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J1第12節 川崎フロンターレ対名古屋グランパス データレビュー

中4日で迎えた首位決戦2ndレグ。プレビューでは盾盾対決として取り上げたが実際は3-2という得点が入る展開に。鬼木監督が言っていたとおり、フロンターレとしては後半早めの時間で3-0になったことで気の緩みが出たと思う。そこをついて2点を決めた名古屋は流石。この2失点は今後の課題であり、勝ちながら修正していきたい。また名古屋は前節からの修正がある程度上手くいっており、名古屋本来の守備が見れたと思う。前節の名古屋はずるずる下がるだけでボールにアタックできていなかった。しかし今節は中盤でのボールアタックが多かった。実際に両チームの中盤3人の地上戦回数の合計は35回から68回と倍ちかくになっている。

以下文中にでてくる独自の言葉です。詳しくはリンクをクリックしてください

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EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.スタメン

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2.前半~名古屋の攻守における修正~

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前半開始10分くらいは中盤でボールの奪い合いが続き試合が落ち着き始めたのは12.3分くらいから。それ以降は両チームともビルドアップからボールを繋ぐシーンが増え始める。この詳細はのちほどやるとして、前半の流れとしてはフロンターレが若干ボールを持つ時間は長かったがEPPは名古屋の方が若干高く39.4。フロンターレの36.8は45分間平均50.5を大きく下まわっている。このデータだけ見るとフロンターレは上手くいかなかったように見えるが、単純にボールを持つ時間がいつもより少なかったためEPPは減少した。さらに名古屋のPPSはフロンターレの51.8より高い70.3。EPPとPPSの両方を見るとフロンターレはそこまで悪い内容ではなかったとわかる。

ここでパスヒートマップを見るとお互いに左サイドから攻撃していたことがわかる。フロンターレは家長がかなり自由に動き回っており左サイドでの突破を助けていた。その影響で右バイタルハーフへのパスは3本とかなり少ない。また名古屋の守備によってライン間へ刺すパスは少なかった(ライン間への45分間平均は16本だが今回は12本)。もう一つ注目なのはフロントエリア。ここへのパスは7本と2番目に多い数字。名古屋はシミッチへの監視を強めたが、それによってできたこのスペースで碧や家長や旗手がパスを受けるシーンが多かった。このフロンターレのビルドアップについてはのちほど。
名古屋の左ファジーゾーンへのパスが12本でダントツに多いのはカウンターでマテウスを使って攻めるシーンが多かったから。それ以外では特徴的なデータはない。

・名古屋の守備での修正策

前節のレビューでは名古屋が守備時にシミッチをフリーにすることが多く、そこから起点になっていたと書いた。そこを名古屋は前半しっかり修正してくる。

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これは9分25秒のシーン。前半はシミッチを基本的に誰かが監視していた。多くは稲垣や山崎が担当していた。おそらく前から奪いに行くときは稲垣が、ある程度ブロックを作るときは山崎が監視することになっていたと思う。前節はレビューで書いたように前半フォーメーションを変えるまでMFが4人に対しフロンターレのライン間にいる選手は5人ですべてのパスコースを切ることができなかった。しかし451ブロックだとすべてのパスコースを切ることができる。このシミッチを監視してライン間へのパスコースを全て切ることができていたのがこのシ-ンだった。このような守備をされた結果パスヒートマップで見たようにフロンターレがライン間へ刺すようなパスは少なかった。
前節は早い時間帯に失点したことで名古屋が上手くいかなかったが、今節の上のシーンのように全ての選手がしっかりとパスコースを消し、最初に書いたように地上戦をしっかりとすることが名古屋の守備の秘訣なんだと思う。

名古屋の守備の修正策はこれだけではなく、上のシーンのようにCBにボールを持たせてプレッシャーをかけないことが多かった。谷口とジェジエウはそこまでビルドアップが上手いわけでもなく、この二人の意外性から崩すようなシーンはなかなかない。そうなるとこの二人にボールを持たせて守備ブロックに人数を割く選択は良かったと思う。

これに対してフロンターレはどうやって対抗したのか。

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これは先制点のCKを得る直前のシーン。シミッチがフロントエリアにいると稲垣や山崎が監視するためボールを受けれない。そのためシミッチはCB間に落ちてダウンスリーの形になる。それに対して稲垣はタイトに付いていくことはしない。しきりに後ろを確認しているので後ろのスペースが怖いからだと思う。実際にシミッチがいなくなったことでできた緑のスペースで旗手や碧がボールを受けようとしている。ここでシミッチ以外の選手が動きながらボールを受けることが多かったのでフロントエリアへのパスも多くなった。このシーンではこれを気にして稲垣はシミッチへのプレッシャーが遅れた。その結果大きく展開されてしまった。同じようなシーンが15分20秒にもあった。シミッチのロングパスは5/7回成功しておりチームトップ。名古屋はシミッチがどこにいてもマークをついていくべきだったと思う。

・名古屋の攻撃での修正策

次に名古屋の攻撃での修正策について。これも前節のレビューで書いたことだが、フロンターレのハイプレスの弱点はWG裏。ここを相手チームが意図的に使ってくると守備面では苦しい。これを名古屋はやってきた。やってきたと言ってもおそらく第二選択肢。WG裏を使えるシーンでも名古屋CBは縦パスを伺っていたので縦パスが無理ならWG裏という順番だったと思う。

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これは18分25秒からのシーン。いつもどおりダミアンがアンカーを抑えて三笘は中谷と成瀬の中間ポジションをとり、碧と旗手は相手のIHを監視してシミッチがバランスをとる。ここで空いてくるのは成瀬。ここに中谷は浮き球でパスを出した。そうすると次に空くのは3センターの脇。ここに山崎が降りてきて成瀬からパスが出た。このシーンでは谷口がインターセプトしたが崩しとしては良かった。また28分5秒も同じようなシーンがあったためこのフロンターレのハイプレスの構造はスカウティングされていたと思う。

3.後半~すべてが繋がっているフロンターレのハイプレス~

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後半のボール支配率は名古屋の68%ということもありフロンターレのEPPは25.6にまで減少した。そのためパスヒートマップを見てもほとんどパスが入っていない。それでも左ファジーゾーンへのパスは8本と三笘がいかに重要かがわかる。2点目もプレビューで書いたとおり左サイドからのドリブル突破から。逆に名古屋はボールを持つ時間が圧倒的に増えたにも関わらずEPPは41とほぼ変化しておらず、PPSは113にまで増加した。フロンターレがボールを持たせていたという方が正しいかもしれない。ただ終盤は怪しかったけれども。

前半とは変わって今度は右ファジーゾーンが最も多く11本という名古屋。フロンターレ同様いかにマテウスが重要かがわかる。2点ともマテウスが絡んでるし。ボールを持つ時間が長かったがそこまでライン間へのパスが多いわけではない。これは名古屋がボールを持つことになれていないからだと思う。前節のレビューでも書いたがバイタルハーフに人がいなかったり(79分20秒)などがあり、そのバランスの悪さを学が埋めていたと思う(87分35秒)。1点目もカウンターで学がドリブルしてからの展開。

・名古屋の対策を利用したフロンターレのポジトラ

失点前まではフロンターレは名古屋にボールを持たせ高い位置からボールを奪いにいっていた。レビューでも書いたように名古屋はボールを持つのが得意ではないのでこれは良かった。さらに持たせるだけでなく、名古屋の修正策を利用して奪ってからのことも考えられていた。

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これは46分30秒のシーン。まさにフロンターレ攻略のお手本のようなシーンだったと思う。家長が高い位置をとっているので吉田はその裏を使うため高い位置に侵出。後半からマテウスが内側に入ることが増えたためこれができるようになった。その吉田へ丸山が浮き球でパスを送る。この時マテウスがバイタルハーフにいるため山根は外に出れず吉田に時間ができた。この後の吉田の精度が悪かったがここまではフロンターレ対策と5レーン理論のお手本のようなシーンだった。56分55秒も同じようなシーンで吉田がクロスを上げた。ただこの試合で多くクロスを上げていた吉田とマテウスのクロス本数は0/40/14と最後の質が伴わなかった。

このような攻め方をしてきた名古屋だがフロンターレはこれを利用した。

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48分30秒のシーン。吉田がWG裏つまり家長より高い位置でボールを受け、内側にいるマテウスへパスをした。しかしジェジエウがこれをインターセプトし碧へパス。その碧は吉田の裏にいる家長へパスを出した。
フロンターレのハイプレスの構造はWGが中間ポジをとるため相手SB裏に残り、ダミアンがボランチを抑えているため少し低い位置に残る。そして中央にボール奪取ができる碧やCBがいる。その中央で奪えるとダミアンを起点にしてSB裏に残っているWGを使うことができる。このシーンはまさにその構造が上手くいったシーンだった。
名古屋はWG裏を使うために吉田が高い位置をとっており、その裏をポジトラで家長が使うことができた。このように名古屋のSB裏をハイプレスの後に使うシーンが他にも77分10秒や89分55秒もあった。

4.まとめ

名古屋は前節の修正+さらなる対策をしてきて、それをフロンターレは利用したハイプレスからよポジトラで対抗するなど見応えのある試合だったと思う。これで名古屋との勝ち点差は9に開いた。プレビューではマリノスがいるのを忘れてしまって独走態勢とか書いたが、マリノスが2試合とも勝てば勝ち点差は5。さらに言えばだいたい1試合平均勝ち点が2だと優勝争いのレベルだと思うので、鳥栖と名古屋もそれくらいの成績を残している。まだまだ油断してはいけないなと思った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

5.データ引用元


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