数は-0.698と強い相関関係がありそうです。この結果からポゼッションを指向しているチームではPPSが少ないほどゴール期待値が高くなると言えそうです。
しかし大分と鹿島がトレンドラインから少し離れたところに位置しています。大分は疑似カウンターと言われる戦術で、自陣でボールを繋ぎ相手をおびき出してから、ロングボールでカウンターのように攻めます。それによってパス数が多くなりこの位置にいると考えられます。
鹿島はこの検証結果から言うと、このPPSをたたき出せるのならば本来はもっと高いゴール期待値も出すことができたと言えると思います。シーズン序盤に苦戦した鹿島ですが、もしシーズン中盤以降のパフォーマンスを序盤から出せていたらゴール期待値があがり、フロンターレと優勝争いを繰り広げていたかもしれません。

3.チャンピオンズリーグ

Jリーグのデータで検証した結果は仮説が部分的には正しいのではないかという結論に至りました。しかし使用チーム数が18チームで最終的には9チームで少ないこともあり、正確性のある結果とは言えません。なので次に19/20シーズンのチャンピオンズリーグでも同様に検証してみたいと思います。

まずは全チームのデータです。

画像4

チーム数が多くチーム名を書くと、わかりにくくなるので省略します。
こうして見ると、かなりばらつきがありやはりJ1リーグと同じで相関関係があるようには見えません。相関係数も-0.309と相関関係はないと言えるでしょう。ここでJ1リーグと同じくボール支配率50%以上のチームでもう一度検証してみます。

画像5

ボール支配率50%以上のチームということで強豪が残りました。こちらもJ1リーグと同じで全チームよりもトレンドライン周辺に固まり相関関係があるように見えます。その相関係数は-0.615でやはり強い相関関係がありそうです。つまりチャンピオンズリーグでも仮説は正しいということがわかりました。
ここでもまた外れ値のチームがいます。それはバルセロナです。14チームで唯一トレンドラインから大きく離れた位置にいます。昨シーズンのチャンピオンズリーグを思い出してみましょう。優勝チームはバイエルンでゴール期待値も3点近く、散布図では一番右下に位置しています。そのバイエルンは準々決勝でこのバルセロナと対戦し8-2と圧勝しました。バイエルンが素晴らしかったのはもちろんですが、バルセロナにも原因があったはずです。ボールポゼッションは50%でバルセロナがボールを握れなかったわけではありません。しかしゴールが遠かった。その原因がこのPPSだと思います。今大会でバルセロナはPPSが多くなってしまったために、このような結果になっってしまいました。なぜPPSが多くなってしまったかは詳しく試合を見る必要があると思いますが、おおまかな原因は特定できました。

4.データ引用元

Football LAB

FBref

6.その後の進展(Twitter)


5.まとめ

J1リーグとチャンピオンズリーグで検証した結果、どちらも部分的に仮説が正しいということがわかりました。一応プレミアリーグでも検証してみましたが同じ結果でした。つまりポゼッション指向のチームはPPSを少なくすればゴール期待値が高くなり、ゴールの可能性が高くなるということがわかりました。
PPSを少なくするのは監督の腕の見せ所です。もし自分がポゼッション指向のチームを応援していて不調な時にPPSを調べ、もしそれが多いのであればビルドアップの部分で上手くいっていないとわかります。一方で、PPSは低いのにゴール期待値が低かったり、ゴールが増えないのであればフィニッシュの質が悪いということがわかります。

ここまで私が考えたPPSという指標を紹介してきましたが、最後にこの指標の欠点も説明したいと思います。PPSを試合の分析のために使用した場合に、その試合のシュート数が0だったとするとPPSは0(数学的にはなし)となってしまいます。この場合は注意が必要です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。オフシーズン中にはまだまだデータ関連の記事を書く予定なので是非よろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?