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J1第22節 名古屋グランパス対川崎フロンターレ データレビュー

フロンターレも名古屋も連戦から少し休暇があり万全の状態で迎えることができたこの首位対決。どのメディアでも「矛盾対決」として取り上げられた。まさにその通りで12試合30得点のフロンターレと12試合3失点の名古屋という首位対決は引き締まった試合になると予想していた。しかし試合が始まるとフロンターレは23分で3得点を決め既に勝負あり。フロンターレの強さが再確認できた試合だった。しかし名古屋は監督不在だったことなど力を全て出し切れたわけではないと思う。火曜日のホームゲームに向けて試合を振り返る。

以下文中にでてくる独自の言葉です。詳しくはリンクをクリックしてください。

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EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.スタメン

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2.前半~勝負を決めた3得点の要因~

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前半は23分で3得点したフロンターレのペース。前半の交代後くらいから名古屋もボールを持つ時間が増えたこともありボール支配率はフロンターレの59%。EPPは45分平均の50.4とほぼ同じ50.8を記録。PPSは平均の39.6を下まわる33.9。フロンターレにとって前半は自分達のスタイルを出した完璧と言える試合展開だった。パスヒートマップで注目なのは裏へのパスが0本だったこと。手集計なので人によっては変わるかもしれないが、少ないことには変わりは無いはず。フロンターレが上手くいく試合は裏へのパスが多い。しかしこれは逆の結果に。また右サイドよりも左サイドの方が多く、バイタルハーフへのパスは右が6本で左が10本。この原因についてはのちほど。

一方名古屋はフロンターレがボールを持つ時間が長くなることはわかっており、名古屋は自慢の守備力で守りながらも攻撃の意識を持ち続けたかったはず。それが上手くできたならばフロンターレも難しかったはず。しかし早い時間帯に2失点してしまったことで、守備が機能しなくなりそれが攻撃に繋がらないという悪循環に陥っていたと思う。名古屋のデータについては印象とそのままだと思うので特に触れません。

・名古屋の機能しなかった同サイド圧縮守備

まず試合前に名古屋がやってきたら嫌だなと思っていたのがハイプレス。もちろん適当にハイプレスをかけてきてもフロンターレはかわすことができるが、柏や神戸のようにしっかり狙いを持ってやられるとフロンターレは苦戦する。しかし名古屋はハイプレスは行わなかった。

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これは2分20秒のシーン。山根がボールを持っているが相馬はプレッシャーをかけずステイ。このことからも名古屋がボールを奪いにいくことよりもスペースを埋めることを優先していたことがわかる。そして名古屋の2トップはかなりサイドに絞っており逆サイドにスペースができている。このとき山根は全くプレッシャーを受けていないので逆サイドが見えており谷口にパス。

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そこへ旗手が降りてきてパスを受け、ノボリがカンセロロールでバイタルハーフに侵入。そこにパスが出た。

この流れでわかるように名古屋は2トップもボールサイドに圧縮して守っていた。しかし先述したように名古屋はプレッシャーをかけるよりもスペースを意識していた。するとフロンターレのDFラインにはプレッシャーがかからず常に顔を上げることができる。さらに一応柿谷がシミッチを監視する素振りは見せていたが、フリーにしてしまうシーンが多く実質4バックと1アンカーはノープレッシャーだった。その状態で同サイド圧縮守備をしたら上図のように逆サイドに突破されてしまう。同サイド圧縮守備を行うためには相手のSBやSH(WG)などサイドの選手が持った時、プレッシャーを強めなければならない。しかしそれを行わなかった名古屋は簡単に突破されてしまった。

この同サイド圧縮守備を突破するシーンは前半特に名古屋が選手してシステムを変更するまで多く見られた。それも上で紹介したシーンのように右から左が多かった。

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これは6分55秒のシーン。右サイドでボールを回していたフロンターレはフリーになっているシミッチを経由して左バイタルハーフの旗手へパスを出した。このシーンのように名古屋がスライドして守備をしている時、逆サイドのSHがスライドしきれていないシーンが多かった。相馬もあったが特にマテウスが多かった。これが左バイタルハーフへのパスが10本と多かった原因。しかし単純にマテウスのスライドが甘いからこのシーンはマテウスが悪いというのは違うと思う。
理由は2つあり、1つめはフロンターレの遊びのパスが非常に上手いから。このシーンを見ればわかるがシミッチの前に家長とジェジエウの間で遊びのパスが出されている。それによって米本が家長につられ、そのカバーのために稲垣もつられた結果マテウスと稲垣の間にパスコースができた。
2つめはライン間のフロンターレの選手5人に対して名古屋のMFは4人なのでパスコースを全て塞ぐことができないから。逆に言えばMFが5人になれば塞ぐことができる。選手交代で433(守備時451)に変更して安定したのはこれが原因。40分10秒のシーンを見るとMF5枚でパスコースを切れているのがわかる。

13分45秒のシーンもほぼ同じことが起こっている。この2つを利用してフロンターレがペースをつかみ3得点したことで、名古屋がメンタル的にきたのか守備ブロックが間延びするようになった。

3.後半~名古屋が効果的に攻められなかった原因~

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後半のボール支配率は名古屋が57%とボールを持つ時間は名古屋の方が若干長かった。しかしシュート数は名古屋が4本でフロンターレが7本。名古屋のEPPは39.7と高くはない数字。やはり効果的に攻めることはできていなかった。パスヒートマップを見てもわかるように名古屋のボール回しは外側でフロンターレの守備ブロックの中へのパスは少ない。この外回りのボール回しになってしまった原因はのちほど。

一方でフロンターレはEPPが50.8から46.4に少し減少したものの、PPSは33.9から29.4へ減少。つまり少ないパス数でシュートを打っており、その少ないパス数が効果的であったということ。前半と同様にフロンターレは左サイドの攻撃が多く左ファジーゾーンへのパスが10本となっている。また裏へのパスが0本から6本に増加している。名古屋がボールを持つ時間が増え、フロンターレはボールを奪ってからのカウンターで背後をつく攻撃が増えた。それがPPSの減少に繋がっている。

・名古屋の433攻撃における問題点

名古屋は前半の30分に選手交代をしてフォーメーションを4231から433に変更した。その守備面での変化は先述した通り。後半ではボールは握れたのに効果的に攻められなかった原因について。

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これは51分50秒のシーン。名古屋の433攻撃はフロンターレと違いWGが内側でSBが外側を取る。そうするとCBとSBの距離が離れてしまうためIHやアンカーがクロースロールなどで中継地点を取ることがある。名古屋はそれを米本、長澤、稲垣の3人が臨機応変に行っていた。しかし毎回やるわけではない。そうするとIHやアンカーはダミアンの周りでボールを受けようとする。この時注意が必要なのはこの3人がライン間にいる選手へのパスコースを塞いでしまうこと。上図の場合は木本からバイタルハーフにいるマテウスへのパスコースを味方の米本が塞いでしまっている。このようにライン間へのパスコースをスキップロードと呼んでいます。このスキップロードを塞ぐチームはかなり多い。フロンターレの場合はWGが幅をIHが内側を取るので構造的にそうなることはない。
実際に55分20秒のシーンはスキップロードを塞いでいる選手はおらず、丸山から柿谷へパスが通りチャンスになった。このとき丸山は旗手に対して正対しており、旗手は柿谷と長澤に的を絞れていなかった。

もう一つ名古屋の攻撃が上手くいかなかった原因がある。

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これは47分40秒のシーン。WGが内側に入りSBが幅を取ると先述したが、WGが幅を取りSBも幅を取ってしまうワイドワイドになってしまうシーンもいくつかあった(この直前の47分15秒では右サイドでおこっている)。このシーンもそうで相馬が幅を取っているが他の選手がバイタルハーフに入る動きはない。バイタルハーフに人がいないのでジェジエウはスライドする必要がなくゴール前でステイできている。もしバイタルハーフに人がいればジェジエウをつり出せるため、フロンターレのDFラインにギャップができる。このようにバイタルハーフに人がいてもスキップロードを塞いだり、そもそもバイタルハーフに人がいないことが多くあったためバイタルハーフへのパスが少なく外回りのボール回しだった。

・使われなかったフロンターレの弱点

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これまで何度も書いておりおなじみのフロンターレハイプレス時の弱点であるWG裏。これは86分10秒のシーンだがここを狙うことはなかった。このシーン以外にフロンターレのWG裏でSBがボールを持つシーンはいくつかあったが、その後にスピードアップしないためWGが戻ってこれていた。ここを狙っていたのは神戸と東京。ここを狙われていたら試合は変わっていたかもしれない。特に家長サイドではプレスバックが遅いので危険だった。

名古屋の攻撃での問題点について書いてきたがこのような試合展開にさせたのはフロンターレ。早めに3点取ったことで名古屋にボールを持たせ、守備をしっかりと行うことで勝利できた。

4.まとめ

前回、東京戦のレビューで采配に?がつく内容だったと書いたが、今回は名古屋がハイプレスやWG裏を使うなど嫌なことをしてこなかったとはいえ完璧と言える試合運びだった。やはり前半の3点が勝負を決めており、その3点を生んだのはフロンターレの技術の高さと遊びのパスの巧みさだったと思う。次のホーム名古屋戦では名古屋がどういうことをやってくるのか注目。最後まで読んでいただきありがとうございました。

5.データ引用元


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